自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
文学座「食いしん坊 万歳!」を紀伊国屋サザンシアターで観劇した。正直言うと、今さら正岡子規の評伝ものを見たいとは思ってなかった。午後6時40分ごろ、劇場について上演時間を見たら、2時間40分(15分の休憩含む)にあると知って、観劇した日が朝5時から働いて疲労困憊だったので、8時5分の休憩時にこっそり退散しようかとまで考えていたのだ。
じゃ、何でそんなことまでして劇場に行ったのか?と言われたら、それは久々に、新橋耐子さんの名前が出演者にクレジットされていたことが第一である。昨年、とうとう平幹二朗さんまで亡くなられて、もう舞台で見たい役者がほとんどいなくなってしまった(歌舞伎の若手で良いのは何人かいるけれど)なあと思っていたのです。
20代の頃から新橋さんの芝居は、杉村春子さんとの共演で何本も見てきたけれど、文学座で杉村さんとの舞台の時には、アンサンブルを大切にされていて、文学座の俳優陣のおひとりという感想しか持っていなかったのだけれど、これも20代のころ、初めて井上ひさしさんの芝居を見たのが、「頭痛肩こり、樋口一葉」で、その舞台で花蛍というお化けに扮した新橋さんのスゴかったこと。面白かったこと、哀しかったこと。その後は意識していろんな外部公演、例えば、蜷川幸雄さんやら、最近ではケラリーノサンドロヴィッチさんの演出の舞台でも見たのであります。
ちなみに、井上芝居は、これがきっかけで見始めたわけですが、なかなかこれ以上に面白いのに出会えなかった。僕はこれと渡辺美佐子の演じた「化粧」かなあ。あれにも泣いた、この二本は芝居ってすごいなあと心から思った作品である。
誰が読んでいるか分らないSNSなのでさらっと書くが、遅すぎた青春時代?のごとく、演劇に全精力を傾けていた40代のころ。
たまたま、新橋さんが、僕が出してもらったフランス翻訳物の二人芝居をたまたま見て下さって、そして、褒めてくれたのです。それだけでなく、その芝居に折り込んでいた僕のやっていた演劇の出演者募集のチラシを見て、出ると言ってくれたのです。ということで、僕の作演出の舞台にまで出て下さった。これはもの凄いことです。2010年ことでした。
40も過ぎて演劇なんかやるもんだから、四面楚歌の十乗みたいな状況で本当に辛かった。そんな時に、僕の演技を認めてくれた。その演技については、テアトロという歴史ある演劇雑誌でも褒めてもらった。あの辛い時期の数少ないいい思い出です。
「相寄る魂」というギィフォワシという人の二人芝居だったのですが、相手役が読売演劇大賞にノミネートまでされた南谷さんというスゴい人だったことが良かっただけだと思うのですけれど。そういう経験をさせてもらったのです。
もうひとつ、この芝居には佐野和正さんの名前もクレジットされていた。別に交流があるわけではないのですが、これも10年近く前のこと、文学座のサマーワークショップを受けたことがあって、亡くなった演出家の高瀬さんがやったものだったのだけれど、そこのアシスタントのような立場で佐野さんがいて、稽古場にいる時の雰囲気がものすごく真摯で強い印象に残った。その後で、佐野さんが出る文学座の芝居は何本か見せてもらったのだけれど、あまり大きな役ではなかったこともあったのか、やはりアンサンブルのひとりとして出演されていた。今回は主役。正岡子規の役をやるらしいというので、ぜひ見てみたいと思ったのです。
まだ読んでくれていますか?ありがとうございます。
この芝居、始まったらこれが面白い。正岡子規の話なんだけれど、そこから離れて、ひとりの人間の生き様というところに本はフォーカスされていく。芝居はこうじゃなくちゃね。
肉体的に生きる力をどんどん剥ぎ取られながらも、前向きに生きて行く男と、息子の死を受け入れながらも前向きに生きて行く母親。新橋さんは、この男の母親にふさわしい人物像を作り上げ、佐野さんは、どんどん剥ぎ取られて行く生に負けまいと食い下がりながら生きて行く。その凄まじさ。それが、テンポ良く重いニヒリズムで描くこと無く、すすめて行くものだから。
終幕近くの宴会シーンに至るまでの生がもぎ取られ、それに抗う男の生き様、しかし、最後には全てを受け入れるという、その演技の見事さ。それに寄り添う明治の、いや、それ以前の時代も知ってる誇り高い士族の母親。その所作、その声のトーン、間合い。見事というしかない。母息子での臨終シーンの新橋さんの子守り歌。歌うではなく、語るでもなく、何だろう、シャンソンですな、あれは!
所作は、もう新派以外では、美しい和物の振る舞いは見られないだろうと思っていたら、新橋さんが芝居の中心にいるからか、見事でね。
いやあ、面白かったです。素晴らしかったです。
これ、文学座の新しい代表作になる可能性もある見事な作品となっていました。
2017年2月18日@紀伊国屋サザンシアター
じゃ、何でそんなことまでして劇場に行ったのか?と言われたら、それは久々に、新橋耐子さんの名前が出演者にクレジットされていたことが第一である。昨年、とうとう平幹二朗さんまで亡くなられて、もう舞台で見たい役者がほとんどいなくなってしまった(歌舞伎の若手で良いのは何人かいるけれど)なあと思っていたのです。
20代の頃から新橋さんの芝居は、杉村春子さんとの共演で何本も見てきたけれど、文学座で杉村さんとの舞台の時には、アンサンブルを大切にされていて、文学座の俳優陣のおひとりという感想しか持っていなかったのだけれど、これも20代のころ、初めて井上ひさしさんの芝居を見たのが、「頭痛肩こり、樋口一葉」で、その舞台で花蛍というお化けに扮した新橋さんのスゴかったこと。面白かったこと、哀しかったこと。その後は意識していろんな外部公演、例えば、蜷川幸雄さんやら、最近ではケラリーノサンドロヴィッチさんの演出の舞台でも見たのであります。
ちなみに、井上芝居は、これがきっかけで見始めたわけですが、なかなかこれ以上に面白いのに出会えなかった。僕はこれと渡辺美佐子の演じた「化粧」かなあ。あれにも泣いた、この二本は芝居ってすごいなあと心から思った作品である。
誰が読んでいるか分らないSNSなのでさらっと書くが、遅すぎた青春時代?のごとく、演劇に全精力を傾けていた40代のころ。
たまたま、新橋さんが、僕が出してもらったフランス翻訳物の二人芝居をたまたま見て下さって、そして、褒めてくれたのです。それだけでなく、その芝居に折り込んでいた僕のやっていた演劇の出演者募集のチラシを見て、出ると言ってくれたのです。ということで、僕の作演出の舞台にまで出て下さった。これはもの凄いことです。2010年ことでした。
40も過ぎて演劇なんかやるもんだから、四面楚歌の十乗みたいな状況で本当に辛かった。そんな時に、僕の演技を認めてくれた。その演技については、テアトロという歴史ある演劇雑誌でも褒めてもらった。あの辛い時期の数少ないいい思い出です。
「相寄る魂」というギィフォワシという人の二人芝居だったのですが、相手役が読売演劇大賞にノミネートまでされた南谷さんというスゴい人だったことが良かっただけだと思うのですけれど。そういう経験をさせてもらったのです。
もうひとつ、この芝居には佐野和正さんの名前もクレジットされていた。別に交流があるわけではないのですが、これも10年近く前のこと、文学座のサマーワークショップを受けたことがあって、亡くなった演出家の高瀬さんがやったものだったのだけれど、そこのアシスタントのような立場で佐野さんがいて、稽古場にいる時の雰囲気がものすごく真摯で強い印象に残った。その後で、佐野さんが出る文学座の芝居は何本か見せてもらったのだけれど、あまり大きな役ではなかったこともあったのか、やはりアンサンブルのひとりとして出演されていた。今回は主役。正岡子規の役をやるらしいというので、ぜひ見てみたいと思ったのです。
まだ読んでくれていますか?ありがとうございます。
この芝居、始まったらこれが面白い。正岡子規の話なんだけれど、そこから離れて、ひとりの人間の生き様というところに本はフォーカスされていく。芝居はこうじゃなくちゃね。
肉体的に生きる力をどんどん剥ぎ取られながらも、前向きに生きて行く男と、息子の死を受け入れながらも前向きに生きて行く母親。新橋さんは、この男の母親にふさわしい人物像を作り上げ、佐野さんは、どんどん剥ぎ取られて行く生に負けまいと食い下がりながら生きて行く。その凄まじさ。それが、テンポ良く重いニヒリズムで描くこと無く、すすめて行くものだから。
終幕近くの宴会シーンに至るまでの生がもぎ取られ、それに抗う男の生き様、しかし、最後には全てを受け入れるという、その演技の見事さ。それに寄り添う明治の、いや、それ以前の時代も知ってる誇り高い士族の母親。その所作、その声のトーン、間合い。見事というしかない。母息子での臨終シーンの新橋さんの子守り歌。歌うではなく、語るでもなく、何だろう、シャンソンですな、あれは!
所作は、もう新派以外では、美しい和物の振る舞いは見られないだろうと思っていたら、新橋さんが芝居の中心にいるからか、見事でね。
いやあ、面白かったです。素晴らしかったです。
これ、文学座の新しい代表作になる可能性もある見事な作品となっていました。
2017年2月18日@紀伊国屋サザンシアター
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
HP:
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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