自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
作演出 野田秀樹 出演 妻夫木聡 広末涼子 中山祐一郎
やっと手に入れたチケットで野田マップ「キル」。何か人をキルとか、洋服をキルとか、生キルとか言葉遊びが山ほどあって、それが詩的な世界を作り上げていて。例えば、冒頭にある青いオオカミがモンゴルでどう粉塵をあげて疾走しているかなんてのは、つかこうへいさんが差別された人間の情念を表す時の長い台詞やシェイクスピアが何か哲学的なことを台詞にこめるときの宇宙観と似ているものがあって、そこに上手い役者さんの気持ちも乗っかるから、何か難しい言葉もすんなり気持ち的にはこういうことかって入ってきてしまうマジックが野田さんの世界にはあるんですよね。今回もそうでした。素晴らしかった。一行レビューで妻夫木君や広末さんのことを余りにも無視していて、きっと酷いんだろうなあと思って見にいいったら、妻夫木君はガスパッチョのCMでやってるようなテレビや映画的な芝居で培ったものは活用しながらも、野田さんのあの究極な肉体を酷使していく世界にきちんと入り込んで逃げずにやっていた。
もちろん、それは高田聖子さんや、勝村さんのようなレベルではないかもしれないが、ホントに清々しく、いやすがすがしいっていうレベルでなく、相当のレベルまでやっていたと思う。もちろん野心満々の腹黒いところと清純なところの二面性があって、それに引き裂かれるって感じは、あのさわやかフェースからは感じられなかったけれどね。
広末涼子。この二代目ぷっつん女優として、すでに頂点は一度極めてしまった感がある非常に微妙な女優さん。数年前に、筧利夫さんとつかこうへいの世界を青山劇場で見た時は、やべっ!と思ったけれど。いや、今回も広末涼子をかなぐり捨てて挑んでるという感じではなかったけれど、きっと回りの尋常ならざる空気に影響されたんだと思う。その舞台と比べるとすごく真摯に役に取り組んでいたような気がする。芝居はうまいんです。前回はつかこうへいの世界から距離感があったような感じがするのだけれど、今回はほれ、すごいです。野田さんの世界の歯車のひとつとしてやる決意をしていたのが分かったわけです。ただ、それでも俺は広末のあのキンキン声が苦手。メゾソプラノとかアルトの艶っぽい声の方が好きなので、差し引いて考えてもらいたいんだけど、広末はホントに頑張っていたよ。感心しました。何しろお二人ともあの難解な台詞がどんどん伝わったよ。
というわけで、下馬評のお二人がそんなに悪くないとなりまして、おいらとしてはさてょれと思いながら見ているわけです。もう素晴らしい舞台でした。
感心したのは山田まりやちゃん。この人の舞台は扉座で見たのが最初なんだけど、どんどん舞台人としての経験を積んで上手くなるし重心が低くなる。今回はまさにアンサンブルといった感じの役だけれど、テレビで何となく大人に文句を言っているグラビアタレントといった活動をしていた時が嘘みたいにスゴい。きっと影ですごいドリョクをしているのだと思う。しんぺーさんと中山祐一郎は相変わらず存在そのものがずるく上手い。村岡さんが見せ所がない役だったなあと思いました。でも所作は美しい。美しいといえば、高橋恵子さん。この女優さんは僕が子供の頃からいて、何か色っぽい役ばかりやっていたのに、蜷川さんのところや野田さんのところや舞台人だよなあ。ホント存在しているだけでいい味を出されます。小林勝也さんは、はい、いい声です。というわけでした。さらに、美術のアイデアも良く舞台の真ん中が凹んでいてそこを向こうから走ってきても走って行っても、大草原の起伏に見えて、うーんモンゴルって感じです。距離感がでるんだよなあ。衣装も良かった。
何か不満はないのか?ってきかれると、何でいま「キル」なのかが分からなかった。前にやって、もう一度やってみたかったから。普通の演劇人はそれでいいでしょう。でも野田秀樹です。そこから広がる世界感、劇空間が、日常の僕らの時代と世界に発信していた。共鳴したり、猛打するような作品を作ってくれるのではないのか?
例えば、「オイル」も「ロープ」も「赤鬼」も時代にきっちし寄り添って共鳴していた。新国立劇場で上演したヴェルディのオペラ「マクベス」の演出でさえも。この素晴らしい演劇「キル」はモンゴルの草原を走ったジンギスカンたちの幻想のように、劇空間に閉じ込められ、まるで蜃気楼のように終わったと思ったのでありました。
2008年1月3日
シアターコクーン
やっと手に入れたチケットで野田マップ「キル」。何か人をキルとか、洋服をキルとか、生キルとか言葉遊びが山ほどあって、それが詩的な世界を作り上げていて。例えば、冒頭にある青いオオカミがモンゴルでどう粉塵をあげて疾走しているかなんてのは、つかこうへいさんが差別された人間の情念を表す時の長い台詞やシェイクスピアが何か哲学的なことを台詞にこめるときの宇宙観と似ているものがあって、そこに上手い役者さんの気持ちも乗っかるから、何か難しい言葉もすんなり気持ち的にはこういうことかって入ってきてしまうマジックが野田さんの世界にはあるんですよね。今回もそうでした。素晴らしかった。一行レビューで妻夫木君や広末さんのことを余りにも無視していて、きっと酷いんだろうなあと思って見にいいったら、妻夫木君はガスパッチョのCMでやってるようなテレビや映画的な芝居で培ったものは活用しながらも、野田さんのあの究極な肉体を酷使していく世界にきちんと入り込んで逃げずにやっていた。
もちろん、それは高田聖子さんや、勝村さんのようなレベルではないかもしれないが、ホントに清々しく、いやすがすがしいっていうレベルでなく、相当のレベルまでやっていたと思う。もちろん野心満々の腹黒いところと清純なところの二面性があって、それに引き裂かれるって感じは、あのさわやかフェースからは感じられなかったけれどね。
広末涼子。この二代目ぷっつん女優として、すでに頂点は一度極めてしまった感がある非常に微妙な女優さん。数年前に、筧利夫さんとつかこうへいの世界を青山劇場で見た時は、やべっ!と思ったけれど。いや、今回も広末涼子をかなぐり捨てて挑んでるという感じではなかったけれど、きっと回りの尋常ならざる空気に影響されたんだと思う。その舞台と比べるとすごく真摯に役に取り組んでいたような気がする。芝居はうまいんです。前回はつかこうへいの世界から距離感があったような感じがするのだけれど、今回はほれ、すごいです。野田さんの世界の歯車のひとつとしてやる決意をしていたのが分かったわけです。ただ、それでも俺は広末のあのキンキン声が苦手。メゾソプラノとかアルトの艶っぽい声の方が好きなので、差し引いて考えてもらいたいんだけど、広末はホントに頑張っていたよ。感心しました。何しろお二人ともあの難解な台詞がどんどん伝わったよ。
というわけで、下馬評のお二人がそんなに悪くないとなりまして、おいらとしてはさてょれと思いながら見ているわけです。もう素晴らしい舞台でした。
感心したのは山田まりやちゃん。この人の舞台は扉座で見たのが最初なんだけど、どんどん舞台人としての経験を積んで上手くなるし重心が低くなる。今回はまさにアンサンブルといった感じの役だけれど、テレビで何となく大人に文句を言っているグラビアタレントといった活動をしていた時が嘘みたいにスゴい。きっと影ですごいドリョクをしているのだと思う。しんぺーさんと中山祐一郎は相変わらず存在そのものがずるく上手い。村岡さんが見せ所がない役だったなあと思いました。でも所作は美しい。美しいといえば、高橋恵子さん。この女優さんは僕が子供の頃からいて、何か色っぽい役ばかりやっていたのに、蜷川さんのところや野田さんのところや舞台人だよなあ。ホント存在しているだけでいい味を出されます。小林勝也さんは、はい、いい声です。というわけでした。さらに、美術のアイデアも良く舞台の真ん中が凹んでいてそこを向こうから走ってきても走って行っても、大草原の起伏に見えて、うーんモンゴルって感じです。距離感がでるんだよなあ。衣装も良かった。
何か不満はないのか?ってきかれると、何でいま「キル」なのかが分からなかった。前にやって、もう一度やってみたかったから。普通の演劇人はそれでいいでしょう。でも野田秀樹です。そこから広がる世界感、劇空間が、日常の僕らの時代と世界に発信していた。共鳴したり、猛打するような作品を作ってくれるのではないのか?
例えば、「オイル」も「ロープ」も「赤鬼」も時代にきっちし寄り添って共鳴していた。新国立劇場で上演したヴェルディのオペラ「マクベス」の演出でさえも。この素晴らしい演劇「キル」はモンゴルの草原を走ったジンギスカンたちの幻想のように、劇空間に閉じ込められ、まるで蜃気楼のように終わったと思ったのでありました。
2008年1月3日
シアターコクーン
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
HP:
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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