自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
生誕100周年記念 ジャクソンポロック回顧展
「実存を実感できる素晴らしいアート空間」
美術展はどれを観に行けばいいのか難しい。もちろん自分がみたいアートが来日していたら別に構わず観に行けばいいのだが、もう少しアートを網羅的に少しガツガツみたいと思っているものにとっては、近年の不景気が美術界、それも美術展にも影響を与えていることを感じるだろう。
美術館に行って、美術の教科書や新聞で話題になったような作品を知識と本物を見たという経験を積んでいくだけでは物足りないという者にとって、東京で開かれる美術展の選び方はふたつあると思う。
例えば、オルセー美術館展みたいな複数の作家の展示であるならば、ある時代の例えば印象派の作品をいろいろとみせてもらうというのも(作品の選択が良ければ)悪くない。あるアートシーンが、誰によって生まれ、どう引き継がれ発展していったかが分かったりする。
ちゃんとした予習もせず、単純に今回はこれこれの有名な絵を自分の目で見るんだくらいで観に行くのではおバカさんの枠を越える事は出来ない。やっぱり、企画の意図をちゃんと把握し、自分なりに対峙するテーマを決め、少し予習もして、アート空間に身を沈める方が断然価値がある。
その点、ひとりのアーチストの回顧展は企画意図が分かりやすいので見やすいし予習もしやすい。ある作家の誕生と発展と衰退を見てくればいいからだ。しかし、日本で開かれるものの多くは印象派ややはり美術の教科書に載ってそうな「大物」のそれが多くて、いや数年前に見た、東山魁夷展もロートレック展も面白かったけれどもね。まあ、最近は自分がこれは行きてーと思うものが少なかった。
ところが、ポロック回顧展の企画をきいたときに驚いた。
ポロックはニューヨークの近代美術館やグッゲンハイム美術館、さらに、メトロポリタン美術館でも確か、その異才ぶりに大いに驚いたはず。日本にMOMAなんが美術館展なんかやるときも、20世紀のアメリカ美術を代表する巨人の作品として一枚は持ってくるから知ってる人も少なくないと思う。
カンバスに容器からそのまま塗料を垂らしたり、飛沫をかけたりしてしまう。ポーリングという手法で有名な人で、日本で今まで見られたポロックの作品もそれらの作品ばかりだった。
今回はイラン革命のためにテヘランにありながら門外不出だったポロックの代表作(上記画像参照)などポロックらしい代表作も見せてくれるけれども、そのポーリングと出会った1942年前後、そして遥か以前からの作品も多く展示されてる。そこには、アルコールなどで肉体も精神もドロドロになりながら、20世紀のアートに影響され自らを確立できなかったポロックの苦悩の軌跡もある。1930年代の作品には極めて具象的だったり、キュービズムやそれ以外の時代の先端を走った美術家に翻弄されるポロックの姿をみることができる。これもポロックだと思うと驚く。
そして、ポーリングに出会って、数年間の格闘のあと、花開く1950年代。変奏曲。そして、ポーリング自体に押しつぶされるように苦悩していくポロック。
この美術展は絵画にきちんと対峙していけばポロックのアーチストとしての苦悩と喜びを彼の作品とともに追体験できるように見事に構成されている。
こうした展示を経験する事は自分の中にポロック鑑賞の座標軸が据わることになる。ポロックが据わる事によって、ポロックが亡くなった1956年も意識しておけば、現代アートを見る時の視点の支点にもなる。いやあ、本当に素晴らしい展示会だ。
さらに、(主催者側は幾分残念かもしれないが)僕に取ってはラッキーだったのが、平日午後の会場は閑散としていて外国の美術館にいるような感じで体験する事ができたのも嬉しい。
ゴッホ展とかルノアール展とか、ホント混雑だけで嫌になってしまうから。
ポロック展を見るとアーチストはいつでも孤独だということも感じるなあ。しかし、このアート空間を2012年の日本で体験できるのはポロック生誕100年という節目のときだからですよね。いやあ良かった。ポロックの作品を見ていくだけで、ポロックの人生の重要なことが見えてくる。それは映画や文学を読むときの感動にも似ていて、最後には自分がいまこの世の中に実存している事まで実感できる。数年でもう一度、このような大規模なポロック展ということはありえないので、この展示会だけは是非行かれる事を強く薦める。ソリッドに生きることの厳しさとそれ故に深く感じることのできる実存をこの展覧会は鑑賞者に突きつけ、また感じる事ができるのだ。美術が鑑賞者の人生に深く入り込んでくる経験をしてもらいたい。
5月6日まで開催。2012年3月14日@東京国立近代美術館
「実存を実感できる素晴らしいアート空間」
美術展はどれを観に行けばいいのか難しい。もちろん自分がみたいアートが来日していたら別に構わず観に行けばいいのだが、もう少しアートを網羅的に少しガツガツみたいと思っているものにとっては、近年の不景気が美術界、それも美術展にも影響を与えていることを感じるだろう。
美術館に行って、美術の教科書や新聞で話題になったような作品を知識と本物を見たという経験を積んでいくだけでは物足りないという者にとって、東京で開かれる美術展の選び方はふたつあると思う。
例えば、オルセー美術館展みたいな複数の作家の展示であるならば、ある時代の例えば印象派の作品をいろいろとみせてもらうというのも(作品の選択が良ければ)悪くない。あるアートシーンが、誰によって生まれ、どう引き継がれ発展していったかが分かったりする。
ちゃんとした予習もせず、単純に今回はこれこれの有名な絵を自分の目で見るんだくらいで観に行くのではおバカさんの枠を越える事は出来ない。やっぱり、企画の意図をちゃんと把握し、自分なりに対峙するテーマを決め、少し予習もして、アート空間に身を沈める方が断然価値がある。
その点、ひとりのアーチストの回顧展は企画意図が分かりやすいので見やすいし予習もしやすい。ある作家の誕生と発展と衰退を見てくればいいからだ。しかし、日本で開かれるものの多くは印象派ややはり美術の教科書に載ってそうな「大物」のそれが多くて、いや数年前に見た、東山魁夷展もロートレック展も面白かったけれどもね。まあ、最近は自分がこれは行きてーと思うものが少なかった。
ところが、ポロック回顧展の企画をきいたときに驚いた。
ポロックはニューヨークの近代美術館やグッゲンハイム美術館、さらに、メトロポリタン美術館でも確か、その異才ぶりに大いに驚いたはず。日本にMOMAなんが美術館展なんかやるときも、20世紀のアメリカ美術を代表する巨人の作品として一枚は持ってくるから知ってる人も少なくないと思う。
カンバスに容器からそのまま塗料を垂らしたり、飛沫をかけたりしてしまう。ポーリングという手法で有名な人で、日本で今まで見られたポロックの作品もそれらの作品ばかりだった。
今回はイラン革命のためにテヘランにありながら門外不出だったポロックの代表作(上記画像参照)などポロックらしい代表作も見せてくれるけれども、そのポーリングと出会った1942年前後、そして遥か以前からの作品も多く展示されてる。そこには、アルコールなどで肉体も精神もドロドロになりながら、20世紀のアートに影響され自らを確立できなかったポロックの苦悩の軌跡もある。1930年代の作品には極めて具象的だったり、キュービズムやそれ以外の時代の先端を走った美術家に翻弄されるポロックの姿をみることができる。これもポロックだと思うと驚く。
そして、ポーリングに出会って、数年間の格闘のあと、花開く1950年代。変奏曲。そして、ポーリング自体に押しつぶされるように苦悩していくポロック。
この美術展は絵画にきちんと対峙していけばポロックのアーチストとしての苦悩と喜びを彼の作品とともに追体験できるように見事に構成されている。
こうした展示を経験する事は自分の中にポロック鑑賞の座標軸が据わることになる。ポロックが据わる事によって、ポロックが亡くなった1956年も意識しておけば、現代アートを見る時の視点の支点にもなる。いやあ、本当に素晴らしい展示会だ。
さらに、(主催者側は幾分残念かもしれないが)僕に取ってはラッキーだったのが、平日午後の会場は閑散としていて外国の美術館にいるような感じで体験する事ができたのも嬉しい。
ゴッホ展とかルノアール展とか、ホント混雑だけで嫌になってしまうから。
ポロック展を見るとアーチストはいつでも孤独だということも感じるなあ。しかし、このアート空間を2012年の日本で体験できるのはポロック生誕100年という節目のときだからですよね。いやあ良かった。ポロックの作品を見ていくだけで、ポロックの人生の重要なことが見えてくる。それは映画や文学を読むときの感動にも似ていて、最後には自分がいまこの世の中に実存している事まで実感できる。数年でもう一度、このような大規模なポロック展ということはありえないので、この展示会だけは是非行かれる事を強く薦める。ソリッドに生きることの厳しさとそれ故に深く感じることのできる実存をこの展覧会は鑑賞者に突きつけ、また感じる事ができるのだ。美術が鑑賞者の人生に深く入り込んでくる経験をしてもらいたい。
5月6日まで開催。2012年3月14日@東京国立近代美術館
PR
この記事にコメントする
最新記事
(01/06)
(12/25)
(08/05)
(06/30)
(12/16)
(08/21)
(04/10)
(09/25)
(11/30)
(11/18)
(11/03)
(10/04)
(09/19)
(08/28)
(06/25)
(06/10)
(12/30)
(02/21)
(12/31)
(09/28)
(06/09)
(05/12)
(12/31)
(09/08)
(06/02)
プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
HP:
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
カテゴリー
カレンダー
02 | 2025/03 | 04 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
30 | 31 |
フリーエリア
最新CM
[08/24 おばりーな]
[02/18 清水 悟]
[02/12 清水 悟]
[10/17 栗原 久美]
[10/16 うさきち]
最新TB
ブログ内検索
アーカイブ
最古記事
(12/05)
(12/07)
(12/08)
(12/09)
(12/10)
(12/11)
(12/29)
(01/03)
(01/10)
(01/30)
(02/13)
(03/09)
(03/12)
(03/16)
(03/17)
(03/19)
(03/20)
(03/20)
(03/22)
(03/22)
(03/23)
(03/24)
(03/28)
(04/01)
(04/01)
カウンター