自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
指揮|カール・ハインツ・シュテフェンス
ピアノ|キム・ソヌク
ウェーバー / 歌劇「魔弾の射手」序曲
ベートーヴェン / ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37
シューマン / 交響曲 第4番 ニ短調 作品120
アンコール モーツアルト/ディヴェルメント
「懐かしい東京文化サウンド」
サントリーホールができるまで外来オーケストラの最高峰のサウンド空間は東京文化会館だった。今は外来オペラとバレエの最高峰の空間として未だに健在だけれどもオーケストラ単独公演では都響定期などで使われるくらいで頻度は大きく落ちた。それは、この空間の残響が短く豊麗なサウンドに聞こえにくいということもあるのだが、オーケストラの生の音が耳に飛び込んでくるのもそうだ。
実は昨年サンクトペテルブルグフィルの来日の際、珍しいのだが3つのホールで聞く事になり、特にサントリーホールと比べてここでのサウンドがあまりにも違いすぎるのに愕然とした。今回、都民芸術フェスティバルで20年以上ぶりに東京文化会館でN響をきいた。指揮は、2007年まではベルリンフィルの首席クラリネッと奏者だった人。今宵の音は僕が本当に若い頃にきいた外来オケの音だなあと思った。
最初の「魔弾の射手」。悪くはないが弦の音がいつもと比べると(NHKホールと比べても)粗く聞こえる。さらに重要な4人のホルン奏者は音がひっくり返ったり自信なさげに主旋律を危なげに演奏する。あれれ、N響〜?と思うくらいだった。しかし、曲の最後には音は豊かになっていく。きっと奏者が出す音をホールに合わせ微調整したのかもしれない。そういえば、昔きいた外来オケもそうだった。コンサートの冒頭とそのあとで違う音が良くするものだった。だから、例えば、オーマンディ指揮のフィラディルフィア交響楽団もゲオルグショルティ指揮のシカゴ交響楽団も印象は後半の曲が強く残っているわけだ。N響もそれからは順調に飛行を続けた。
シュテフェンスの指揮はもっとこういう音が欲しいと身振りが大きく、オケはそれに十全に答えている感じはしないが、2曲目の協奏曲からはフレーズを大切にしメロディを良く唄わせる演奏になった。ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番は、引き締まった演奏が聴かれた。独奏のキムソナクは22歳らしい見事な技術力がある上に、音の粒がきれいにたっていてきれいだった。いたづらに叙情に流されず、むしろぶっきらぼうとも言えるようなフレージングの終わり方で、僕はこの曲を聞く時に若い頃に聞いていたウィルヘルムバックハウスの演奏を思い出したくらいだ。
今宵のメインはシューマンだった。同じフレーズの繰り返しと変化が繰り返される交響曲のイメージなのだが、そのひとつひとつを大切に演奏する見事なものだった。管弦楽は見事にこの交響曲をプレゼンテーションしてくれた。リズムの楽しさも感じさせてくれさすがN響という演奏。指揮者の力もあるだろうがオーケストラがもっている底力発揮という感じだ。アンコールのモーツアルトのディベルメントは弦楽合奏のみの曲だがここでも美しいN響サウンドを聴かせてくれた。
2012年3月14日@東京文化会館
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