自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
「パトロンと芸術家のダンスは人間的で」
19世紀の終わりにパリに住んでいた中流でも豊かだった、しかし、上流でもないスターンというユダヤ人ファミリーは当時の若い美術家と深い交流を持っていた。
会場に入ると、まずこのどでかい地図が掛かっていて、スターンの住居と当時のアーチストたちの住まいや重要なスポットが記されている。そう、これはパリの芸術家たちとのちにパトロン?投資家?になるユダヤ人家族の交流の展覧会なのだ。
スターンファミリーは、マチスやピカソを初めとして印象派の多くの画家たちとの交流があり、当初は本当に応援する感じで始まった収集はそのうちきちんとした投資になっていき、この家族がカリフォルニアに移って大金持ちなった流れを、コレクションの流れとともに見つめる事ができるというわけ。
これだけの収集となると、単なるサポートとか応援という言葉では括れない。お互いに意識はし合っていたとしても、人間の腹の底というか、黒さも垣間見えるのである。というのも、この展覧会、スターンが力を入れたけれども全く売れなかった画家の作品があまりにも少ない。そういうのをもっと見せてくれないと…。
愛情がなくても、打算で関係を持つ事があるように、もしくは愛情から始まった関係に打算や悪意が挿入される事もあるように、このしたたかさなユダヤ人ファミリーと芸術家の関係は単なるおとぎ話で片付けられないはずなのだ。
芸術家のパトロンと芸術家の間にどんな物語、葛藤があったのだろうか?輪舞曲はどう演奏されたのか?それは、集めた作品からだけでは伺い知れないが、想像するのは面白い。フリックコレクションのように既に亡くなり評価もほぼ確定した画家の作品と対峙し、評価の定まったものを収集するよりもきっとエキサイティングだったのだと思う。スターンの集めた作品群のスゴさでクラクラしてしまった。
これらはメトロポリタン美術館だからこそできたわけだけれども、日本でも石橋さんなどの収集家の歴史を追ったものを見たくなった。そこに、明治開国以降の日本と欧米との関わり、まなざしをきっと観る事ができるだろう。
2012年4月12日@メトロポリタン美術館
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佐藤治彦 Haruhiko SATO
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演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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