自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
ショパン:ピアノ協奏曲第1番、第2番。
山下一史指揮 シンフォニアヴァルソヴィアメンバー
2012年5月7日@サントリーホール
ショパン: ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.35 「葬送」
リスト: メフィスト・ワルツ第1番 S.514
ショパン: ノクターン ハ短調 op.48-1
リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
2012年5月9日 @サントリーホール → 演奏会に行くのをキャンセル
「狂気の世界にいってしまったピアニスト」
恐ろしく空席が目立つサントリーホールに、狂気の顔をしたピアニストがショパンのふたつの協奏曲らしきものを弾いた。しかし、それはショパンではない。
おそらく彼の演奏をきく最後の機会になるだろう。
イーヴォボゴレリッチは少なくとも自分の狂気の沙汰まで彷徨って音楽作りをした勇者だった。ただ、今回明らかになったのは、あっちに行ってしまったことだ。あれは狂人の音楽だ。狂人、元天才。天才と狂人は紙一重とは本当だった。
イーヴォボゴレリッチへのショパンコンクールでの評価=アルゲリッチの言った事は正しかった。
今宵きいたショパンの2番協奏曲はたった2年前にボゴ自身で聞いたばかりだ。
それが、もっと壊れ狂っていた。
しかし、その2楽章の最後の一音の美しいこと。
時おり、聞こえる音色は、その瞬間の後すぐに狂気の世界に戻っていくのだけれども、その瞬間だけは、美の極地でもあった。狂気の世界では成立している音楽なのかもしれないが、とても聞けたものではない。
3楽章の左手のあのリズムはなんなのだ。変なアクセント、異様で揺れるテンポ設定。
イーヴォボゴレリッチが日本にデビューした頃、それは風変わりなコンサートだった。事実婚か夫婦だったのかはしれないが、アリスケセラーゼという女性とのジョイントコンサートだった。
彼女はイーヴォを指導していたという。小太りでの中年の醜い女だった。
彼女はイーヴォをこっちの世界に止めようときっと綱を緩めたり締めたりしていたんだと、今なら確信する。
10年くらい前までは、イーヴォの音楽は普通の一流の演奏家の音楽で、その狂気は滲み出てくるくらいだったから。それぐらいが聴衆にとってはありがたいのだ。自分の心と感性の中で鳴り響いていたのを思い出す。北島マヤ=「ガラスの仮面」の奏でる音楽が。
その女は早くしてこの世を去った。
イーヴォの崩壊はそこから始まった。リミッターが壊れたのだ。
小太りの調教師がいなくなったイーヴォの叫ぶ声が聞こえる。
「ケセラーゼ、俺はお前が必要だったのに。俺の音楽はお前と二人で完成されていたのに。このフレージング、このテヌート、やりすぎか、足りないのか、方向性が違うのか。いいのか悪いのか、もはや俺には判断がつかぬ…。何でお前だけいなくなったのだ」
音楽家として、イーヴォとケセラーゼは漫才師のようにコンビで成立していたのかもしれない。いや違うか。美空ひばりとその母のようにと言い直そう。
僕はもうイーヴォの生演奏は聞きません。
過去30年近く、面白い演奏をありがとう。
ただ、これからも、あなたが現にいた頃の、例えば、スカルラッティの録音を僕は聞き続けるでしょう。でも、
物理的にあなたはまだいるのだから、いつでも現世にお越し下さい。
サントリーホールや文化会館のロビーで
亡霊の噂が囁かれたら僕はにやりとするでしょう。
ハムレット第一幕が始まった!
あの方が、彼岸からこちらに戻って来られた!。
イーヴォは狂ってしまったが、踏みとどまったピアニストがいた。
スビャトラフリヒテル。
晩年のリヒテルの音楽は深く深く狂気の世界に近づいていたように思える。
シューベルトなんか弾くと大変な事になるよ、リヒテル!
10代の僕はそう思ったものだ。
コンサートホールを暗闇にし、
その暗闇の中でスタンドに灯りをともし演奏していた姿。
きっと楽譜をあえて譜面台の上におくことで、踏みとどまっていたと思う。
音楽家、アーチストは孤独の極地にいるのだ。
2012年5月7日@サントリーホール
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佐藤治彦 Haruhiko SATO
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男性
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演劇ユニット経済とH 主宰
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