自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
Conductor: Fabio Luisi
Violetta Valéry: Natalie Dessay → 病気のため Hei-kyung Hong に交代
Alfredo Germont: Matthew Polenzani
Giorgio Germont: Dmitri Hvorostovsky
Production: Willy Decker
「オペラの筋以上に病気のMET椿姫は過去の栄光を失った」
2年前2010年4月にmetで見た「椿姫」がゲオルギューの歌と演技と姿の三位一体の完璧さがあって俺の心は打ち抜かれ、ああやっと椿姫に出会った~!と感激したものだ(このブログ参照)。古いといわれるかもしれないが、写実的で豪華な舞台美術もオペラをみる楽しみを感じさせてくれた。今回は指揮はファビオルイジだし、ナタリーデッセイのヴィオレッタも聞いてみたいなと思い出かけた。
しかし、すべては変わっていたのだ。まずはプロダクションがウォルフガンググスマンのドイツ表現主義的な舞台美術に変わっていた。真っ白の半円の舞台には長いベンチがまあるく置かれていて、頭上が大きく開いている。左手に扉、上手に大きな時計があるだけ。
開場すると、男がその大きな時計の横に座っていて過去を回想している。
こんな感じで演出もこのオペラを何回も見ている人にはなるほどと思わせるところもある。たとえば、ヴィオレッタとアルフレードはであってすぐに激しい愛撫をはじめ、アルフレードはヴィオレッタのまたぐらに手を突っ込みながら愛の歌を歌いまくる。そうだった。ヴィオレッタは娼婦だったのだと思い出させる分かりやすい演出がちりばめられる。また、アルフレードは一貫して世間知らずのばかな若者として描かれ、子供ような行動を山ほどとる。感情はむき出しで、ジェルモンピンタされたり、どつかれたりする。終幕の死期の場面で、窓の外に聞こえるカーニバルの歓声は、この中に入ってきて、ヴィオレッタは男たちに囲まれている過去の自分と同じような(同じような赤い衣装)を着ている女と目を合わせるといった具合。
何しろヴィオレッタの衣装がアルマーニの衣装のような絹のような真っ赤な短いドレスだけで、下着に見えなくもない。なるほど、なるほど思いながら、いまさらそんなことする必要あるのか?とも思ってくる。アルフレードやヴィオレッタの愛の物語でいいじゃないか?と思ってしまうのだ。特にあの素晴らしい前のプロダクションセットを放棄して、こんなドイツの予算のない劇場がやりそうなプロダクションに変える必要が分からない。デッセーが降板した理由が実はこのプロダクションにあるといわれたら、そうだろうそりゃと言いたくなるくらいだ。
で、肝心の演奏もそこそこだったのだ。この日の「椿姫」はシーズン初日だったのだけれども、1幕では乾杯の歌のところでもオケの縦が全く合わない。それが何分も続く。こんなばらばらのMETのオケを聞くのはもう25年以上もこの劇場に通っているが初めてのひどさ。ホンの声も細すぎて、前回はゲオルギューの素晴らしさの影に損をした、ホロストスキーのジェルモンが一番喝采を得ていた。ホンが良くなったのは後半、それも死期が近づいてからのシーンで、死にそうな役を演じているのだから、ちょうどいいころ加減である。
僕は冒頭から期待が高かっただけに、がっかりで相当寝た。高額のチケットを購入しおしゃれもして出かけたのにがっかりだ。メトの「椿姫」は新しいプロダクションができるまでもう行かないと思う。
2年前に見た過去の椿姫の素晴らしさを思い出すたびに、METは過去の栄光の椿姫を捨て去ってしまったのか、ヴィオレッタ以上に病気なのか?METと思いたくなる。
2012年4月6日@ニューヨーク メトロポリタンオペラ劇場
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演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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