自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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作・演出 山田洋次
出演 水谷八重子 波乃久里子 田口守 石坂舞子 安田昌二 井上恭太 ほか
「東京物語の魂を何よりも大切にリメイクした名舞台」
テレビなどで「東京物語」のリメイクは少なくない。舞台はあったのか知らない。しかし、少なくとも名舞台として残ってはいない。どちらも東山千栄子と笠智衆が作り上げたキャラがあまりにも印象深くて、ストーリーから芝居の方法まで猿真似のようなアプローチで攻めてしまう。で、討ち死にしてしまうのだろう。
この舞台はオリジナルのストーリーの要素は入っているものの、物語は再構成されている。というのも、舞台が老夫婦の長男である医者の茶の間を中心に話が進むからだ。長女の美容師の家は、そこから15分くらいの場所にあることになっている。
また、例えば震災を連想させる話が出てくるなど2012年の日本で上演することをスゴく意識した部分もある。
メインの二人の老夫婦像を始めとした登場人物は再構築された人物像だ。
例えば、安井昌二の演じる老人は笠智衆のそれと違って、まだそれほど老成していない。おおらかな気持ちだけで生きているわけではなく、怒りや悔しさもはっきりと表す。水谷八重子の老女は東山千栄子のひたすら夫の後ろに立つというだけでなく、もう少し前に出るお茶目なおばあちゃんになっている。原節子演じた次男の未亡人はもっとドライで現代的。波乃久里子の演じる長女のキャラは杉村春子のそれとスゴく似ているけれども、別に杉村春子の演じた女性を真似しているだけでもない。というわけで、決して映画「東京物語」の名演技を、舞台で再現しようとはしない。自ら新しい人間像を作り上げているのだ。
これが、他のリメイク版と決定的に違うところだ。ただし、そこにある人間の営みや関係性といった一番大切なものは揺るがせにされていない。あの松竹映画の名作の精神はしっかり根付いている。何で他のリメイク版がこういった当たり前のことができないのか分からない。
違う俳優が違う時代に作るのだから、変わるのが当たり前なのだ。
山田洋次監督は、真似をするのではなく「東京物語」の精神にこだわったのだ。
劇団新派の俳優は脇役に至るまで物凄い集中力でこの作品を仕上げた。波乃久里子はふわっと名演技。水谷八重子は、例えば病床に寝ている姿が見事。死の床にある人の空気を見事に表現していて驚いた。田口守は昨年の「日本橋」の癖のある役でないが、こういう普通の役でも見事な演技をするんだなあと驚いた。井上恭太は現代的なテンポを大切にしつつ昭和30年代の男を演じている。石原舞子や児玉真二、病院に勤務する役柄の矢野淳子など、この舞台版の東京物語の空気感を揺るがせにしない演技を披露する。見事だ。だから、それを意識できない、通常ならば大人の演技を食ってしまう子役らの存在が一番気になってしまう。言葉の意味合いをどれほど理解して、大人たちとどのような関係にあるのかが定まっていない感じがした。
2012年の正月に静かな話題作となること、間違いない名舞台だ。
2011年12月31日@三越劇場(舞台総稽古)
出演 水谷八重子 波乃久里子 田口守 石坂舞子 安田昌二 井上恭太 ほか
「東京物語の魂を何よりも大切にリメイクした名舞台」
テレビなどで「東京物語」のリメイクは少なくない。舞台はあったのか知らない。しかし、少なくとも名舞台として残ってはいない。どちらも東山千栄子と笠智衆が作り上げたキャラがあまりにも印象深くて、ストーリーから芝居の方法まで猿真似のようなアプローチで攻めてしまう。で、討ち死にしてしまうのだろう。
この舞台はオリジナルのストーリーの要素は入っているものの、物語は再構成されている。というのも、舞台が老夫婦の長男である医者の茶の間を中心に話が進むからだ。長女の美容師の家は、そこから15分くらいの場所にあることになっている。
また、例えば震災を連想させる話が出てくるなど2012年の日本で上演することをスゴく意識した部分もある。
メインの二人の老夫婦像を始めとした登場人物は再構築された人物像だ。
例えば、安井昌二の演じる老人は笠智衆のそれと違って、まだそれほど老成していない。おおらかな気持ちだけで生きているわけではなく、怒りや悔しさもはっきりと表す。水谷八重子の老女は東山千栄子のひたすら夫の後ろに立つというだけでなく、もう少し前に出るお茶目なおばあちゃんになっている。原節子演じた次男の未亡人はもっとドライで現代的。波乃久里子の演じる長女のキャラは杉村春子のそれとスゴく似ているけれども、別に杉村春子の演じた女性を真似しているだけでもない。というわけで、決して映画「東京物語」の名演技を、舞台で再現しようとはしない。自ら新しい人間像を作り上げているのだ。
これが、他のリメイク版と決定的に違うところだ。ただし、そこにある人間の営みや関係性といった一番大切なものは揺るがせにされていない。あの松竹映画の名作の精神はしっかり根付いている。何で他のリメイク版がこういった当たり前のことができないのか分からない。
違う俳優が違う時代に作るのだから、変わるのが当たり前なのだ。
山田洋次監督は、真似をするのではなく「東京物語」の精神にこだわったのだ。
劇団新派の俳優は脇役に至るまで物凄い集中力でこの作品を仕上げた。波乃久里子はふわっと名演技。水谷八重子は、例えば病床に寝ている姿が見事。死の床にある人の空気を見事に表現していて驚いた。田口守は昨年の「日本橋」の癖のある役でないが、こういう普通の役でも見事な演技をするんだなあと驚いた。井上恭太は現代的なテンポを大切にしつつ昭和30年代の男を演じている。石原舞子や児玉真二、病院に勤務する役柄の矢野淳子など、この舞台版の東京物語の空気感を揺るがせにしない演技を披露する。見事だ。だから、それを意識できない、通常ならば大人の演技を食ってしまう子役らの存在が一番気になってしまう。言葉の意味合いをどれほど理解して、大人たちとどのような関係にあるのかが定まっていない感じがした。
2012年の正月に静かな話題作となること、間違いない名舞台だ。
2011年12月31日@三越劇場(舞台総稽古)
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プロフィール
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佐藤治彦 Haruhiko SATO
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性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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