佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 劇団四季  CATS 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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アンドリューロイドウエッバー作曲



 何回目のキャッツだろう。1980年代にロンドンのニューロンドンシアターで見たのが最初。次はブロードウェイのウィンターガーデンシアター。もちろん、劇団四季のキャッツも見た。でも20年くらい前。おそらく品川で見た。そして、実は昨年、バンコクでロンドンからのカンパニーが来ていたので見た。それがホントに久しぶりで、ああ,面白かったと思ったのだ。
 4月に劇団四季のウィキッドを見て、ものすごい力に圧倒されて、まったく新しい四季像をもって、今回約20年ぶりに見た。先ずは20年前と違うところ。身体能力がものすごく上がっていた。軽く踊っている。もう、だれもナンバーが終わったときの決めポーズで息が切れていない。スゴいなと思った。身体も良くなったし見栄えもする。そして、これほどまで日本語の言葉をきちんと伝えてくれて、今までもやもやと20年間も引っ張って来た部分も解消。
 でもさ、何かダメなのだ。何かね80点をきちんと取ることを考えてしているようで、全力感がないんです。危なさがないんです。だからドキドキ感がない。役者にドキドキ感がないんです。慎重さはあっても。
 根本的な問題は、未だにカラオケで歌っていることじゃないかなあ。あれカラオケだよね?生オケじゃないよね?
 芝居って、その日のノリでほんの極僅かなものかもしれないけれど、違ってくるのが当たり前。
 役者の呼吸やノリを考えて、オケも微妙に変わったりする。だから指揮者がいる。だから生演奏でやる。金が掛かる。でも、それ、それ、それが大切!!!!
 生の人間が機械の出す録音に合わせるのじゃダメだよ。それが問題の根本だと思うんだよなあ。
 何か合わせることばかりしているからか、音が大きく外れたひとが二人もいた。それ以上に、何か新鮮な気持ちで役をクリエイトしているのではなく、それよりも、段取りに合わせることに集中しているように思えて仕方がない。ウソの笑顔、ウソのテンポって感じ。もちろん、カラオケのテンポで気持ちが毎日がピタッとあって、いまそこで起きているように再現できればいいのだけれど、できないよ。いや、あれだけ段取りが多ければ無理?先ずは失敗しないように、段取りをはずさないようにと守りの芝居になる。攻めじゃなくなる!
 もちろん素晴らしいんですよ。でも、一番重要なハートがね。段取りの次の2番目じゃダメなんです。もちろん稽古で目標とするものがあってそれを基準にしてやっていいんだけれど、オケがこのテンポで出てくるって、万分の1も狂わないって分かっているからそれに対する緊張はゼロじゃないですか?合わせる緊張感だよね。もしも、その日の体調や気持ちで万分の1でも昨日と違っていたら、プロの指揮者は気がついて併せたり、併せようとしたり、そこに緊張感が生まれて生になる。生の演技になる。でもね、録音だとそうではなく、機械、録音、記憶に合わせるしか方法がないんだよね。
 僕の隣の親子が1幕の終わりに、ああ、中だるみするなあといって帰っていたのですが、それは、それが原因ではないかなあ。何しろ、メモリーにまでそういう思いを持ってしまったから。
 それから、あの発声。前述したように日本語はきちんと届きます。でも、きちんとテキストを伝えることにあまりにも専念していないか?テキストは言葉の情報だけでなく、そこに役者の気持ちを載せて届けることが必要ですよね。そこに個性を感じないんだよね。言葉が聞き取れなくても伝わることってあるんだよ。
 それがね。ハートがね。テキストだけでなく、そこに載せる気持ちを伝えようと、どちらかというとそちらの方が大切だという意思が、去年のバンコクでみたイギリスからのツアーカンパニーでもみんなあるんだよね。それが、今宵は感じられなかった。
 後半になって、マキャベリティキャッツのナンバーを唄うディミータをやっていたレベッカバレットさんの唄をきいていて、ますます思った。彼女の唄が英語の部分だけリアルになるんです。マキャベティ イズ ノットゼアーっていうだけなんだけど、すげーリアルな言葉になる。彼女だけでなく日本語すべてにそれが言えるんです。ちなみに彼女のダンスにはハートがとてもあって良かったです。
 僕にしてみると、必死に声を出したり、滑舌をしっかりしてみたり、演技にメリハリつけたりしても、外国のや20年前の四季のをみた僕からしたら、それをしたらキャッツの肝をはずすことになるということなんです。気持ちね。心。そういう観点からすると、メモリーを唄うグリザベラ、おばさん猫のジェニエニドッツ、役者猫のオールドシュトロノミーが今宵は全滅でした。後半になって、「さっきのティミータと、中国人俳優 金子 信弛さんがやるミストフェリーズがものすごく取り戻してくれた。特にミスとフェリーズはものすごい身体能力をもったダンサーがぎりぎりやってる感が伝わって来てスゴかった。あれです。富田が金メダルの富田がオリンピックで体操の演技をするときの緊張感が伝わってくるんです。
 
 ウィキッドのカンパニーが、スゴくリアルで、ミュージカルにものすごいハートをいれて作品のいちばん伝えたいことを伝えていた。それは、伝えたいところを大きな声で言うわけではもちろんない。リアルな人間関係をリアルな芝居で舞台上でやっているだけのこと。ミュージカルもダンスもそう。それが、今宵の劇団四季キャッツのカンパニーにはあまり感じられなかったのが残念。
 しかし、素晴らしい身体能力をもった俳優が山ほど要るなあと思いました。ブロードウェイに挑戦してくれる人が出てくると面白いなとも思いました。身体能力ではもう1歩もひけをとっていないのだから。


五反田キャッツシアター
2008年6月3日
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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