佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 モディリアーニ展 国立新美術館 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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 モディリアーニ展に行って来た。初めて国立新美術館にも行って来た。その感想。
乃木坂駅ってのは、僕の学生時代には、ホントの遊び人くらいしか用事のない駅だった。乃木大将の家があったり、カフェグレコ本店があったりするくらい。六本木や赤坂で遊んだ人間が作るコミュニティみたいな駅だった。そんな千代田線の駅が一変していた。この美術館は日本で初めて?地下鉄の駅に直結した素晴らしい美術館だった。しかし、東京に公立の美術館をあと幾つ作るのだろう?日本に幾つだ!人はよく道路建設の無駄ばかり言うが、美術館も何とかホールももっと要らない。維持費を考えたら古いものはぶち壊し、民間に売却してしまうべきだと考えている。
 まあ、そういうことはおいといて。
 やっと世界に誇れる、MOMA級の、ポンピドーセンター級の美術館だなと思った。素晴らしいフォルム。高い天井、広い展示室。カフェなどの充実ぶりも素晴らしい。そして、そこでの企画展示も素晴らしいものだった。どうせ、どこかの大回顧展を買ったのだくらいに思ってみていたら、90%以上が個人所蔵の作品で、一枚一枚丁寧に借り受けて来たのが分かる。中には50年ぶりの展示みたいな作品もあり、そして、モディリアーニの美術像全体が見渡せるようになっていて素晴らしかった。
    


 何か量で押し切る美術展があったりするが、そういうものではなく、きちんとプランされて、見所もあって良かった。
 モディリアーニが何に触発されて(アフリカや東南アジアの美術)、あのようなフォルムを書き始め、同時代の美術家の影響を受けまくり、短い35年の人生ではあったが、晩年は、その山ほど受けた影響を一枚一枚はがして行ったら自分が残っていた。画家と画家が対した被写体が浮き上がり、人間に対する深い洞察がそこにあったのだ。
 ある絵では、その鼻筋に、うなじに、瞳に、画家の興味の中心があることが明確で、じっくり見ていると、キャンバスの向こうに被写体が見えてくるようだ。そして、ここに100年もしない前にモディリアーニ本人が立って僕が今見ている被写体とは何だろう。何でこの人物は自分を惹き付けるのだろうと思い描く状況だったのだろうなあと思ってみたのだ。
 女性像では自信満々のジャンヌエピテルヌ、無垢な少女のユゲットだったり、僕の大好きなスーティンが描かれていたりして、それは、まだ売れていない頃のスーティンでいらだちが出ていたり、モディリアーニの画商には照れ笑いも見られたりして。
 

 大変面白かった。外国人も多く観に来ていたのだが、これだけ素晴らしい展覧会は、世界の美術館でもそう多くが出来るものではないのだから、当たり前だと思った。ただ、日本で美術を見る時に僕が困るのは、来ている他の鑑賞者の日本語がわかってしまうことである。フランスやイタリアでは分からないからとても助かる。
 今回も、ああ、この人と不倫してたんだとか、この絵のここを見てご覧よという素人美術評論家とか山ほどいた。それが、ヤケにうるさいのだ。
 僕に言わせれば、もっと絵と自分ひとりで向き合って欲しいということだ。
 おしゃべりをして、きれいな絵を眺めているだけなの?この素晴らしい美術をデートに使っているだけ?
 美術は美術と鑑賞者が対峙しなくてはつまらないと思うのだ。決して恋人との仲を深める起爆剤でも、友情深める接着剤でもない。そういう媒介にするだけだったら自宅で画集を開いて好き勝手やれば!と言いたいのだ。
 何々展を見たよというような、有名美術の巡礼者でもないだろう?そんなスタンプを幾つ集めても美術の真髄には近づけないことを知って欲しい。
 ああ、別に近づきたくないんだ。そうだ。近づけたいのは恋人との距離なのだから。

 2008年5月4日


モディリアーニ展の公式ホームページ
http://modi2008.jp/
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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