自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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オールショパンプログラム
夜想曲(ノクターン)5番 ソナタ2番「葬送」スケルツォ2番/休憩/ソナタ3番 舟歌作品60
アンコールなし

ツイメルマンのピアノを聞くのは始めてでないのだけれど、僕はこの年齢になってきっと音楽をきくキャパシティが広がったのか、もしくは聴く軸足が定まってきたのか、きちんと聞けるようになってきたように思える。もしくは、この1ヶ月で素晴らしいショパンのピアノ演奏を3つもきいたことからかもしれない。ショパンイヤーでも無い限り、こんなことはあり得ないことだから。ポリーニ、ボゴレリッチ、ツイメルマン。本当に対照的でそれぞれが現代ピアニストの頂点に立つ人たちである。
今夜きいておもったのは、ツイメルマンのピアノには、歌が流れている。美しいフレージングや、その中にある歌を大切にするということなのだ。特にショパンのワルツやマズルカの、あの素朴な味わいが、その旋律が浮き上がってくる様な演奏だった。
特にショパンのソナタは、そのショパンのショパンらしい歌が山ほど詰め込まれているのだということをとても大切に弾かれていた。前にきいたポリーニの演奏だと、全体の構築といったことや、それぞれの一音一音の音の美しさが際立ってくるのだが、ツイメルマンはフレージングで迫ってくるのである。音楽やメロディに対する愛情がとても感じられたのだ。
そして、あまり美しく磨きすぎない素朴さというものを大切にしている様な気がした。僕はそんなことからも、いつかツイメルマンのショパンのマズルカだけの演奏会をやってもらいたいなあと思った。ショパンのマズルカは、まずいい録音がほとんどない。正直言って、もう40年以上前に録音されたルービンシュタインのマズルカの演奏が最高峰でそれと比べられるものもない。
いろんな演奏家が何曲か録音するのだが、全曲演奏となると他に比較できるものがないほど貧弱で、さらに演奏会で取り上げることもほとんどない。
しかし、ショパンのピアノ曲でもっともショパンらしい、ショパンの心や人柄がでているのは、マズルカではないかなと思うのだ。ランランやボゴレリッチや、キーシンやポリーニでさえ、別にききたいとは思わないのだが、ツイメルマンなら、聞いてみたい。マズルカ!と思ったのだ。
というのも、今宵のツイメルマン。例えばショパンの第二ソナタで、極端にテンポを落として挑戦していた。このソナタの中でちょっと退屈するテンションのやや低い部分で、通常は速めのテンポで一気に弾き飛ばしてしまうのだが、どっしり弾いていた。その誠実なこと。最後の舟歌であの舟歌のリズムと旋律を何よりも大切にしていたこと。何しろソナタの終楽章では若い頃のテクニークが衰えていないことを証明する様な見事な絹織物に緩い光があったているような、手に触れている様な脅威の世界を創りだしながら、何て事ないところで、どかーんと和音のミスをしたり。いやはや、このピアニストはホントに音楽を愛しているのだなと分かったのでありました。
ツイメルマンはデビュー当時は久々ポーランド出身でショパンコンクール優勝者というだけでなく、イケメンピアニストとして売り出されて、正直避けておりました。クラシックまで顔かよ!と思ったのです。当時の僕は池袋西部百貨店のディスクポートというレコード売り場で買うことが多かったのですが、1975年にショパンコンクールで優勝したあとに出されたアルバムが「ショパンのワルツ」で当時はほとんどなかった、ツイメルマンの正面の顔写真がジャケットに使われて、音大生と思われる女の子たちがキャーキャー言いながら買い求めていたのだ。何しろ当時はLPレコードですからね。30センチ×30センチのどでかいジャケです。女の子はみんなジャケ買いしてたわけですね。叔母さまも。当然避けた。こいつ偽物だよ!と思ったんですね。俺は本物を求めるぜ。ルービンシュタインだ!ホロビッツだ!ギーゼギングだ!フランソワだ!と避けていたのである。
でも、しばらく経ち、落ちついてきて、気になって、近くの図書館(石神井図書館)で借りてきいたら、案外良くてカセットテープにダビングして聞いていたな。まあ、ワルツでいい録音はないからな、と思って受け入れたのです。
それから35年の間。ツイメルマンはヒゲと白髪頭になって、もはや誰もイケメンピアニストとは言わなくなったが、音楽は深まり技術は冴え渡った名ピアニストになったのです。シューベルトもベートーヴェンも素晴らしい。亡くなったバーンシュタインやジュリーニ、カラヤンと協奏曲の録音も進んできいてみると、派手さはないが、何か芯があるんだよね。
というわけで、その芯は何だろうかと思いつつ、聴いたら、今日思ったのは、フレージングの中で唄うことってことです。
次は、前述したように、ショパンのマズルカを中心としたプログラム、もしくは、シューマン、シューベルト、ベートーヴェンといった作曲家の音楽をきいてみたいです。
今日、気になったこと。武蔵野市民文化会館は低廉な価格で上質な音楽を聴かせてくれることで本当に貴重な存在だとは思うのだけれど、ちょっとピアノが良くない感じがするのは僕の気のせいか。
ホロヴィッツのように自分のピアノを世界中持ち歩く人ばかりではないだろうと思う。
そろそろ新しいピアノがあってもいいのではないかと思うのだけれども。
そのために、ピアノの入る演奏会のチケット代を毎回500円値上げして、何年間かかけて新しい素晴らしいピアノを買う基金にしてはどうかと思うのだけれど、どうでしょう?それでも十分安いのだから。
ツイメルマンの20年以上前の演奏。先ずは今宵きいたノクターン。この頃と比べてもっと芯だけに削ぎ落とされたいい演奏でした。
そして、スケルツオ2番 これも今宵聞いた方が数段良かったけれども。
ショパンコンクール当時の映像、イケメンで売り出される直前の映像。いつかきちんと聞いてみたいショパンのマズルカの1曲です。演奏は若く成熟はしていない、センチメンタリズムに浸った演奏ですけど。唄うってことは本当にこの頃から大切にしているなと思います。
2010年5月13日 武蔵野文化会館
夜想曲(ノクターン)5番 ソナタ2番「葬送」スケルツォ2番/休憩/ソナタ3番 舟歌作品60
アンコールなし
ツイメルマンのピアノを聞くのは始めてでないのだけれど、僕はこの年齢になってきっと音楽をきくキャパシティが広がったのか、もしくは聴く軸足が定まってきたのか、きちんと聞けるようになってきたように思える。もしくは、この1ヶ月で素晴らしいショパンのピアノ演奏を3つもきいたことからかもしれない。ショパンイヤーでも無い限り、こんなことはあり得ないことだから。ポリーニ、ボゴレリッチ、ツイメルマン。本当に対照的でそれぞれが現代ピアニストの頂点に立つ人たちである。
今夜きいておもったのは、ツイメルマンのピアノには、歌が流れている。美しいフレージングや、その中にある歌を大切にするということなのだ。特にショパンのワルツやマズルカの、あの素朴な味わいが、その旋律が浮き上がってくる様な演奏だった。
特にショパンのソナタは、そのショパンのショパンらしい歌が山ほど詰め込まれているのだということをとても大切に弾かれていた。前にきいたポリーニの演奏だと、全体の構築といったことや、それぞれの一音一音の音の美しさが際立ってくるのだが、ツイメルマンはフレージングで迫ってくるのである。音楽やメロディに対する愛情がとても感じられたのだ。
そして、あまり美しく磨きすぎない素朴さというものを大切にしている様な気がした。僕はそんなことからも、いつかツイメルマンのショパンのマズルカだけの演奏会をやってもらいたいなあと思った。ショパンのマズルカは、まずいい録音がほとんどない。正直言って、もう40年以上前に録音されたルービンシュタインのマズルカの演奏が最高峰でそれと比べられるものもない。
いろんな演奏家が何曲か録音するのだが、全曲演奏となると他に比較できるものがないほど貧弱で、さらに演奏会で取り上げることもほとんどない。
しかし、ショパンのピアノ曲でもっともショパンらしい、ショパンの心や人柄がでているのは、マズルカではないかなと思うのだ。ランランやボゴレリッチや、キーシンやポリーニでさえ、別にききたいとは思わないのだが、ツイメルマンなら、聞いてみたい。マズルカ!と思ったのだ。
というのも、今宵のツイメルマン。例えばショパンの第二ソナタで、極端にテンポを落として挑戦していた。このソナタの中でちょっと退屈するテンションのやや低い部分で、通常は速めのテンポで一気に弾き飛ばしてしまうのだが、どっしり弾いていた。その誠実なこと。最後の舟歌であの舟歌のリズムと旋律を何よりも大切にしていたこと。何しろソナタの終楽章では若い頃のテクニークが衰えていないことを証明する様な見事な絹織物に緩い光があったているような、手に触れている様な脅威の世界を創りだしながら、何て事ないところで、どかーんと和音のミスをしたり。いやはや、このピアニストはホントに音楽を愛しているのだなと分かったのでありました。
ツイメルマンはデビュー当時は久々ポーランド出身でショパンコンクール優勝者というだけでなく、イケメンピアニストとして売り出されて、正直避けておりました。クラシックまで顔かよ!と思ったのです。当時の僕は池袋西部百貨店のディスクポートというレコード売り場で買うことが多かったのですが、1975年にショパンコンクールで優勝したあとに出されたアルバムが「ショパンのワルツ」で当時はほとんどなかった、ツイメルマンの正面の顔写真がジャケットに使われて、音大生と思われる女の子たちがキャーキャー言いながら買い求めていたのだ。何しろ当時はLPレコードですからね。30センチ×30センチのどでかいジャケです。女の子はみんなジャケ買いしてたわけですね。叔母さまも。当然避けた。こいつ偽物だよ!と思ったんですね。俺は本物を求めるぜ。ルービンシュタインだ!ホロビッツだ!ギーゼギングだ!フランソワだ!と避けていたのである。
でも、しばらく経ち、落ちついてきて、気になって、近くの図書館(石神井図書館)で借りてきいたら、案外良くてカセットテープにダビングして聞いていたな。まあ、ワルツでいい録音はないからな、と思って受け入れたのです。
それから35年の間。ツイメルマンはヒゲと白髪頭になって、もはや誰もイケメンピアニストとは言わなくなったが、音楽は深まり技術は冴え渡った名ピアニストになったのです。シューベルトもベートーヴェンも素晴らしい。亡くなったバーンシュタインやジュリーニ、カラヤンと協奏曲の録音も進んできいてみると、派手さはないが、何か芯があるんだよね。
というわけで、その芯は何だろうかと思いつつ、聴いたら、今日思ったのは、フレージングの中で唄うことってことです。
次は、前述したように、ショパンのマズルカを中心としたプログラム、もしくは、シューマン、シューベルト、ベートーヴェンといった作曲家の音楽をきいてみたいです。
今日、気になったこと。武蔵野市民文化会館は低廉な価格で上質な音楽を聴かせてくれることで本当に貴重な存在だとは思うのだけれど、ちょっとピアノが良くない感じがするのは僕の気のせいか。
ホロヴィッツのように自分のピアノを世界中持ち歩く人ばかりではないだろうと思う。
そろそろ新しいピアノがあってもいいのではないかと思うのだけれども。
そのために、ピアノの入る演奏会のチケット代を毎回500円値上げして、何年間かかけて新しい素晴らしいピアノを買う基金にしてはどうかと思うのだけれど、どうでしょう?それでも十分安いのだから。
ツイメルマンの20年以上前の演奏。先ずは今宵きいたノクターン。この頃と比べてもっと芯だけに削ぎ落とされたいい演奏でした。
そして、スケルツオ2番 これも今宵聞いた方が数段良かったけれども。
ショパンコンクール当時の映像、イケメンで売り出される直前の映像。いつかきちんと聞いてみたいショパンのマズルカの1曲です。演奏は若く成熟はしていない、センチメンタリズムに浸った演奏ですけど。唄うってことは本当にこの頃から大切にしているなと思います。
2010年5月13日 武蔵野文化会館
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
HP:
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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