佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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ヘルベルトブロムシュテット指揮
NHK交響楽団
ブルックナー交響曲第5番
ブロムシュテットはつい10年ほど前までは退屈な指揮者だと思っていた。シベリウスなどでいい演奏をすると思っていたけれど、音楽に魅力がないと思っていた。巨匠級の指揮者の音楽ばかりきく僕にとってはいまいちの人だった。それが、2007年5月に北欧を旅行した時にオスロでたまたまきいたコンサートの演奏でおったまげた。しばらく聞いていないうちにものすごい指揮者に変身していた!僕が分かっていなかっただけかも知れないが、それこそ巨匠の風格の音楽家になっていたのだ。個性を押し付ける指揮者ではなく、音楽をそのまま上質に演奏する。素晴らしい演奏家になっていたのだ。
 NHK交響楽団とのブルックナーの演奏でも、最初の一音から音に深みを味わいがあり、抜群のアンサンブルとテンポ感で80分の長大な交響曲を心から楽しんだ。
 ブルックナーは周到に準備され練り上げられていないと退屈してしまう音楽だ。音楽はまるで風や波のように繰り返し押し寄せるが、その変化は微妙で、その微妙な変化に悦びを見出さなくてはならない。単なる繰り返しではすぐに飽きてしまうのだ。アンサンブルがピッチをきっちし合わせ、その微妙な変化も揃って変わっていかなくてはならない。この音楽の魅力を生で初めて教えてくれたのはオイゲンヨッフムだった。2回の来日で、ブルックナーの7番と8番のシンフォニーをアムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団という世界のトップ5に入るオケや、バンベルグ交響楽団という頑なにドイツオーストリア音楽の原色を守っている交響楽団との演奏だった。次はウィーンフィルハーモニー管弦楽団/メータとの7番交響曲も良かった。無くなる直前にきいた北西ドイツ放送交響楽団とギュンターワントの交響曲第5番も名演だろう。2回も聞きにいって散財した。
 しかし、こうした名演に当たることは少なく、期待して聞いたスクロヴァチェフスキ指揮のザールブリュッケン交響楽団の来日公演の7番8番も退屈してしまった。早く終われ!って思った。先年聞いたウィーンフィルとムーティの交響曲第2番も良かったが感動というほどではなかった。
 聞いて良かったと思える演奏になかなか出会えないブルックナー。ましてや日本のオケでは到底無理なシンフォニーだと思っていた。ところが今宵のNHK交響楽団の演奏はとてつもないものだった。ウィーンフィルやシカゴ交響楽団といった超一流のオーケストラと一歩もひけを取らない名演である。このシンフォニーの良さを日本のオーケストラがここまで表現できたことにオドロキを禁じ得ない。それは、緻密なアンサンブルと一心になった音楽が生み出すものだった。それでいて木管の音色は個性的で、弦のしなやかな音はいいようもないオーケストラをきいている喜びがあった。
 最近のNHK交響楽団はものすごい。アンドレプレヴィン、シャルルデュトワ、クリストファーホグウッド、そして、ヘルベルトブロムシュテット。4人の個性の違う指揮者。ただ、名指揮者ばかりだが、その要求にきちんと応え、聞くものに音楽の悦びを味あわせてくれる。来日する二流オケは本当に聞く必要がないなあと思う。30年以上きいているオーケストラだが、これほどの充実ぶりがあるとは思っていなかった。高校2年の時、初めて聞いたプロムナードコンサート。小林研一郎なんかが指揮をとっていたけれど、弦はざらざら、金管はひっくりかえりまくりで、これが日本一なのかと思ったものな。全く違うオケに成長しました。すごいなあ。
 音楽をきく悦びがNHK交響楽団にはある。今シーズンはこれで僕はもうきかないのだが、来シーズンの定期会員も継続しようっと。

 下の動画は、ブロムシュテットがドイツのライプチヒゲバントハウス交響楽団という超一流のオケを指揮した映像です。曲目は今宵と同じブルックナー交響曲第5番。フィナーレ、第4楽章が納められています。今宵のNHK交響楽団の演奏はこれに一歩もひけを取らない名演でした。テレビ収録がされたので、放送の時にはぜひ見て下さい。聞いて下さい。
 


ブロムシュテット指揮のブルックナー交響曲第5番第4楽章冒頭 
ライプチヒゲバントハウス管弦楽団 会場はサントリーホール

続き

お疲れさまでした。
2010年4月22日 サントリーホール
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ロブマーシャル監督
 ベネロペクルス ニコールキッドマン ジュディデンチ ケイトハドソン ソフィアローレン ダニエルディルイス ほか


 ロブマーシャル監督は、この作品がもともとフェリーニの作品だということを熟知して映画化している。カメラワークの自由さ、叙事詩的なストーリー運び、知性よりも感性に訴えなければならないのである。そこにハリウッド映画の弱点があるように思えるのだ。ハリウッド映画は、徹底的なマーケティングに基づいて多くの人に見てもらいたいと作られる映画なのである。
 マーシャル監督はそれに抵抗し、作家性をこの作品に折込もうとしている。半ば成功し、多いに失敗しているように思える。物語が解体されないまま作品は終わってしまうからだ。
 もちろん見どころは山ほどある。美しい美術、美しい女、美しいイタリア。歌が上手い人はいないけれど、ソフィアローレンの歌声を「ラマンンチャの男」以来きけたのはもうけもの。彼女はいまだに魅力的なのは奇跡だ。ジュディデンチやペネロペクルス、キッドマンの歌もきける。
 映画の中では物語は解体されずにあくまでもハリウッド的に進んでいくのだが、観客の僕は勝手に物語を解体し、感覚でこの映画を見ていたのだ。それほど彼女たちは美しい。

2010年4月19日
出演 ロバートダウニーJr ジュードロウ
監督 ガイリッチー


 抜群に面白いホームズ映画だ。主演2人の組み合わせもいいし、2人がこのホームズとワトソンに新しい光を照らしたことも特筆される。音楽や美しい美術にも賞賛を!悪役のマークストロングはどこかで舞台を見ているなあと思うのだけれど。どこだろう?
 きっと続編も作られるだろうから、今から楽しみだ。

2010年4月19日
テリーギリアム監督作品
ヒースレンジャー クリストファープラマー 
ジョニーディップ コリンファレル 出演



 テリーギリアム節が堪能できる作品である。物語はしっかりあって、それはそれで面白いのであるが、作品の魅力は決してストーリーにはない。俳優の演技にもない。何しろ、舞台がまたもや移動劇団。おいおい、「バロン」と似すぎてやないかって感じだ。そして、内部でおきる創造の世界の話も同じ。でもさ、同じでもいいのだ。だって、こういう作品を作れる人はいまや世の中に2人しかいないのだから。テリーギリアムとティムバートン。僕はこれから略して2BigTと呼ぶことにしようかな。クリストファープラマーは、「サウンドオブミュージック」が代表作の古い俳優だが、塗り替えるなあ代表作を。最近いろんな作品に出ていい味出しているのだ。
 こういう作品はテクノロジーの進歩があって可能になった世界。もしも、フェリーニや黒澤明が生きていたら、どんな作品を撮るだろうかと思います。フェリーニなんか嫉妬してるのかな。分からないけれど。テリーギリアムやティムバートンのスゴいところは、テクノロジーで可能になった画像だけれど、手ざわり感っていうか一流の職人が作った空気が残っているんだよなあ。それが、「スターウォーズ」の1〜Ⅲに欠けていたものではないかなあと思った。

山田洋次 監督
吉永小百合 笑福亭鶴瓶 蒼井佑 ほか


松竹映画は生きている。そう感じさせる映画だ。山田洋次は小津さんのことをどう思っているのかしら?そう思いながらも観た。東京大学を卒業し、エリートで左翼という山田洋次監督。知的でな秀才の造り上げた作品も大好きだけれども、やはり小津安二郎には叶わないなあと思うのだ。
 そして、頭のいい人が一生懸命台本を書き、監督をし作っても、例えば寅さんシリーズの渥美清やこの作品の笑福亭鶴瓶の放つ魅力は、彼らを上回ってしまう。台本や演出で描けない深いところを鷲掴みにしていく。すごいなあと思う。山田監督は時代劇ものではそのようなところに頼りはしなかった。いや寅さんシリーズ以降は封印してきたのだ。しかし、この作品で再び自分では及べない才能を受け入れることによって魅力ある作品を作り上げた。知性では届かない魅力がそこにあった。山田監督の偉大さはそういうことをきちんと分かっているところに一端があるのだろう。

2010年4月19日
映画「釣りバカ日誌20 ファイナル」

出演 西田敏行 三国連太郎 浅田美代子 杉野なつ美 ほか

 とても楽しんだ。そして、三国さんが弱って崩れる前にきちんと作品をファイナルしてくれて良かった。ファイナルだからこそ、祝最適なハチャメチャ感のある作品で良かった。それも、三途の川でサンバを延々とやるところなどいいですなあ。もちろん松竹映画の伝統的な市井の人間を描くことも忘れていないのだけれども。しかし、釣りバカの釣り部分は相当ないなあ、これ!と久々にみて思うのだ。いいなあと思っていた杉野なつ美がいい役で出ていたのもとても嬉しかった。彼女は素晴らしい女優です。もっと知られていいのです。
 西田敏行って本当にいいなあと思う。寅さんと並んでやっぱり彼の魅力があったから22本もこのシリーズが作られたのだから。他の俳優も、この作品ではぐっと上手い芝居をする。きっと現場で鍛えられているんだろうなあ。若手の俳優が出ていると本当に羨ましい。いい現場で金もらって、芝居上手くなって,次の現場の仕事につながるんだから。



2010年4月19日
エリックシェーファー演出
コリンエスコット&フロイドマトラックス共同脚本


「この10年に見たブロードウェイ作品で一番つまらない決定打!」
 ブロードウェイは日曜の夜にはほとんどの作品がお休みである。選択肢は少ない。その中で見たのがこれ。1856年12月8日、メンフィスの中小レコード会社のスタジオになぜか、エルビスやヒュールイスら、アメリカのポップス史上に描かせない4人が一堂に介し一夜限りのセッションを行う。その中で、契約問題や、お互いの音楽制の違いなどの対立があったりする。有名どころをコロンビアレコードに取られてぎゃふんなプロデューサーサンレコードのプロデューサーは仕方なく写真を撮った。ま、それだけの話で、本編は80分。それもほとんどが音楽で終わる。終わってからライブが続く。
 何だよこれ。くそつまんねえ。何のヒネリもない。
 ダンスの魅力ゼロ。歌の魅力、これアリものの曲なので特になし。話、ヒネリなし。美術、ありきたり。これだけ、何も見どころの無い作品に出会うのは珍しい。
 それも、これだけの本を書くのに二人掛かりかよ!と思うくらいにアレレな作品。いいところは無いのか。強いて言えば、役者の芝居はうまい。特にサムフィリップスというプロデューサー役をやったハンターフォスターは上手いなあと思っていたら、リトルショップホラーズでトニー賞にノミネート。他にユーリンタウンやプロデューサーズ(レオブルームの役をやったらしい)にも出演している。まあ、一流どころでした。全体的に演奏も歌もいいのだが、何しろこれだけの話なので、セットも小劇場みたいだし。驚いたなあもう。これで130ドル取るってどういうことだよ。まあ、俺は半額チケットだけど。来年の今ごろはやっていないでしょう。


2010年4月18日ソワレ ニーダーランダー劇場(ニューヨーク)
マウリツィオポリーニ コンサート
オールショパンプログラム
2つの夜想曲/24の前奏曲/バラード1番/スケルツォ1番/12の練習曲/アンコールは革命の練習曲ほか3曲

このプログラムとほぼ同じものを日本でもやっているはずで、ビデオの曲は当日冒頭で弾かれた夜想曲の2曲目。ポリーニの演奏は20年以上も聞いている。東京でもロンドンでもニューヨークでもきいてきた。若い頃の磨かれた音の洪水から、近年は枯れてきて円熟な感じがしてきた。きっとポリーニは円熟しないのだと信じていた若い頃の僕の予想は見事にはずれた。老いるということはそういうことなのだ。この日は日曜の午後にカネーギーホール満杯の客。それでも足りなくて舞台上に120席あまりの客席を作ったくらい。当代一のピアニストの演奏をききにきたわけだ。
 後半になると若い頃の演奏に近くなったように感じた。特に練習曲はドライブ感と音に磨きを書けていく若い頃のポリーニのようだった。一度、NHKホールの最前列のど真ん中でヴェートーヴェンの熱情などのピアノソナタの夕べをきいたことがあるのだがうんうん唸りながら、弾いている姿が忘れられない。高校生の時に同級生の国平君とよくポリーニの真似をしたものだ。顔をぐしゃぐしゃにして弾くのが特長だったのだ。もうそんなことはないのだけれど、あの唸りはいまだ健在なのかな。
 カーネギーホール、最近はおとなしい。昔は本当にきらびやかなプログラムばかりだったけれど、最近は聞きたいものがほとんどない。ニューヨークでカーネギーホールに来るのって何年ぶりだろ?前にきたのは昼間に若い楽団にマイケルティルトーマスが教えるっていう奴で小さなホールだった。それをのぞくと10年以上前なのかもしれないなあ。
 カラヤン/ウィーンフィル。ショルティ/ウィーンフィル。内田光子/クリーブランド管弦楽団。フィッシャーディスカウ/シノーボリ/フィラディルフィア管弦楽団。ポリーニ/アバド/ヨーロッパ室内管…。スゴかったなあ前は。。。。



2010年4月18日 カーネギーホール(ニューヨーク)
主演 デンゼルワシントン ビオラデイビス
オーガストウィルソン 脚本
ケニーレオン 演出


 デンゼルワシントンが舞台に立つというので見た。1987年の作品でピューリツア賞受賞のオーガストウィルソン(1945-2005)の代表作。1950年代の何部の家族を描きながら、それは、現代にも通じる話が脈々と流れている。テネシーウィリアムズ的な作品です。
 殺人罪で前科1犯の黒人の男はいまは社会の底辺の仕事をしている。妻とのセックスだけではものたらなく愛人もいる。息子がフットボールで大学からスカウト。それなのに承諾しない。親子のケンカ、家出。愛人との子どもは父親の死後、妻が育てる。
 まあ、とにかく出演者が見事ですなあ。しかし、参ったのは南部なまり。デンゼルワシントンといえば、シドニーポワチエ以来の知性的な黒人俳優のイメージだし、その知的な演技で2回もアカデミー賞を受賞しているわけだけれども、今回は南部の貧しい黒人で、いやはや訛りが強くて分かり難い。英語が!英語がわからねえという苦難はありましたが、おおよそのストーリーはつかめましたな。
 およそ知的な人間ではない男を演じているけれども、その演技自体は知性と品格にあふれていた。ステレオタイプな人間の描き方はしないし、感情をすぐに表には出さないし。素晴らしいものでした。開演前から幕があがっていたので、こっそりセットを撮りました。このまま2時間半、人間に迫る話が、、、、、
 妻役のヴィオラデイヴィスはトニー賞の候補にもなった実力派女優ということで、魅力も演技力もあるのですが、ちょっと感情を表に出し過ぎで分かりやすい演技。
 こういう芝居はとかく主演者だけが目だつ芝居になりがちですが、カンパニーとしてとても良かったです。デンゼルワシントン、本当にいい役者だと実感。今度はなまりの少ない役のものを見たいなあ。





2010年4月16日 コート劇場(ニューヨーク)
主演 ネイサンレイン ビビ・ニューワーズ
作詞作曲 アンドリュー・リッパ




 豪華な舞台セットと見事な演技で本当に楽しませてくれた。しかし、芝居みんな上手いなあと思っていたら、例えば、テレンスマンという人はレミゼのジャベールでトニー賞ノミネート、美女と野獣の野獣でトニー賞ノミネートの三ツ星俳優だったり、トニー賞ノミネートの俳優が合計3人もいました。大スターのネイサンレインや、シカゴのべルマと何かで2回トニー賞受賞のビビがいるだけでなくものすごいカンパニーでアダムスファミリーというよりも、トニーファミリーという感じ。5人もいるんだからね!!!
 ただ、歌はどうなんでしょう?ここでサンバとか、音楽の選び方も詩もいいなと思ったのですが、劇場を出て口ずさめる歌がない。これはミュージカルでは決定的な問題ではないでしょうか?

 しかし、プロデューサーズではバルコニー、おかしな2人では1階後ろで立見でしか観られてこらなかったネイサンレインを前から5列目の特等席で堪能できたのがとにかく良かった。他の俳優も本当にうまくて最高でした。これなら140ドル出す価値は十分あるというものですな!



2010年4月16日 ラントフォンティーン劇場(ニューヨーク)
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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