自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
デンマーク王立歌劇場管弦楽団/合唱団
指揮 Giordano Bellincampi
演出 Peter Langdal
トスカ Iréne Theorin
カラバドッシ Misha Didyk
スカルピア Per Høyer
2005年に新しく立てられたコペンハーゲンのオペラハウスは近代的な北欧建築の推移を集めたもので、シドニーラーセン氏によるもの。何かシドニーのオペラハウスを思わせる奇抜なフォルム。しかし、人魚姫の像や王宮を海?運河向こうにみながらの好立地。ガラス主体の建築物の中に大きな木の球体があり、その中が舞台と客席になっている3階建て。まあ、馬蹄形に近い形のオペラハウスだった。このオペラハウスの建設費460億円はひとりの海運王が出したという。すげーなー。
新しいだけに舞台機構も素晴らしいのだろう。今回のトスカは今までに見たトスカのなかで一番斬新な舞台デザインだった。奥行きのある舞台は5層くらいに別れていて、それぞれがゆがみ上下する。舞台上で起きている事態に併せて安定したり、歪ませてみたりという具合だ。しかし、初めてこのオペラを観る人には分かり難いかもなあと思う。まあ、設定場所は文言で説明されるのだけれど、それだけじゃああね。
オケも歌手も立派な歌唱で、1700人の座席の隅々まで声は届いていた。スカルピア悪漢ぶりもいいし、トスカの情熱さも出ていた。カラバドッシも良かったスヨ。ほとばしるような色気や人間の情みたいなものは感じなかったけれど。良かったです。このオペラはホントに不滅だなあと思いました。そう普通にいい演奏だった。新国立劇場もこのくらいのレベルでやって欲しいと思いました。
オペラハウス(コペンハーゲン)
2008年5月13日
指揮 Giordano Bellincampi
演出 Peter Langdal
トスカ Iréne Theorin
カラバドッシ Misha Didyk
スカルピア Per Høyer
2005年に新しく立てられたコペンハーゲンのオペラハウスは近代的な北欧建築の推移を集めたもので、シドニーラーセン氏によるもの。何かシドニーのオペラハウスを思わせる奇抜なフォルム。しかし、人魚姫の像や王宮を海?運河向こうにみながらの好立地。ガラス主体の建築物の中に大きな木の球体があり、その中が舞台と客席になっている3階建て。まあ、馬蹄形に近い形のオペラハウスだった。このオペラハウスの建設費460億円はひとりの海運王が出したという。すげーなー。
新しいだけに舞台機構も素晴らしいのだろう。今回のトスカは今までに見たトスカのなかで一番斬新な舞台デザインだった。奥行きのある舞台は5層くらいに別れていて、それぞれがゆがみ上下する。舞台上で起きている事態に併せて安定したり、歪ませてみたりという具合だ。しかし、初めてこのオペラを観る人には分かり難いかもなあと思う。まあ、設定場所は文言で説明されるのだけれど、それだけじゃああね。
オケも歌手も立派な歌唱で、1700人の座席の隅々まで声は届いていた。スカルピア悪漢ぶりもいいし、トスカの情熱さも出ていた。カラバドッシも良かったスヨ。ほとばしるような色気や人間の情みたいなものは感じなかったけれど。良かったです。このオペラはホントに不滅だなあと思いました。そう普通にいい演奏だった。新国立劇場もこのくらいのレベルでやって欲しいと思いました。
オペラハウス(コペンハーゲン)
2008年5月13日
オスロフィルハーモニー管弦楽団
指揮 ヘルベルトブロムシュテット
曲目 ハイドン作曲 交響曲101番「時計」
ブラームス作曲 交響曲第1番
このオーケストラが日本に来日すると、シベリウス、グリーグ、もしくは、ドヴォルザークやチャイコフスキーの演奏会ばかりになってしまう。北欧のオーケストラに課せられた宿命みたいなものだ。オスロに行ったついでに、長い夜をどう楽しもうかと思いでかけた。主な理由はホールを見るのがそれだったが、こんなに素晴らしい古典派の音楽を聴かせてくれるとは!予想を遥かに越えた名演だった。ブロムシュテットは北欧系のアメリカ人指揮者である。ライプチヒ歌劇場管弦楽団やサンフランシスコ交響楽団の音楽監督を勤め上げたあと、今はフリーの立場の70代である。
堅実な演奏をする人というイメージが強かったのであるが、何でも2007年にオスロへどこかのオケとやってきて演奏したものが大成功で招聘されたのだと聞く。それだからか分からないが、楽団員ひとりひとりが非常に熱心にブロムシュテットの解釈を探ろうとする、浅薄なセンチメンタルでなくロマンにあふれた音楽を醸し出していた。異様なフォルテシモはないのに、まるで魂の発情とともに沸き起こる大きな音はそこにある。テンポもリズムもアンサンブルもしっかりしているが、ブロムシュテットの微妙な指示や変化にもついていこうとする発意が、自然なグルーブ感を生んでいた。そう、この音楽には自由さがあったのだ。
ハイドンも素晴らしかったが、ブラームスの交響曲1番はこれ以上の名演は、もう聞けないのではないかと思うようなもの。ベルリンフィルやウィーンフィル、アムステレルダムコンセルトヘボウや、今のベルリンシュターツオパー、シカゴ交響楽団できくのと同じような技術的な完璧さがあっただけでなく、音楽をする喜びがあふれていた。だから、あの木管楽器の暖かい音、金管楽器の渋輝きの音が聞けたのだ。3楽章から涙が自然とあふれ、自分が音楽を愛していることの幸せを感じていた。多くの人はブラームスの素晴らしい交響曲を知らずにこの世を去って行くのだから。そして、ブラームスの交響曲を16歳から生演奏で山ほど聞いて来たけれども、このような名演についに出会ったのだと言う喜び。オスロの夜は忘れられない音楽の悦びに彩られることになった。
演奏終了後から10分以上に渡って、ブロムシュテットは何回も呼び出され、会場は徐々に全員が立ち上がって拍手するスタンディングオベーションに変わって行った。もちろん空き席も多数会ったのだが、この素晴らしいオケは欧州旅行を重ねているらしいので近いうちに欧州の至宝として大切にされるようなるだろう。
ホールは2000人ほど入れるような大ホール。舞台後方にも座席はあるが、ワインヤード方式ではない。木質のホールであるが、反響も残響も気になる欠点のあるホールではなかった。デザインは北欧風のシンプルな感じ。
ブロムシュテットは、NHK交響楽団にもよく客演する。ぜひ、N響ともこのレベルの演奏を披露してもらいたいと思った。ああ、出かけて行って良かった!!
オスロフィルのホームページ
オスロコンサートホール
オスロ フィンランド
2008年5月9日
指揮 ヘルベルトブロムシュテット
曲目 ハイドン作曲 交響曲101番「時計」
ブラームス作曲 交響曲第1番
このオーケストラが日本に来日すると、シベリウス、グリーグ、もしくは、ドヴォルザークやチャイコフスキーの演奏会ばかりになってしまう。北欧のオーケストラに課せられた宿命みたいなものだ。オスロに行ったついでに、長い夜をどう楽しもうかと思いでかけた。主な理由はホールを見るのがそれだったが、こんなに素晴らしい古典派の音楽を聴かせてくれるとは!予想を遥かに越えた名演だった。ブロムシュテットは北欧系のアメリカ人指揮者である。ライプチヒ歌劇場管弦楽団やサンフランシスコ交響楽団の音楽監督を勤め上げたあと、今はフリーの立場の70代である。
堅実な演奏をする人というイメージが強かったのであるが、何でも2007年にオスロへどこかのオケとやってきて演奏したものが大成功で招聘されたのだと聞く。それだからか分からないが、楽団員ひとりひとりが非常に熱心にブロムシュテットの解釈を探ろうとする、浅薄なセンチメンタルでなくロマンにあふれた音楽を醸し出していた。異様なフォルテシモはないのに、まるで魂の発情とともに沸き起こる大きな音はそこにある。テンポもリズムもアンサンブルもしっかりしているが、ブロムシュテットの微妙な指示や変化にもついていこうとする発意が、自然なグルーブ感を生んでいた。そう、この音楽には自由さがあったのだ。
ハイドンも素晴らしかったが、ブラームスの交響曲1番はこれ以上の名演は、もう聞けないのではないかと思うようなもの。ベルリンフィルやウィーンフィル、アムステレルダムコンセルトヘボウや、今のベルリンシュターツオパー、シカゴ交響楽団できくのと同じような技術的な完璧さがあっただけでなく、音楽をする喜びがあふれていた。だから、あの木管楽器の暖かい音、金管楽器の渋輝きの音が聞けたのだ。3楽章から涙が自然とあふれ、自分が音楽を愛していることの幸せを感じていた。多くの人はブラームスの素晴らしい交響曲を知らずにこの世を去って行くのだから。そして、ブラームスの交響曲を16歳から生演奏で山ほど聞いて来たけれども、このような名演についに出会ったのだと言う喜び。オスロの夜は忘れられない音楽の悦びに彩られることになった。
演奏終了後から10分以上に渡って、ブロムシュテットは何回も呼び出され、会場は徐々に全員が立ち上がって拍手するスタンディングオベーションに変わって行った。もちろん空き席も多数会ったのだが、この素晴らしいオケは欧州旅行を重ねているらしいので近いうちに欧州の至宝として大切にされるようなるだろう。
ホールは2000人ほど入れるような大ホール。舞台後方にも座席はあるが、ワインヤード方式ではない。木質のホールであるが、反響も残響も気になる欠点のあるホールではなかった。デザインは北欧風のシンプルな感じ。
ブロムシュテットは、NHK交響楽団にもよく客演する。ぜひ、N響ともこのレベルの演奏を披露してもらいたいと思った。ああ、出かけて行って良かった!!
オスロフィルのホームページ
オスロコンサートホール
オスロ フィンランド
2008年5月9日
プッチーニ作曲 歌劇 トスカ
スウェーデン王立歌劇場管弦楽団/合唱団
指揮 Michail Agrest
演出 Knut Hendriksen
トスカ Lena Nordin
カラバドッシ Lars Cleveman
スカルピア Johan Edholm
極めてオーソドックスな演出。しかし、歌手は若い力のある歌手を集めていたので声を聞く楽しみがあった。そして、オーケストラも自発的に音楽を奏でていて、このオペラの魅力を素直に出していたのが好感が持てる。歌手たちは、ここでの経験をもとに世界中のオペラハウスから呼ばれるようになるのだろう。こういう若い才能を見つけ出してくる組織と劇場スタッフに拍手を送りたい。
北欧の歴史あるオペラハウスだけに、場内の雰囲気も良くとても楽しく楽しんだけれど、それだけの公演と言われればそれだけの公演だった。何かこの水準が平均点なら、ロンドンのコペンドガーデンオペラハウスよりは上。ヨーロッパの底力ってのはこういうものだろう。
王立歌劇場のホームページ
スウェーデン王立歌劇場
ストックホルム
2008年5月8日
スウェーデン王立歌劇場管弦楽団/合唱団
指揮 Michail Agrest
演出 Knut Hendriksen
トスカ Lena Nordin
カラバドッシ Lars Cleveman
スカルピア Johan Edholm
極めてオーソドックスな演出。しかし、歌手は若い力のある歌手を集めていたので声を聞く楽しみがあった。そして、オーケストラも自発的に音楽を奏でていて、このオペラの魅力を素直に出していたのが好感が持てる。歌手たちは、ここでの経験をもとに世界中のオペラハウスから呼ばれるようになるのだろう。こういう若い才能を見つけ出してくる組織と劇場スタッフに拍手を送りたい。
北欧の歴史あるオペラハウスだけに、場内の雰囲気も良くとても楽しく楽しんだけれど、それだけの公演と言われればそれだけの公演だった。何かこの水準が平均点なら、ロンドンのコペンドガーデンオペラハウスよりは上。ヨーロッパの底力ってのはこういうものだろう。
王立歌劇場のホームページ
スウェーデン王立歌劇場
ストックホルム
2008年5月8日
ロートレック展
ストックホルムのナショナルギャラリーは100クローネ(2000円)の入場料が必要で、最初は渋々だったが、この特別展示が見られたので満足感がある。ロートレックの作品の中でも油絵を徹底的に収集していて、それを年代別に分けていた.初期のロートレックらしさが出ていない時代のそれや、ポスターデザインで食っていた時代の彼の作品も横目でにらみながら、あまり見られない(劇場らしくない)作品も展示されていて本当に良かった。
ちなみに、同美術館の1階ではロートレックの手法が現代のアーチストにも受け継がれていることを示す展示も行われていて、両方見ることによって大変興味深いものになった。
国立美術館のホームページ
スウェーデン国立美術館(ストックホルム)
2008年5月8日
ストックホルムのナショナルギャラリーは100クローネ(2000円)の入場料が必要で、最初は渋々だったが、この特別展示が見られたので満足感がある。ロートレックの作品の中でも油絵を徹底的に収集していて、それを年代別に分けていた.初期のロートレックらしさが出ていない時代のそれや、ポスターデザインで食っていた時代の彼の作品も横目でにらみながら、あまり見られない(劇場らしくない)作品も展示されていて本当に良かった。
ちなみに、同美術館の1階ではロートレックの手法が現代のアーチストにも受け継がれていることを示す展示も行われていて、両方見ることによって大変興味深いものになった。
国立美術館のホームページ
スウェーデン国立美術館(ストックホルム)
2008年5月8日
監督 ティムバートン
出演 ジョニーデップ アランリックマン ヘレナボナムカーター
ティムバートン監督作品は好きですか?と聞かれれば、もちろん!と答える、もう食傷気味だったバットマンシリーズだってティムバートンに掛かれば暗いダークな美術に彩られて素晴らしい作品になる。シザーハンズ!泣いたよ、俺も!ビートルジュース、エドウッズ、猿の惑星、チャーリーとチョコレート工場、マーズアタック!。何しろ、アメリカの劇場で見た最後の映画が93年のサンクスギビングデイとクリスマスの間に、ロスで見た「ナイトメアーヴィフォアクリスマス」だしね。
そして、ジョニーデップ! ティムとジョニー。世界中の誰もが認める最強コンビの作品だ。
しかし、この作品にはもうひとりの主役がいる。スティーブンソンドハイムだ。いま世界中のミュージカル俳優の最高の尊敬を受ける正真正銘現存するナンバーワンソングライターだ。それは、「オペラ座の怪人」「キャッツ」などの、アンドリューロイドウエッバーを上回る。独特のメロディライン。難解なリズム。しかし、現代の息吹を感じさせ、深い音楽性にあふれる彼の作品は、本当に素晴らしいそのものなのだ。その彼の出世作が1979年のこの作品だ。こんな暗く陰湿な作品を取り上げたことは本当にスゴい。
ちょっと待ってくれ。ティムもジョニーもスティーブも暗いのだ。陰湿なのだ.ダークなのだ。
そして、作品そのものも黒と青を基調とした色彩の中で、無実の罪を負わされ妻と娘を奪われた目の下の隈はまるで歌舞伎俳優のようなジョニーが、暗い室内で、残酷な犯罪を繰り広げる。そんな作品なのだ。それが行けない.今回は違うのだ。話が暗く重く陰湿なだけに、廻りまで暗く重くしてしまっては、その恐怖はあまり感じられない。むしろ、普通の明るい空気の中で、いつの間にか罪の意識も忘れ職人のように喉をかっ切るから怖いはずのだ。
何か怖いものを怖く見せられてもなという感じなのだ。この作品には、もう、見る側の想像力をかき立てる余地が残されていない。むしろ起きていることと反対の空気を創りだすことこそが、観客の心の中にくらい空気を生んだのではないだろうか?面白いが、こういう才能の集結だけに、当たり前のものを見せられてちょっとがっかり。期待を上回るものは生まれなかったのだ。
予告編付き日本語ホームページ
アメリカ映画
2008年5月6日
出演 ジョニーデップ アランリックマン ヘレナボナムカーター
ティムバートン監督作品は好きですか?と聞かれれば、もちろん!と答える、もう食傷気味だったバットマンシリーズだってティムバートンに掛かれば暗いダークな美術に彩られて素晴らしい作品になる。シザーハンズ!泣いたよ、俺も!ビートルジュース、エドウッズ、猿の惑星、チャーリーとチョコレート工場、マーズアタック!。何しろ、アメリカの劇場で見た最後の映画が93年のサンクスギビングデイとクリスマスの間に、ロスで見た「ナイトメアーヴィフォアクリスマス」だしね。
そして、ジョニーデップ! ティムとジョニー。世界中の誰もが認める最強コンビの作品だ。
しかし、この作品にはもうひとりの主役がいる。スティーブンソンドハイムだ。いま世界中のミュージカル俳優の最高の尊敬を受ける正真正銘現存するナンバーワンソングライターだ。それは、「オペラ座の怪人」「キャッツ」などの、アンドリューロイドウエッバーを上回る。独特のメロディライン。難解なリズム。しかし、現代の息吹を感じさせ、深い音楽性にあふれる彼の作品は、本当に素晴らしいそのものなのだ。その彼の出世作が1979年のこの作品だ。こんな暗く陰湿な作品を取り上げたことは本当にスゴい。
ちょっと待ってくれ。ティムもジョニーもスティーブも暗いのだ。陰湿なのだ.ダークなのだ。
そして、作品そのものも黒と青を基調とした色彩の中で、無実の罪を負わされ妻と娘を奪われた目の下の隈はまるで歌舞伎俳優のようなジョニーが、暗い室内で、残酷な犯罪を繰り広げる。そんな作品なのだ。それが行けない.今回は違うのだ。話が暗く重く陰湿なだけに、廻りまで暗く重くしてしまっては、その恐怖はあまり感じられない。むしろ、普通の明るい空気の中で、いつの間にか罪の意識も忘れ職人のように喉をかっ切るから怖いはずのだ。
何か怖いものを怖く見せられてもなという感じなのだ。この作品には、もう、見る側の想像力をかき立てる余地が残されていない。むしろ起きていることと反対の空気を創りだすことこそが、観客の心の中にくらい空気を生んだのではないだろうか?面白いが、こういう才能の集結だけに、当たり前のものを見せられてちょっとがっかり。期待を上回るものは生まれなかったのだ。
予告編付き日本語ホームページ
アメリカ映画
2008年5月6日
東山魁夷の生誕100周年記念展を鑑賞してきた。東京国立近代美術館なので、常設に行けば、岸田劉生や安井曾太郎、フジタなど作品も見られるしなあと思ってである。いや、招待券をもらっていた。いつ見ても東山魁夷の作品は美しい。優しい。それは印刷物で見ても。そうである。本物もそうだった。日本人の美意識にとてもあっている。それを具現化していると言ってもいい。非常に大規模な回顧展で、例えばヨーロッパで書いた作品もある。例えば、フィンランドの森の絵があったり、ドイツの赤煉瓦の古い街並の絵があったりする。それを日本人的な美意識。それを日本人なら誰もが好きな美しい色彩に彩ってみている。美しい。本当に美しい。
でもそれだけだ。僕はこんなに観客で会場が埋め尽くされた美術展は初めてだ。前に進めない。みんなキレイだね。良いよねと言っている。僕ははい分かりました。どれもこれも同じ。みんなみんなキレイ。自分の作風をぶち壊そうとしたことはなかったのか?自分を疑ってみたことはなかったのか?と聞きたかった。美との戦い、対峙というよりも、宗教的に自己の内部にあったものをどんどん深めて行った。そんな感じなのだ。もう一度いうけれど、美しい。でも、自然そのものは、もっと美しい。一瞬にしか見られなくても、それは息づいていて、変化していて、そう生きているのだから。もっと美しい。
美術作品の中から葛藤が見られないのが残念だと思った。そう思って会場を去りかけた時に、急に色が消えた。僕は日本の美術は、西洋の美術家たちが認めたように、北斎などの浮世絵と、横山大観のような水墨画がいちばんだと思っているのだが、東山魁夷画伯が得意としてきた、赤も緑も消し去って、墨だけで書かれた屏風絵があった。それは、本当に素晴らしいもので、自然をただ見ていても見えて来ないものがそこにはあった。それこそが美術家が表現するべきものだし、僕がみたいものなのだ。
ただ被写体、自然や人物を見ていても見えて来ないものが、キャンパスにはドカーンとある。それ。
生誕100周年 東山魁夷展 ホームページ
http://higashiyama-kaii.com/index.html
さて、企画展を後にして久しぶりの常設展?に行くと美術の教科書に出てくる日本画壇の偉い方々の重要文化財な絵がやまほどあった。
そして、いちいち。はい、マチス!ゴッホ!ボナール!と誰に影響されたのか。いや誰の作風の作品なのかをいちいち言いながら、日本が明治に開国して西洋の政治も、経済も、学問から芸術まで取り入れて来た歴史の中に位置づけられるよなあと思った。21世紀になって、ポップアート、工業デザイン、アニメ!な世界で世界の美術に貢献し始めたんだよなあ。これって、江戸時代以来だよなあと思いながら見ていたのだ。
しかし、ここでも例えば、川合玉堂のこの日本的な作品のもっている美しさをみるとハッとさせられたりした。日本美術を見て行くと、僕らの西洋コンプレックス史を見ているようであり、自分の内面にあるものが浮き上がって来たりして、面白いなと思ったのだ。
2008年5月4日
台本 土田英生
演出 茅野イサム
出演 土田裕一 鷲尾昇 上原健太 黒川薫 小須田康人
土田英生のこの作品は、東京でも数多くの上演がされている。流山児☆事務所、花組芝居と個性の強い面々が上演してもびくともしないものを持っている。しかし、男の話だよなあ。若い女性客が観客の98%以上をしめるパニッシュの公演で果たして受け入れてもらえるのだろうかと思っていたら全くの杞憂だった。それどころか、この作品の肝をキチンとあぶり出しながら、社会に対して側面攻撃をしながら時代と向き合う土田の作品の滲み出てくる毒をきちんと観客に届けていた。
観客は多いに笑い面白がっていた。小須田さんが登場するまでが鍵なんだよなあと思っていて見ていたら、冒頭から芝居はアンサンブルを大切に地道に積み上げて行った。決してスタンドプレーはなかった。いつもは、踊りやコント、そして、ミュージカルを楽しんでいるであろう観客から逃げずに、しかも、笑いはあるものの硬質なこの作品と向かい合い、その本質を届けていた。
最初の30分ほど、地道に積み上げて行く。すこしづつ引き込んで行く。役者にとって観客が受け入れているかはとても気になることで、孤独と不安に苛まれるものなのである。しかし、それを手に入れるために、決してなにか変わったことをして人目を惹こうとするような姑息な手段を、演出の茅野イサムはしない。させない。今までもそうだった。むしろ、役者が発するものを芝居の中に取り入れて行くことを大切にする。役者がやりたいこと、得意技を封印するようなことはしないのである。だからこそ、観客と舞台が一体に成るまでの時間を耐え抜くパワーが役者に持続するのである。
しばらくは、いつの時代でもあるおふざけの様な設定のシーン。その4人だけで見せる部分で客を引き込み、小須田さんの登場とともに一気にフルスルットルとなる。なぜ、鉄塔にこの若者はいるのか。何が起きているのか。どんどん、ヤバい種明かしがされるのであるが、客はそれで、それでとなってしまっていたのである。客が引き込まれているのだと確信したのは、しばらくして、パニッシュの二人が舞台から消えるシーンである。客の95%以上は、土屋と鷲尾を観に来ているのである。二人が消えた瞬間に集中力が途切れてしまう可能性があった。しかし、その時点で、客は芝居にのめり込んでいたのである。
シンプルで、しかし、必要なものは全部揃っている美術も良く出来ていて、円形劇場の高さを上手く利用した美術は良かったし、衣装も気が利いていた。上原健太も、先月の「トラオ」とは、芝居の方法論を上手くギアチェンジして、このアウェイな世界で上手く受け入れてもらえていた。
どこが茅野イサムの演出なんだと言う人もいるかもしれない。この王道感のある演出。これが茅野イサムなのである。しかし、作品にマーキングしたがる演出家が多い中で、この座組を生かす舞台を提供し、適切な選択をし、交通整理をすることのできる演出家は数少ないのではないか。演出家は数多くいる中で、最近、茅野イサムが売れっ子な理由が本当に良く分かる。
2008年4月27日
青山円形劇場
演出 茅野イサム
出演 土田裕一 鷲尾昇 上原健太 黒川薫 小須田康人
土田英生のこの作品は、東京でも数多くの上演がされている。流山児☆事務所、花組芝居と個性の強い面々が上演してもびくともしないものを持っている。しかし、男の話だよなあ。若い女性客が観客の98%以上をしめるパニッシュの公演で果たして受け入れてもらえるのだろうかと思っていたら全くの杞憂だった。それどころか、この作品の肝をキチンとあぶり出しながら、社会に対して側面攻撃をしながら時代と向き合う土田の作品の滲み出てくる毒をきちんと観客に届けていた。
観客は多いに笑い面白がっていた。小須田さんが登場するまでが鍵なんだよなあと思っていて見ていたら、冒頭から芝居はアンサンブルを大切に地道に積み上げて行った。決してスタンドプレーはなかった。いつもは、踊りやコント、そして、ミュージカルを楽しんでいるであろう観客から逃げずに、しかも、笑いはあるものの硬質なこの作品と向かい合い、その本質を届けていた。
最初の30分ほど、地道に積み上げて行く。すこしづつ引き込んで行く。役者にとって観客が受け入れているかはとても気になることで、孤独と不安に苛まれるものなのである。しかし、それを手に入れるために、決してなにか変わったことをして人目を惹こうとするような姑息な手段を、演出の茅野イサムはしない。させない。今までもそうだった。むしろ、役者が発するものを芝居の中に取り入れて行くことを大切にする。役者がやりたいこと、得意技を封印するようなことはしないのである。だからこそ、観客と舞台が一体に成るまでの時間を耐え抜くパワーが役者に持続するのである。
しばらくは、いつの時代でもあるおふざけの様な設定のシーン。その4人だけで見せる部分で客を引き込み、小須田さんの登場とともに一気にフルスルットルとなる。なぜ、鉄塔にこの若者はいるのか。何が起きているのか。どんどん、ヤバい種明かしがされるのであるが、客はそれで、それでとなってしまっていたのである。客が引き込まれているのだと確信したのは、しばらくして、パニッシュの二人が舞台から消えるシーンである。客の95%以上は、土屋と鷲尾を観に来ているのである。二人が消えた瞬間に集中力が途切れてしまう可能性があった。しかし、その時点で、客は芝居にのめり込んでいたのである。
シンプルで、しかし、必要なものは全部揃っている美術も良く出来ていて、円形劇場の高さを上手く利用した美術は良かったし、衣装も気が利いていた。上原健太も、先月の「トラオ」とは、芝居の方法論を上手くギアチェンジして、このアウェイな世界で上手く受け入れてもらえていた。
どこが茅野イサムの演出なんだと言う人もいるかもしれない。この王道感のある演出。これが茅野イサムなのである。しかし、作品にマーキングしたがる演出家が多い中で、この座組を生かす舞台を提供し、適切な選択をし、交通整理をすることのできる演出家は数少ないのではないか。演出家は数多くいる中で、最近、茅野イサムが売れっ子な理由が本当に良く分かる。
2008年4月27日
青山円形劇場
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
HP:
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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