佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 バイエルン国立歌劇場 2011年 来日公演 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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 何回目の来日なのでしょう。第2回目の来日から、20年以上、ミュンヘンにも何回かでかけ聞いていて思うのは、ドイツオペラの最高峰ということ。今回もレベルの高いパフォーマンスが期待されています。新しい芸術監督がケントナガノであること、そして、ドイツ演劇の影響を受けた現代的な演出も楽しみです。






ドニゼッティ作曲「ロベルト・デヴェリュー」全3幕
Gaetano Donizetti ROBERTO DEVEREUX  
指揮 :フリードリッヒ・ハイダー 演出:クリストフ・ロイ

エリザベッタ:エディタ・グルベローヴァ
Elisabetta Edita Gruberova
ノッティンガム公爵:デヴィッド・チェッコーニ
Herzog von Nottingham Devid Cecconi
サラ :ソニア・ガナッシ
Sara Sonia Ganassi
ロベルト・デヴェリュー:アレクセイ・ドルゴフ
Roberto Devereux Alexey Dolgov


「グルベローヴァは全盛期を過ぎたけれども」
二人の代役の男性も頑張ってはいたけれども、今宵は女性二人の歌手がさらっていった。存在感、演技力、そして、全盛期より若干落ちるが、すべての音域の歌唱が見事に構築されていたグルヴェローヴァはさすがと言わざる終えない。最初の登場で空気が変わってしまう。すごい。まあ、彼女のすごさは多くの人が語るだろう。私は、ソニアガナッシが、グルヴェローヴァに負けじと頑張っていた事を強調しておきたい。嫉妬と悪意に負けてしまう女の感情も歌に見事に入れ込んでいたと思うのだ。そして、技術も最高水準だった。
 現代企業の女社長に読み替えた演出は、まあ、それで?という感じだが、合唱の人の動かし方が、ボローニャのそれと比べると段違いでそれが気になって仕方なかった。オーケストラは悪くなかった。
2011年9月27日 東京文化会館


「ナクソス島のアリアドネ」
Richard Strauss ARIADNE AUF NAXOS  
Oper in einem Aufzug nebst einem Vorspiel

指揮:ケント・ナガノ
演出 :ロバート・カーセン

音楽教師:マーティン・ガントナー Ein Musiklehrer Martin Gantner
作曲家:アリス・クート Der Komponist Alice Coote
バッカス / テノール歌手:ロバート・ディーン・スミス Bacchus / Der Tenor Robert Dean Smith
下僕:タレク・ナズミ Ein Lakai Tareq Nazmi
ツェルビネッタ:ダニエラ・ファリー Zerbinetta Daniela Fally
アリアドネ / プリマドンナ:アドリエンヌ・ピエチョンカ ariadne / Primadonna Adrianne Pieczonka


「緻密なアンサンブル、素晴らしい演出 So What?」
1階のど真ん中ブロック5列目の通路際という最高の席で鑑賞。今回の来日は福島原発事故、東北大震災の影響もあって、多くのカンパニーのメンバーが来日を拒否したといわれる。その数は80人とも100人とも言われる。一部の人がオケのレベルや合唱が良くないといわれたりするのはいわゆる代役のエキストラがドイツのそこそこオケから駆り出されていたからだろう。しかし、この作品は室内楽にもにた小編成でおこなわれるものだから、そういった部分での不満はなかった。ケントナガノの指揮がすきかどうかと問われるとまだ分からないというのが正直なところだけれども、今宵のリヒャルトシュトラウスからも何かあの独特のこぶし?が聞こえなかった。スコアは透徹され見直されくっきりと浮き上がってくるけれどもだ。
 演出はボローニャ、バイエルンで見た6つの作品のなかで最も良かった。無理な読み替えはないし、現代的な味付けはされていたし、人間の関係性が良くわかる演出だった。開幕前、バレエのレッスン場となっている。ミュージカル「オリバー」の自信をもってなどのポピュラーの楽曲のピアノ伴奏でダンスが踊られているのだ。そこに作曲家の教師が現れ物語は始まる。舞台は現代。ほぼ素舞台に近いところに無数の鏡が「コーラスライン」のようにあり、それらが動いて場面を作る序章。舞台全体をほぼすべて黒い箱で覆い尽くし、終幕に奥が割れて光が入ってくるだけの1幕。それでもとても良く出来ていた。歌手もチェルビネタを中心に悪くはない。
 しかし、ここには、グルヴェローバやポータの様な圧倒的な声の持ち主はいない。カリスマ性のある歌手もいなかった。アンサンブルで見せる作品だった。関心したけれど、感動しない。そんな上演だった。
 オペラには理屈を超えた何かがないといけないのだ。
 2011年10月5日 東京文化会館






Richard Wagner ローエングリン LOHENGRIN  
指揮:ケント・ナガノ 演出:リチャード・ジョーンズ
ハインリッヒ王:クリスティン・ジークムントソン
Heinrich der Vogler Kristinn Sigmundsson
ローエングリン:ヨハン・ボータ
Lohengrin Johan Botha
エルザ・フォン・ブラバント:エミリー・マギー
Elsa von Brabant Emily Magee
フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵:エフゲニー・ニキーチン
Friedrich von Telramund Evgeny Nikitin
オルトルート:ワルトラウト・マイヤー
Ortrud Waltraud Meier


「ワーグナーを聴く喜びにあふれた名演」
ヨハンポータは確か前にもきいたことがあると思うのだけれど、強い印象が残っていない。かつて80年代を中心に、ルネコロやペーターホフマンの全盛期を山ほどきいている私にとっては、たとえ、ドミンゴがワルキューレを唄っても、過去にきいたそれらの名テノールの声が心のどこかにこだまして満足ができないものだった。しかし、この日のポータはどうだろう。全ての音域を完璧に発声し、最強音も自らのコントロール下におき見事に唄いきったのだ。この日のポータの名唱は、ガツンと私の記憶の中に残り、またヘルデンテノールの魅力を再認識させてくれ、ルネコロが抜けた虚脱感をやっと埋めてくれた。
 確かに、ルックス的にはカウフマンには適わないだろうし演技力も落ちるだろう。しかし、3800人を収容するNHKホールの最後列のお客にまでワーグナーをきく喜びを伝える事がカウフマンにできるのだろうか?いづれにせよポータで良かったと言わざる終えないのだ。そして、マギー、ジークムントン、ニキーチンも最高峰のワグナー体験をさせてくれた。演技力や存在感はあるし、見事な歌唱を聴かせる事もあるのだが、すでに20年以上のキャリアのマイヤーが見劣り、いや聞き劣りするくらいなのだ。マイヤーは全盛期のそれではないものの、1990年代から、それこそルネコロらと一緒に唄っていた人だ。今日も第一線で唄っていること自体が奇跡なのだ。
 日本のファンのために、最後に小さめの箱である新国立劇場で唄って欲しい。きっとそんな遠くない未来に引退されるだろうけれども。今宵はマイヤーの黄昏を感じた。
 ナガノの指揮は、もう十分にドイツ音楽の真髄の音を鳴らすこのオケから明瞭でくっきりとしたスコアの音を引き出していた。重々しくなく、しかし、ワーグナー的な見事な演奏だった。合唱もすばらしく。文句なし。演出が家が建ち、それを自ら燃やしという部分とあとはその間を幕前の歌唱という、まあちょっとイマイチだし変わったものだったけれど、合唱の動かし方などもすごく考えられていた。

2011年9月29日 NHKホール



2011年10月 東京文化会館 ほか
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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