佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 井脇バレエカンパニー「ドンキホーテ」と東京バレエ団「横浜ベイサイドバレエ」 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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井脇の見事なキトリと菅野の底抜けに明るいバジル
若手の台頭著しい東京バレエ団で木村和夫の楷書なバジル



 二日続けてバレエを見た。1本目は東京バレエ団の横浜ベイサイドバレエ。象の鼻パークという横浜の山下公園のそばというよりも大桟橋埠頭のそばにある公演に特設ステージを作っての野外バレエ。ちょうど1ヶ月ほど前にイタリアのベローナで、野外オペラを始めてみたのだけれど、今度はバレエだ。チケットを買った時には8月だから暑くてたまらんだろうなあと思っていたら、涼しくて助かった。夕刻から始まるので最初の演目「タムタム」などは暮れ行く横浜を行き交う客船などの姿もあって楽しい。
 タムタムはアフリカのリズムに合わせて踊るものだから、祭典の始まりの演目としても素晴らしい。バレエというよりもダンスに近いのだが、東京バレエ団はパリオペラ座バレエ団と並んで、いろんなタイプの踊りをレパートリーに入れているカンパニーなのでお手のものである。岸本秀雄という若いダンサーがソロを踊るのだが、白い衣装を身にまとっているのだが、薄暗い中で手足が長くて日本人離れしているなあと思った次第。この東京バレエ団も1980年代の半ばから見ているのだが、昔はホントに体躯に関してはデコボコだったから。
 群舞が大切なのだが、ここでやはり吉田蓮のことを言わずにはいられない。この人は数年前の子どものためのバレエで「眠り」の猫の役柄をやって出て来て、それがね、もう楽しそうで楽しそうで、相手の女の子を完全に引張っていて、すごいなあと思った次第。群舞でも悪目立ちしているわけでもないのに、すっと目に入って来てしまう吉田蓮であります。「タムタム」面白かった。



 次は明るいスペインのバルセロナの朝である。ドンキホーテの一幕からキトリとバジルを中心に明るい恋の駆け引きに、笑いを誘うサンチョパンサが加わって最高に楽しい作品である。1年前に東京バレエ団でも観たのだが、こうして野外で見ても楽しい。上野水香がキトリ、そして、もう半ば引退した重鎮の木村和夫がバジルである。
 バレエの技術のことは何も分らないが、上野のキトリは踊ることの楽しさがこちらにも伝わってくる。上野キトリを活き活きと踊る姿は見ていて嬉しくなる。木村バジルは楷書のよう。ひとつひとつの動き、トメを丁寧に愛おしく思って踊っているようだ。そして、このカンパニーの今や最長老の現役先輩がメインの舞台を共にするのを、後輩達がすごく喜んで踊っているのも手に取るように分る。そして、最近思うのだけれど、今回も奈良春夏の品のいい踊りは何回見てもいいなと思う。品がいいのだ。エスパーダの森川は堂に入って立派。氷室はサンチョパンサも、がマーシュも見事に踊れるだろうから、次はガマーシュも見てみたい。そして、今宵のガマーシュは岡崎。今の日本の若いダンサーはこうした個性的なダンスも見事にできるようになったんだなあ。でも、まだ岡崎は若いのだから超絶技巧も見せて欲しい。「ドンキ」1幕より 楽しかった



ボレロは今宵がメロディデビューの柄本弾。この人は、普通のノーブルな役柄よりもこういう偶像系の役柄の方が向いている。もしくはちょっとクセのある役。どうも、東京バレエ団の女性と踊るとサイズが合わないと感じる事も多い。渡辺や上野とは役柄によってはいいんだけど。普通のバレエでいいなあと思ったのはロミオ。ロミオって狂気だからね。そして、去年のエスパーダ。気持ちよく踊っていた。今年のソロルは他の予定で見られなかったから。上野水香がベジャールから古典まで何を踊っても見事だけれど。で、感想。今日のはちょっと守りのメロディだったように思う。もうこのボレロをいろんな人で見て来たけれど、東京バレエ団の男だったら後藤の狂い方が良かったな。
 強烈なカリスマが世の中を革命して行く、ジョルジュドンを上回ったと言われるようになるか!要はもっと狂気というか、陶酔感というかね。クールすぎた。ま、これから何十ステージも10年以上踊るのだろうから、弾メロディが成長して行くのも楽しみである。

翌日観たのが、井脇バレエカンパニー Iwaki Ballet Comnpany(初見)の「ドン・キホーテ」。1ステージしかやらないのが勿体ないくらい高い水準のもので驚いた。
 申し訳ないけれど、通常はこの手の公演は、バレエ教室の発表会的な要素が強いものも少なくなく、客席も関係者だけで埋め尽くされる。今回、東京バレエ団で数々の名舞台を踊った井脇がキトリを踊るというので、そして、井脇のキトリは見た事が無かったので出かけた。
 バジルは新国立劇場バレエ団の菅野英男だったが、今日の菅野は、僕が初台で舞台で見ていた菅野と違う。初台では、何か守りのバレエというか、国立の劇場らしい重々しさ、それは、歌舞伎座と国立劇場の公演にも言える事なんだけれど、を感じてしまう。もちろん個々のダンサーが打破してくれたりすることもあるのだけれど、全体を覆う「安全パイ」な雰囲気は否定できない。今日の菅野バジルは若々しく、自由で踊る喜びに溢れていた。終幕でのマネージュ、ピルエットアラスゴンド。びしっと決まる。俺はもっと先にいけるぜ!みたいに踊ってくれるので見ていて、迫力あるし緊張感あるし面白い。挑戦するのを楽しんでいるのだ。一流のダンサーが自分の肉体と自問自答している感じ。
 キトリも舞台を知り尽くしたベテラン井脇ならではの、見事なもので、若いというよりも、熟したスペイン女の恋の駆け引きを見事に演じていて、それはそれで面白い。技術的に衰えたかな?と思って意地悪く見るのだが、先のシーンだけいっても、グランフェテ、アントゥールナン
 最後に軸がちょいとずれるかなと思ったら踏みとどまって、ほっとして、嬉しくなった。こんなギリギリまで挑戦して踊っているのだ。それは、客席に伝わらないわけはない。ピケも、ブラボーなのです。
 主役だけでなく、吉田和人、小笠原亮という東京バレエ団出身者が、ガマーシュとパンサ。吉田ってこういう役もこんなに見事に演じるのだと思って驚いた。小笠原亮は元々技術も演技力も凄いのだから当たり前だけど。他にも宮本祐宣など、東京バレエ団出身者が何人も出ていた。今日の男性陣はとにかく水準が高かった。群舞がビシビシ決まるのが心地よい。会わせることに気を使うというよりも、ギリギリ感を持って踊っている。踊り自体も合ってはいるのだけれど、それ以上にギリギリ感を攻めてる気持ちがひとつなんです。俺はもっと踊りたいんだ!踊れるし!踊るから!その気持ちがひとつ。
 一流のダンサーでもカンパニーを去るととたんに踊る機会が減る日本の舞台事情。今日は、水を得た魚のように、この舞台で全力を出し切る一流のダンサー達だ。
 それは、このカンパニーの他のコールドの人達にも十分伝わっていい化学変化を生んだ。
 1幕のバルセロナシーン。街の人がほとんど女性でアレレ!となってはいるがそれはご愛嬌。みんな舞台に立つ喜びを全身で表現してくれていて、何かね、いいんですよ。夢の場でのコールドも緊張感があって綺麗だったなあ。他の水準が高いからね、ここで私だけが落ちるわけにはいかないってことなんでしょうか?分らないけれど、ひとりひとりが美しいお嬢様たちでした。
 他のソリスト、江本のエスパーダ、工藤加奈子の踊り子も見事。亀田の森の女王も美しい。ということで、きっとまだバレエを勉強中という方も混ざっている公演だったはずなのに、昨晩の東京バレエ団の第1幕と遜色ない出来で驚いた。
 強いて言うと、メイン以外の衣装は東京バレエ団の方が良かったが、舞台美術も照明も美しく楽しんだのでありました。
 会場には高岸直樹が来ていた。来年当たり、出演かな?

しかし、井脇さん。こうやって自ら公演をする苦労は想像を絶する。俺も前に小劇場の舞台やったからね10回も。しかし、こうやって、もう見られないかもしれないと思っていたダンサーのすごさも分る素晴らしい舞台を作ってくれて感謝したい。
 希望としては、小笠原亮にもっと技術的に難しいダンスの見せ場のあるものを見たい。そして、高橋竜太にも踊ってもらいたいと思った。東京バレエ団をやめた女性達も招いてあげて欲しいと思った、まあ、女性で踊りたい人は山ほどいて、上手い男性は比べると多くないだろうからこうなるのは分るのだけれど。 

 東京バレエ団 横浜ベイサイドバレエ 2015年8月29日 横浜象の鼻パーク特設ステージ
 井脇バレエカンパニー「ドン・キホーテ」 2015年8月30日 五反田ゆうぽうとホール
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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