佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 文学座「リア王」 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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江守徹のリア王は、文学座最高の俳優陣の名演で演劇史上に残る必見の名舞台

 文学座アトリエにて、文学座公演「リア王」を観劇。鵜山仁演出。小田島雄志翻訳版。やはり注目は大病でしばらく舞台から遠のいていた名優・江守徹がリア王を演じるということだ。江守のリア王を見るのは初めてだし、だいたい日本でプロの劇団がリア王を演じることはあまりない。それほど深く難しい作品なのだ。私は、蜷川幸雄がロイヤルシェイクスピアカンパニーを埼玉に招き、道化に真田広之をキャスティングして上演した「リア王」が好きだ。リア王はマクベスとは違う。絶望の中でもがき狂い死んでいく男の話なのだ。ナイジェルホーソンというサーを持つ名優が死の直前にリアルに演じた。1999年の上演だ。  
 江守徹は、きっと一時よりは相当回復し、良くはなったのだとは思うけれど、かつて彼がもっていた俳優としていろんなものをもぎ取られていた。滑舌、リアクションなどそれは哀しいほどだった。耳にはイヤホンが埋め込まれている。抜けた台詞のプロンプのためなんだと思われる。
 しかし、そうではあったけれども、江守徹の今をここまでさらけ出し、舞台に当たった事が却って、リア王の哀しみや絶望、怒りなどを見事に表現する肉体になっていたのだ。舞台の終幕で殺された3女を抱きながら嘆き長台詞など見事のほかない。むしろ、江守の持っていた演劇人としての多くの技術のほとんどが削ぎ取られ、演じる本質だけが残っているのだ。それだからこそ、この老王の悲劇を演じるのにふさわしい肉体になっている。皮肉なことであるが、涙なしではみられない超名演である。アトリエの限られた空間でこれがみられる贅沢さ!これは、日本演劇上演史に残る名舞台が誕生したといいたい。
 こういうのこそ、NHKは舞台中継して、ドキュメンタリーも作成して演劇を盛り上げて欲しいなあと思うくらい。
 そして、廻りの演技陣の素晴らしいこと。同じく絶望のどん底に突き落とされるグロスター候は坂口芳貞。相変わらずの若い感性と若い俳優がやってしまう、シェイクスピア劇ってこう語るんでしょ、こう演じるんでしょという何もない空虚な型を追う演劇から、完全に自由。くだらないものが全て削ぎ落とされた演技は見事というほかはない。それは、別役ものなどで名演を披露し演劇人として絶頂期にある(何で映像や他の舞台がもっとオファーしないのか分からない)金内喜久夫の道化もそうだった。真田広之がアクロバティックな動きで魅せたのと対象的に、道化の内側に迫り、この名作になぜシェイクスピアが道化を登場させたのか、この演技をみてなるほど!と膝を叩いた。
 そして、ケント公の外山雄二の品格のあること。3時間の冒頭から最後まで通して悲劇の目撃者として見事な役回りを演じるのだ。それは、比較的小さな役であったが、高瀬哲朗にも言える。この俳優が上手下手にたち、舞台中央の俳優の作り出す物語を見ている、聞いていると、観客は、まるで映画のように、役者の演技に集中し、まるでクローズアップの演技を見ているような効果をもたらす。比較的若手では浅野雅博が良かった。外部公演でも、ジムキャリーのように芝居ごとに見事に変身してしまう浅野であるが、今回も同様。エドガーを演じた。演じ分けすぎた感じもあったが…。エドマンドを演じた若い俳優は、この浅野エドガーによって大いに助けられていた。コーンウォール公を演じた俳優の名前は分からないが良かった。その他の俳優陣も、古典劇の台詞を一度根本から洗いなおして、魂から発せられた言霊として、人間の性質の当然の行為として再現、いやいまそこに起きている事件として、あった。素晴らしい演技であり上演だった。
 女優陣は、少し古典劇、朗々と謳い揚げるタイプの演技に走りがちな部分もあったが、これだけ文学座の名うての男優陣が存在感があると、あそこまでやらないと負けちゃうなとも思った。コーディリアの岡崎はいいキャスティング。
 せっかくの江守リアなのだから、もう少し大きな劇場でとも思ったが、なるほど、これはアトリエ公演がふさわしい。チケット代が4000円では安すぎる感じはあるが。。。
 アトリエ公演で、シェイクスピアの芝居らしく、ほぼ何もない白い空間に王宮の、戦場の、人生の、無限大の虚無感が広がっていく。前売り券は完売らしいが、演劇ファンなのであれば、何としてでもチケットを手に入れて観に行くべき、なかなか見られない代物である。必見。日本演劇上演史に残る名舞台なのだから。それも、リア王で!
 2015年1月9日@文学座アトリエ
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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