佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 音楽 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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ブラームスの交響曲3番がコンサートのプログラムに入ることはとても少ない。
外来オケのコンサートでも、ブラームスときたら1番交響曲ばかりで、時たま4番が入ってるくらい。
2番や3番の交響曲が演奏されるのは、交響曲全曲演奏会というときでないと聞くことができない。
その理由は分からない。
6年前の2013年9月にブロムシュテットがN響と取り上げたときも同様で、その時は2番と3番を一晩でやった。
1番や4番には客が相当入っていたが、その日は本当に空席が多くてびっくりしたほどだ。
滅多に生で聞けない2番や3番の交響曲。それもブロムシュテットなのに、なんでだろうと思った。


 僕にとって3番交響曲は初めての交響曲だ。自分でチケットを買って初めて出かけた外国のオーケストラの来日公演。いや、僕の親はクラシックのコンサートに行く人ではなかったから、ほとんど初のコンサートでもあった。
それは、小澤征爾のボストン交響楽団との初来日。1978年3月。場所はもうコンサートでは使われない普門館。
1階席の一番後ろを梶本音楽事務所が学生席として2000円という当時としても破格値で出してくれて聞けたのだ。
 その日の夜の演奏会は、ブラームスプロで、ピアノ協奏曲の1番をルドルフゼルキンの独奏。そして、3番交響曲だった。


 テレビ「オーケストラがやってきた」で見る小澤征爾を生で見るということ、ちゃんと一音逃さず聴きたいと、荻窪の駅前にあった月光社という中古レコード屋で、ゼルキンのレコードを聴いて何回も聴いて予習して出かけた。
 でも予想ははるかに越えた。
 まだ10代だった僕はオーケストラの美しい音に本当にびっくりしてしまって、会場から全てのお客さんがいなくなった後も帰れなかった。不思議なのは誰も怒らなかった。もう私服に着替えた団員の人がステージに戻ってきて放心している僕を見つけて何か声をかけた。英語だから分からない。知ってる単語を並べて、僕は何か言ったと思う。そしたら、すごくにっこりされたのを覚えている。
 その日のブラームスの交響曲3番は、僕にコンサート通いをさせるきっかけを作ってくれたのだ。コンサートホールに身を埋めるとこんな経験ができるのだと。プログラムにサインをもらって僕は帰った。3楽章のメロディーを口づさんだ。
 あれから、何年経ってもあのブラームスの交響曲3番の演奏であんな感動に出合うことはなかった。6年前のブロムシュテットの演奏や、北ドイツ交響楽団と来日し、ブラームス チクルスをやったホルストシュタインでも、何回かのサバリッシュでもなかった。
 今日の演奏会は当初、前半のピアニストはピーターゼルキンが予定されたものだった。ルドルフの息子。キャンセルされたけれど。そこに並んだ3番交響曲のプログラムを見て、僕は自分の若い頃のあの演奏会を思い出したことは言うまでもない。
 今日も満席だったというわけではない。空席もあり、当日券もまだまだあった。
 3番交響曲が始まった途端、僕はあの若い日の演奏をすごく思い出した。なぜだかは分からない。


 NHK交響楽団の技術力や表現力はもう世界のトップクラスだし、緻密なアンサンブルとドイツ的な音としなやかな表現力は立派なオケの個性にもなっている。でも、そういう表現では説明できない。会場中の集中力が高まっていくのも感じだ。
 僕は聴きながら、団員の人が一音一音慈しみながら演奏していることが伝わってきた。92歳のブロムシュテットと、もう一度、この3番交響曲を演奏する機会は果たしてくるのだろうか?いやブロムシュテットとの3番交響曲はこれが最後かもしれないという思いがどこかにあったに違いない。この素晴らしい演奏と出会っている今、でもそれは同時に別れでもあるのだ。
 1楽章が終わった後、たっぷりのパウゼはあったが、残りは続けて演奏された。最後の一音が消えた後の長い沈黙は消えゆく音を会場中が慈しんだ証拠である。3楽章からなぜか泣けてしまった。
 1980年代から始まったブロムシュテットとN響の演奏の積み重ね。昭和、平成、令和と繋いでくれた。当初の頃は、サバリッシュ、シュタイン、スイットナーらドイツ音楽の重鎮がN響にいたためか、正直ブロムシュテットの存在は薄かったように思う。
 大抵の老境に達した大指揮者が重厚さと低い重心の音作りをするのに、この翁はいまだに若々しく前を向いている。決してそれまでの繰り返しではない。積み重ねはあるけれど、毎回が新しい。そして、むしろ軽やかで前向きだ。
 それが、92歳のブロムシュテットの魅力である。僕がそれに気がついたのは決して昔ではない。旅先のオスロのシンフォニーホールで聞いたブロムシュテットと北欧のオケとのブラームス だった。2008年の5月のことだ。びっくりした。今から思うともう80代だったわけだ。
 すごいことになってるぞと思った。僕が若い頃からコンサートホールで聴いてきた大指揮者、例えば、カラヤン、サバリッシュ、ショルティ、クーベリック、テンシュテット、チェリビタッケ、ヴァント、ジュリーニ、ヨッフム、クライバー。そうした大指揮者が全員鬼籍に入った後の、空白を埋めてくれた。
 でも、そのブロムシュテットともお別れの時が確実に近づいている。心のこもった美しい演奏であったが、出会えた喜びと別れの哀しみが同時にあるそんな演奏会だった。先週から、ウィーンフィル、N響、インバルの都響、ジョナサンノットの東京交響楽団、そして、コンセルトヘボウ、ベルリンフィルとなんかすごいことになってる東京の演奏会だが、今週末もう一度ブロムシュテットの演奏会がある。
 モーツアルト。ミサ曲とリンツのシンフォニー。1週間、きちんと準備をしていこうと思う。
しかし、本当に一生モノのブラームスの3番だった。
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NHK交響楽団から定期会員に手紙が届いた。
2020年ー22年のNHKホールの長期改修工事の期間中の会場についてのお知らせだ。

20−21年のシーズンはAプロは2月まで6プログラム、12公演をNHKホールでそのまま行う。そして、4月からサントリーホールで3プログラム6公演を特別公演として行うという。
Cプロはシーズンの最初、9月から池袋に移動する。9プログラム18公演を池袋の東京芸術劇場で今まで通り、金曜夜と土曜昼に行うという。
翌年の2021ー22年のシーズンは、A・Cプロとも全ての公演を池袋に移動する、サントリーのB定期はそのまま。
そういうことになった。





 東京在住の私にとって、一番怖れていたのは定期演奏会の横浜化である。遠い。遠すぎる。もう一つは東京文化会館の利用である。あそこはパフォーミングアーツを観る劇場だと思ってる。20代前半まではあそこでよくオーケストラの演奏会を聴いたが、なんか時代が30年以上も逆戻りだ。渋谷で地の利のいいオーチャードホールでもいいのだが、すでにオーチャード定期があるから無理だろうしな。そんな風に色々と思ってたのだ。
繰り返しになるが、NHKホールの改修の発表があった時からN響のAC定期演奏会の会場は可能性として、サントリーホール、すみだトリフォニーホール、東京芸術劇場、もしかしたら、東京文化会館や、オーチャード、思い切っての横浜移動(川崎含む)ということ以外には考えられないと思ってた。本当に横浜や川崎もあるかもと思っていた。何しろ、サントリーホール改修中にB定期の代替定期を音響的に大評判の、そして確かに音のいいミューズ川崎で3公演したこともあるから、横浜・川崎化もゼロではないと思って恐れてた。だから、池袋駅から歩いて3分程度の東京芸術劇場コンサートホールに落ち着いたことでほっとしている。あそこはいいコンサートホールだからだ、
 きっとNHK交響楽団事務局は全ての定期演奏会のサントリーホール化をまずは希望した、狙ったとは思う。しかし、あのホールは人気が高すぎる。日本フィル、東フィル、東京交響楽団、読売交響楽団、都響がすでに定期公演をしている。外来オケの公演も多い。すでに稼働率が高く空きがないのだ。週末の金土日に毎月4公演を抑えられるわけがない。そして、サントリーホールからもぎ取ることはやはりできなかったのだ。ただ、Aプロが2020−21シーズンは2月までで終わることで開催される、サントリーホールでの特別公演。3プログラム6公演。きっと平日なのだろう。N響はそれまで週末に聞いていた観客のうち、どのくらいの人数が平日の公演にくるか、来てくれるか、気になって仕方ないだろう。
 結果として駅からも近く、ターミナル駅である池袋芸術劇場に落ち着いた。これは最善の選択である。そして、今までサントリーホールも、NHKホールも遠いと思っていた、池袋ターミナルの観客、埼玉県の人など、新たな聴衆、定期会員を獲得することができるかもしれない可能性も秘めているのだ。
 そして、多くのN響ファン、定期会員がこうも思っているはずなのだ。池袋の芸術劇場のコンサートホールならその音響は今のNHKホールより抜群に良くなるな。そして、駅からも近いのは嬉しいな。
 しかし、渋谷から池袋に移ることで決定的な大きな違いがある。それは座席数の違いだ。これは、チケットの問題に直結する。


「間違いなく起こることは、全てのN響定期公演チケットの争奪戦、入手困難化が始まる」

 さて、池袋に移動する定期演奏会でどんなことが起こるだろう。一番気になるのは、会場のキャパなのである。NHKホールは1階席1090、2階席1335、3階席1175の3600席もある。東京芸術劇場は1階676、2階683、3階640の1990席なのである。つまり、NHKホールの座席より45%も座席数が減るのである。


NHKホール座席表(座席数3600)

東京芸術劇場座席表(座席数1990)

 
 現在のN響定期でNHKホールが満席になることは少ないが、N響のチケットで通常販売される当日券というのは300枚程度と発表されることが多い。もちろん、そういう発表があったとしても3600席のうち3300枚が売れたということはないだろう。N響は留学生の招待など無料で出している席も多数あるからだ。しかし、今のNHKホールを使う、Aプロ、Cプロで、当日の空席率が45%以上ということもほとんどない。つまり、今の観客数が池袋に移動すると芸術劇場コンサートホールの座席はほぼ埋まる。いや、少し足りないかもしれないということなのだ。
 もちろん、渋谷のNHKホールから池袋に移るのなら、その間はお休みしようという人も少なからず出るはずである。しかし、逆に池袋に来てくれるのなら聞きに行こうという埼玉県や池袋ターミナルの聴衆もいるはずなのである。
 少なくとも間違いなく言えることは、N響定期のチケットは手に入りにくくなるということだ。今まではお気楽に聞けていた。世界でもこんなにお気楽に聞ける一流オケは他にないと言ってもいいくらいだ。その代表例がAプロとCプロのたった1500円(この10月から1600円)で聞けた自由席だ。これは池袋では無くなるはずだ。客席数2006のサントリーホールでのB定期に自由席がないのと同じである。他にもいろんなことが起こるだろう。

 まずは会員の中には、渋谷界隈にこだわる人が少なからずいるはずだ。渋谷あたりでN響を聞きたいという人だ。世田谷や大田区の人、特に横浜など神奈川方面の人などは池袋には行きたくない、遠くて行けない人もいるだろう。その人たちの選択肢として考えられるのが、それなら、サントリーホールのBプロで聞こうという人が出てくることだ。つまり、A・C定期会員からサントリーホールB定期への移動である。サントリーホールの年間定期会員券は、この数年はS席A席でまだ若干数の余裕がある。2日で200席くらいはあるのではないか。それが、きっと、このAC会員からサントリーBへの移動でほぼ無くなってしまうだろう。
 つまり、起こりうるひとつは、サントリーホール定期の1回券はほぼ買えなくなるということだ。プレミア化である。
 二つ目は渋谷と週末の演奏会の両方にこだわる人の選択である。サントリーも嫌だし、平日の夜に聞きにいくのも嫌だという人だ。これらの人はN響オーチャード定期への移動ということが予想される。
 オーチャードは渋谷だし、日曜など週末の午後3時30分開演だ。
 ただし、オーチャード定期の年間公演は5公演しかない。演奏される曲も多くは初心者向け、特に問題なのは5回のうち3回くらいは指揮者がN響の本定期に登場する前のお試し採用的な若手が多く含まれていることである。でも、まあそれでもいいから渋谷で週末の公演がいいので、オーチャード定期を選択をする人も少なからずいるだろう。そして、オーチャード定期にはかつて、NHKホールの公演では行われていた、開演前の室内楽演奏のサービスも続けられている。

 オーチャード定期も年間定期会員券には、今のところ200席くらいの余裕がありそうだ。これが1回券に出てくる。しかし、この座席も、きっと多くが埋まってしまうだろう。1回券に回る枚数は確実に減る。ということで、サントリーのB定期だけでなく、オーチャード定期の1回券も買いにくくなるということが予想される。




 さらに、2020−21シーズンはCプロは当初から池袋に移動するが、Aプロは2月までの6プログラム12公演はNHKホールに残る。ということで、土日の渋谷がここには残っているので、ここにCプロから移動してくる人も多数いるはずなのである。こうして、Aプロの定期会員数が増えることも予想される。
 そして、その自由席も今まで以上に早く売れてしまうだろう。何しろ月に2回しかないからである。また、それだけでなく今までは自由席でお気楽に聞いていた人の中には、D券あたりの会員になっておくかと考える人が出てくるはずだ。
 その理由は池袋に移ると自由席はなく、D席が最も気軽な価格の席になるが、その座席を確保するのは大変だと考えるからだ。確実に抑えるためには優先予約権がある、その前のシーズンの定期会員になっておく必要があると悟るからだ。こうして、今まで自由席で聞いていた人、当日券で聞いていた人が新たに定期会員になる人が出てくると予想される。


 つまり、2020ー21年のシーズンから、サントリーB定期、オーチャード定期、20−21シーズンのA定期の会員数が増える。唯一6公演だけ残る、お気軽な1500円自由席も前売りの早い段階で完売してしまう。さらに池袋に移るCプロ会員も座席数が少ないので年間会員でほぼ埋まってしまう。少なくとも池袋のCプロ会員も価格の安いBーDまでの会員席は、サントリーB定期と同じく年間会員で埋まってしまうと思われるからだ。
 こうして、N響のチケットは今まで当日券でも気軽に1500円で買えていたのが、よほどのことがない限り、B会員までが定期会員席で完売してしまい、当日券は一気にA席7300円からとなる可能性が高まる。それでも買えるだけ良かったという場合も多くなり、今までサントリーB定期では良くあるものの、NHKホールのAC定期では年に数回しかない前売り完売公演が頻出するようになるだろう。




「N響をこれからも聞きたければ、そのベストな対策は2019−20のシーズンから定期会員になっておくことである」

 この流れを引き継いで2021ー22シーズンは「N響のチケットは前売りで早いうちに買わないと聞けない」という認識が高まり、池袋のAプロ、Cプロ、サントリーB定期、オーチャード定期ともチケットは前売り販売率が俄然上がり、N響定期のチケットのプレミアム化が進むと思われる。
 
 中には、N響から他の在京の交響楽団、例えば都響や東京交響楽団、東フィルなどに移る人もいるかもしれないが、N響の会員はN響が本当に好きなのだ。その数は限定的なものと思われる。

 さて、チケット争奪戦に勝つためには、この2019ー20のシーズンから定期会員になっておくことをオススメしたい。現役の定期会員こそが、次のシーズンの定期会員の最優先購入権利を得られるからである。
 これから、徐々に2020−21シーズンの演奏内容が公表されていく。最終的には2020年1月に全てが公表される。

その中にはパーヴォヤルヴィが毎シーズン演奏してきたマーラーの残りの演目。9番シンフォニーや大地の歌が入ってくるはずである。元気であれば、ブロムシュテットも引き続き演奏するだろうし、人気のソヒエフなど、N響ならではの世界的巨匠の演奏会が多数含まれるはずだ。すでに、2020年12月には、巨匠・マイケルティルソントーマスの客演が発表された。さすがN響である。今までは当日券、自由席などで気軽に聞けた時代、それはこの2019ー20のシーズンで終わりだ。2020年9月から、そう東京五輪の後からN響のチケットはずっと買いづらくなるはずである。

 そして、その時になって多くの音楽ファンが気がつくはずである。ベルリンフィルやウイーンフィル、シカゴ交響楽団、アムステルダムコンセルトヘボウ管。それらのオケと比べても双璧と言えるレベルのN響の演奏の素晴らしさを、それらのオケに振りにくるのと同じ指揮者がN響は毎月のように登場してくれるだけでなく、来日オケにありがちな凡庸なプログラムではなく常に刺激的な演奏会を提供してくれているということを。



 そして、NHK交響楽団の定期演奏会のチケット代は最高にいいS席でも定期会員なら1回7200円でしかないことのありがたさにも気がつくだろう。この秋のウィーンフィルの来日公演では最も安い席でも17000円、ベルリンフィルでは、18000円。S席はウィーンフィルで3万7千円、ベルリンフィルに至っては4万2000円だということを考えると、本当に驚くほど気軽に世界最高峰の演奏会のチケットを手に入れることができるのがNHK交響楽団の定期演奏会ということに気がつくのである。今まであまりにも気軽に格安でAプロ、Cプロのチケットが手に入っていたので、そういうありがたさにあまり気がつかなかったのである。 


最後にちょっとだけきになること。それはN響定期会員の年齢である。非常に高齢な方も多数いる。その方達は、これを機械に定期会員をやめるのかもしれないなとも思ってる。それだけはちょっと気になる。
ミューザ川崎で、フランクフルト放送響を聞いた。久しぶりだ。前に聞いたのはパーヴォヤルヴィの来日公演でもう10年近く前だと思う。今回はワーグナーの「リエンツィ」序曲で始まったのですが、冒頭のコントラバスの音が深く驚きました。とくに弦楽合奏は素晴らしい。しかし、エストラーダがテンポを上げると音が少し乱雑になってしまう。ちょっと残念です。
 今回の来日は、来週あるサントリーホールは完売。チョソンジンのラフマニノフ2番コンチェルトと巨人です。こちらは、さらに名曲コンサートみたいで、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲、ドヴォルザークの新世界。もう聞き飽きてよほどの演奏で無いと心は動きません。こちらはチケットがまだまだあるということ。会場に来てみると客席は9割くらい埋まっていて安心しました。で、バイオリン協奏曲です。

 今宵のスターは何といても独奏のバイオリニスト、ダニエル・ロザコヴィッチです。知りませんでした、何しろストックホルム生まれの17歳。見た目はアジアの血も混ざってるなあと思ったら9カ国の血が混ざってるとのこと。まあ、そんなことはどうでもいいのですが、会場に出て来た少年の緊張が伝わってきます。
 冒頭でちょっと音がつまずいたかと思ったのですが、聞いていて驚きました。僕はこの曲はそれこそ、子どものころからアイザックスターンやオイストラフのレコードで聞き始めた。スターンやヘンリックシェリングで始まったライブも、パールマン、ツインマーマン、ヒラリーハーン、クレーメル、ムターなどと世界最高峰を聞き続けて来た。今もヤンセン、みどり、樫本大進、五縞龍、庄治紗矢香、諏訪内晶子など本当に素晴らしい演奏を聴いて来ている。でもね、彼らは大きく捕えると、みんなスターンやオイストラフの系列なのです。もちろん個性はあるけれど、あのロシア系バイオリニストの系譜。雄弁に歌う系の奏法です。それはそれで大満足なのだが、この若いバイオリニストはちょっと違う。音量を大きく動かすことで音楽を語らない。むしろ小声で囁くように語る。ところが、耳を傾けると繊細で同じ四分音符でもギリギリまで粘る。フレージングの中でもいろんな色合いを見せてくれる。音譜の長さ、音の質感、色合いに対するこだわりがスゴい。

 公演チラシに水晶のような音とあったのだけれど、水晶ってどんなものか良く分からないが、クリスタルって感じです。それは、息をすることを許さないくらいの緊張感の中で、この少年が酸欠で煽れるのではないかと思うほどです。ヘンテコな息をしたら、奏でてる音楽が崩れてしまう。そんなギリギリ感が曲全体を支配する。それは、バカラのワイングラスに光が当ったとき、もしくは、ブルゴーニューの透明感のある赤、いや、黄金色の白ワインが注がれたものをグラス越しに光に課さす時に思う不思議な気持ち。グラスを廻した時に、グラスの脇に張り付いたワインが動くときの、そんなすごく繊細で表現するのが難しいものに似た音なのです。私も聞いていてヘタな息継ぎができなくなり、曲が終るとぐったりしてしまった。
 ランランが出て来てピアノの世界に新しい光を当てている。欧米を席巻している。このロザコヴィッチは、バイオリン界のランランです。この繊細さで演奏されるのであれば、シベリウス、チャイコフスキー、モーツアルト、ベルク、バルトーク、ショスタコーヴィチ、ラロ、サンサーンスなどいろいろと聞いて見たいです。
 後半は新世界交響曲でした。今宵の主役はロザコヴィチでした。
(2018年6月9日 ミューザ川崎にて)

カラヤン、アバド時代の栄光のオーケストラでなくなったBPO

もちろん、音楽関係者は口が裂けても言えないだろう。
だから、私が申し上げる。



ベルリンフィル&サイモンラトルのベートベンチクルス第1夜に行った。
交響曲第1番と3番。
その演奏は、あまりにも、普通でした。
チケット代が42000円(私は37000円のA席)という異常なものなので、それに見合った、演奏も神々しい後世に残る名演を期待しましたが、第一バイオリンはコンマスの音ばかりが飛び出して聞こえてくる。第1交響曲の3楽章ではティンパニの音がずれる、ホルンの音が決まらないといったがっかりポイントが山ほどあり、絶好調のNHK交響楽団や東京交響楽団はもちろん、東京都交響楽団など在京の一流オケではありえないようなことが山ほどありました。

第3番の3楽章くらいから、奏者の集中力も高まりましたが、昨日はいびきも散発、第3番では途中退場者もでるような有り様でした。きっと演奏が退屈したのではなく、疲れていたり予定があって帰られたのでしょうが、少なくとも、予定を変更させる力は演奏にはなかったということです。

 先日もヨーロッパ在住の音楽好きと話しましたが、いまやベルリンフィルはドイツ一のオーケストラではないのです。カラヤンやアバドがいた頃の圧倒的な栄光のオーケストラではないのです。
演奏力なら、ティーレマンのドレスデンシュターツカペレ、バレンボイムのベルリンシュターツカペレに、完全に越されてしまいました。音楽の味わいなら今秋来日する、ブロムシュテットが指揮するバンベルグ交響楽団のベートーヴェンには適わないでしょう。



 私は思い出しました。
 ホロヴィッツが初来日したときに、NHKホールで5万円のピアノリサイタルを開いたということで、テレビのワイドショーまでが駆けつけた。それはもう酷い演奏で、吉田秀和氏の生涯でもっとも有名になった名言「割れた?ひびの入った?骨董品」が出た以外は、専門家(業界関係者)はみな絶賛しました。
 私はひとりがっかりしてました。何しろ期待が大きかった、チケット入手も困難を極めた。何しろ、きっとあれが生涯で1回こっきりの徹夜して手に入れたチケットだったのです。
 それはそれは酷い。音大のピアノ科の中くらいの生徒の演奏の方が圧倒的に上手かったからです。いい悪いの前に技術が壊れていたのです。
 会場の外で、ホロビッツを見たことだけで満足している人が、紅潮の趣で絶賛コメントをしていました。そんな人たちを取材するテレビクルーに苦虫を噛み締めながら眺めていた私に、新聞記者が声をかけてきたので答えました。それが、生まれて初めて新聞(日刊スポーツ)に自分のコメントが載った晩でした。23歳くらいのことだったと思います。自慢じゃないけど、その記事に並んで批判して出たのが坂本龍一氏でした。あとは大絶賛。バカだなあと思いました。


 今回もそれと同じことが起きています。
 ベルリンフィルが酷いといってるのではありません。
 42000円も払って行く公演ではない。かつてのカラヤンやアバドがいた頃の演奏とは格が違う。きっと他のオケが圧倒的に上手くなったと申し上げているのです。

 カラヤンとベルリンフィルとの最後の来日公演はサントリーホールだったのですが、それは聞いていないです。ですから、私にとって、サントリーで聞いたベルリンフィルの名演奏は、今でもアバドが振ったマーラーの交響曲第2番こそが、圧倒的に一番です。ああいうレベルの演奏を聴かせてこそ、42000円の価値があるというものです。



 お願いです。
 42000円出して行く経済力があるのであれば、東京のオケの定期会員になって下さい。バンベルグ交響楽団の演奏会に行って下さい。何で2月のバレンボイムのあの素晴らしいブルックナーチクルスに行かなかったのですか?私は2晩行きましたが空席が山ほどありました。

 ベルリンフィルがクラシック音楽の最強ブランドだった時代は終わったのです
 そして、ベルリンフィルは、ポストラトルに、またもや若手を起用してしまった。10年後は分りませんが、少なくともこれからの数年は、バレンボイムやティーレマンのいるオケがドイツナンバーワンでしょう。ベルリンフィルは楽員たちの民主的な合議制によって運営される非常に自主性の高い団体だということはよく知られています。しかし、今回はカリスマ性の強い専制君主を迎えて、かつての栄光を取り戻すべきでした。そのチャンスも捨ててしまった。


神々でさえ黄昏れたのです。
ベルリンフィルが黄昏れても決して不思議ではありません。
そして、昨夜はその決定的瞬間に立ち会ってしまったと思います。

 私は、ベルリンフィルは東京や横浜ではもちろん、ロンドンやベルリンなどでも聞いてきました。カラヤン、アバド、アーノンクール、バレンボイム、ラトル、小澤、ヤンソンスなどなど。かつては、日常聞いているオーケストラとは、別のものだと思ったものです。ブラボーとも叫びました。しかし、栄光の時代は終わったんだなあと思いました。

多くの人が素晴らしい演奏だったと言うでしょう。
しかし、それは仕事がらみの発言、普段あまり演奏会を聞いていないので比較的できない人の感想、ベルリンフィルの栄光の時代を知らない人の感想だったりします。悪気があるとは思いません。しかし、そう、そういうものです。

 昨晩の観客の多くは、日本社会での経済的成功者です。何しろ2時間の演奏に42000円を払うことができる。そして、子どものころから親しんできたクラシック音楽は、栄光のドイツグラモフォンレーベルのカラヤン&ベルリンフィルの演奏であってもおかしくない。ベルリンフィルは世界一という思い込みと、夫婦で8万4000円のチケットを買える自分の成功へのプライドをくすぐれる、そんな素晴らしいイベントだったのかもしれません。


 私はそんなことには興味はありません。いい演奏に出会いたいだけです。いい演奏なら、どこの団体でもかまいません。ベルリンフィルは、カラヤン、アバドと生演奏で聞いてきて、ラトルになって、ベルリンフィルは黄昏たということです。これからもベルリンフィルの演奏は聴きたいとは思いますが、私は馬鹿ではありませんので、4万2000円も払って聞くようなおろかな行為はいたしません。それなら、他の公演に行く。もしくは、日本のオケに寄付します。

もう、いいかげん。多くの人に気づいて頂きたいです。

 日本のオケは素晴らしくなった。音楽を愛するのなら、少なくとも自分の感性でどの団体が素晴らしいのか、真摯な演奏しているのか少しは探ってみる努力をするべきです。かつてのブランド名や、チケット代の高さでその価値を計るのはやめましょう。それが、音楽を愛するものができる、真摯に演奏してくれる演奏家に対してできる、誠実でまともな行為だと思うのです。




"Conductor in Residence"就任記念はエキサイティング・チャイコフスキー
―インゴ・メッツマッハー Conductor in Residence就任披露公演―
ムソルグスキー作曲(R.コルサコフ編) 歌劇『ホヴァーンシチナ』前奏曲「モスクワ川の夜明け」 *
スクリャービン作曲 法悦の詩 op.54 *
チャイコフスキー作曲 交響曲第5番ホ短調 op.64

2013年9月14日@サントリーホール
尾高忠明指揮 5月11日@NHKホール
ウラディミールフェドセーエフ 指揮 5月18日@NHKホール

三善晃作曲 ヴァイオリン協奏曲(1965)
ストラヴィンスキー作曲 バレエ組曲『プルチネッラ』   
メンデルスゾーン作曲 交響曲第4番イ長調『イタリア』 op.90
2013年7月26日@サントリーホール


2013年7月15日@東京オペラシティコンサートホール
2013年7月20日@サントリーホール
ロシア人指揮者というと、ぶっちぎり系演奏の人も多い。軸はあっても詳細なところは荒れれのれ。その代表格がロジェストヴィンスキー。詳細までがっちり制御するのがムラヴィンスキー。2009年の春、旅でよったザグレブの夜。クラシックコンサートがあるというので、出かけたザグレブフィルの定期で、確かチャイコフスキーを聴かせてくれたのが、キタエンコだった。名前は知っていたけれど初めて聴いた。何か、いいのだ。骨は太いのだが、興奮してテンポが異常に早くなることも、最初から最後まで大げさに歌ってみせたりもしない。きちんと組み立て、心を込めて音楽を作って行く。クール&ビューティ。フレージングはしっかりするし、ボーイングも大切にする(ロシア系結構と雑)、個々の名人芸も尊重する。でも骨はどかーんとある。
 帰ってきてN響の定期に出演すると喜んでチケット買ったのに行けなかった。そんで、ずーっとお預け。東京交響楽団の定期のラインナップ見て好きな指揮者がぎょうさんいた。その一人が、キタエンコ。もうひとりが来月のミッシェルプラソン。
 そのキタエンコ登場の定期が6月最後の日、日曜のマチネにあった。
 もちろんプロコフィエフのチェロ協奏曲も良かったけれど、楽員と2回のコンサートとは思えないほどの充実なラフマニノフ交響曲第2番。
 このメロウなロマンチックな音楽は、この作曲家の心の幻想が花火のように無造作に飛び出てくるから、楽想が急に変わったりするギアチェンジや、細かいところにこだわらないと面白くない。それがね、何かすごく良かったんですよ。俺の愛するN響も今年ウンジャンという指揮者と取り組んだけれど、東京交響楽団のそれは、指揮者とオーケストラの一体感がさらに強くてよかったな。
 東京交響楽団。ジョナサンノットが音楽監督を受け入れた理由が、たった2回のコンサートで分かったような気がする。2013年6月30日@サントリーホール
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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