佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 映画 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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映画「グレイテストショーマン」

多くの人が絶賛する映画である。

誰にでも強みはある、頑張ればいろんな夢は叶うのだという、現代人が信じたいテーマなので受け入れられるのだろう。このタイトルから1950年代の名作「史上最大のショー」のリスペクト作品かと思ったが、そういうことでもなかった。苦労して成り上がった男が自分を信じて来てくれた妻や仲間を裏切って不倫に走るものの、事件と転落の危機でそんなことじゃダメだと反省する。ということで、話に深みはない。冒頭部分の1曲で苦労時代もさっと流してしまうのはミュージカルの魔法ではある。ヒュージャクソンは「レミゼラブル」の成功での起用だろうがCGに主役は譲ってしまった。ダンスも俳優生身の至芸を披露するのではなく、コンピュータが全てを制御してしまう。だから、かつてのような温かみはあまり感じられない。楽曲は悪くないがすぐに口づさみたくなるような曲はストーリーの中に埋没させてしまった。ミュージカルシーンは歌舞伎と同じで、その間は話を進めてはいけないのだ。その時の心情を歌と踊り(肉体)で表現する。歌舞伎の見得のような扱いをさせるべきなのだ。歴史に残るミュージカルは全部そういう楽曲とシーンを持っている。10代で「ハイスクールミュージカル」で出て来たザックエフロンがメインキャストで出ていた。絶対消えると思っていた俳優だが、「ヘアスプレー」に続いて大役を射止めた。歌唱力とダンス力という極め技があるからだ。普通に演技したものではことごとく失敗してもそうやって生き残っていくものだと感心した。芸は身を助くである。75点
https://www.youtube.com/watch?v=GuadtzQB2hk
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山田洋次監督作品 山田洋次共同脚本





松竹映画の伝統を引継いだ21世紀の「東京物語」

山田洋次監督は小津安二郎とは全く違うと思っている。小津さんが、日本のビスコンティのような、中流家庭を扱いながらも、その美術や絵の凝り方、絵の削ぎ方が貴族趣味といっていいほど高いものに対して、山田洋次監督のものは、もっと自然体である。家庭の雑然とした世界の良さをものすごく大切にする。松竹の監督であっても別物だよなあと思っていたけれども、「東京物語」の舞台版を山田洋次さん演出で新派の芝居として見たことがあってそれは別物であるけれども、「東京物語」の核になる部分をきちんと捕えた作品に仕上げているのでとても感動した。1950年代の映画「東京物語」のオマージュでありつつ、それは21世紀の3/11以降の日本社会を背負った芝居の「東京物語」だったからだ。
 映画版も同じであった。冒頭の風景シーンなど小津映画の手法そのままで、いま小津さんならいったいどんな風景を撮るだろうか?と思っていたら、なるほどねと思った次第。カメラの位置もローアングルだったり、台詞の言わせ方なんかも小津映画の手法を意識して作品は始まる。おおよそのプロットは「東京物語」なのだが次第に小津的な要素は山田洋次監督の世界に昇華されていく。  ただ、この手法難しいらしい。名うての俳優でありながらも、特に冒頭の幾人かの俳優の芝居の下手さには驚いた。これでOKなのかと思った。演技陣では、橋爪功、吉行和子はさすがに旨い。つけいる隙のない演技を見せる。だからといって旨さを際立たせるようなことも何もしない。なりきり、さらけだし、削ぎ落としているのに見せるのである。まあ予想通り、彼らよりも感心したのは妻夫木聡と蒼井憂の演技である。橋爪、吉行に匹敵する名演技を披露する。特に妻夫木の役柄はとても難しい。それが名演。何て男だ。感心した。
 そして、落語は旨いかいいのかは分からないが林家正藏。この人の演技も見事である。先に書いた4人の演技が自然体、なりきり、さらけだし…だとすると、正蔵の演技はもう少し芝居がかっているけれども、その加減さが見事なのである。
 今回の主役は妻夫木であった。妻夫木が母と父に家族として、深く受けいられていく話であった。そういう意味で、「東京物語」とはチト違う。
 久しぶりに映画館で松竹映画を見て、この映画などはきっとDVDで十分と思う人が多い映画なのであろうが、やはり映画館で見る映画はいいなあと思った。僕がふと落涙したあとにすすり泣く声が廻りから聞こえ始める。いやそれ以前から場内の空気が共有される。いい空間であった。
 この幸福感はかつて寅さんを上野や浅草で見た時のそれと共通しているものがあった。山田洋次は、名匠小津安二郎の大切なものは残しつつも完全な山田洋次映画、そして、それは21世紀の松竹映画の代表作となる作品を生み出したのだ。それは、日本文化の財産でもある。
 2013年3月2日@渋谷シネパレス

追記: 個人的に嬉しかったのが「男はつらいよ」のレギュラー出演者でありながら、いつの間にか存在感がものすごく薄くなった寅やの店員、三平ちゃん役の北山雅康さんが出演していたこと。
監督/トム・フーパー 脚本/クロード=ミシェル・シェーンベルク、ウィリアム・ニコルソンほか
撮影 ダニー・コーエン

ジャン・バルジャン…ヒュー・ジャックマン
ジャベール…ラッセル・クロウ
ファンティーヌ…アン・ハサウェイ
コゼット…アマンダ・サイフリッド
マリウス…エディ・レッドメイン
エボニーヌ…サマンサ・バークス
マダム・テナルディエ…ヘレナ・ボナム=カーター
テナルディエ…サシャ・バロン・コーエン

舞台の映画化の欠点をついに克服。
ミュージカル舞台の映画化は失敗作のオンパレードである。数年前に「オペラ座の怪人」が映画化されるときにどれだけの期待があっただろうか?マドンナをキャスティングしたニュースは「エビータ」こそ成功するミュージカル映画だと思われた。華麗なキャスティングで見事に大コケした「ナイン」を見つつ映画ではどれだけ素晴らしいかを言いたかった人は少なくないはずである。舞台でそのミュージカルを知っているものの多くは、ああ、舞台の方が何倍もいいなと思うのである。近年成功したミュージカル映画は「シカゴ」と「ヘアースプレー」くらいである。「シカゴ」は魅力的なキャスティングで成功したのであって、カメラワークで必死にオリジナル性を出そうとしている側面よりも、舞台の演出を大幅に取り入れた演出の方が効いていて映像としての挑戦はかなり控えめだ。「ヘアースプレー」は面白いが舞台をそのまま映像化しただけである。「マンマミーア」はアバの音楽とギリシアの映像に救われた。ブロードウェイで21世紀の最大のヒット昨のひとつである「プロデューサーズ」は舞台と同じ主役を得て映像化したものの舞台でもってる爆発力はついに得ることはできなかった。
 舞台のすごさである。ミュージカル映画の歴史を振り返っても映像のミュージカル映画は、1950年代のアステア、ジーンケリーといった名うての芸人の魅力を記録したものの、映像の魅力を徹底的に見せたのは「パリのアメリカ人」のラストシーンくらいである。あれは革命的な映像美であった。それ以外では、ミュージカル映画の巨匠とはいいがたい、ロバートワイズが監督した「ウエストサイド物語」「サウンドオブミュージック」の空撮など映像でしか見ることができない徹底的な開放感によって舞台を映像化する意味合いを保っているのである。「マイフェアレディ」などは、完全に舞台の演出に敗北宣言した映画であり、オードリーヘップバーンの魅力はあっても、映像リアリズムはそこにはない。他には「シェルブールの雨傘」「ジーザスクライストスーパースター」「スイートチャリティ」といった作品があるくらいだ。
 映画史において「レ・ミゼラブル」が特筆されるのは、舞台の演出を乗り越えた映像ならではの作品になっているだけでなく従来のミュージカル映画の決定的な欠点を見事に見抜いた新しい演出を用いたことにある。それは、役者に録音に服従させて演技をさせるのではなく、演技をメインにおいたことである。この全編が歌で綴られる作品において、役者は生で唄い、それを収めているのだ。オーケストラは後で演奏されたと聞いている。それによって、演技が舞台と同じ様に生になった。気持ちがきちんと入り、それがスクリーンから観客に届く様になった。声を聞かせるのではなく、演技が歌に寄って表現される様にしたのだ。この効果は絶大だ。最近はだれ気味だった観客席の緊張感は特筆もので、何回も舞台でみたこの作品を最初から最後まで飽きずにみることができた。また、映像化されることによって、舞台ではなかなか分からなかった物語の背景や人間関係もすごくくっきりすっきりした。中にはやりすぎだなとか、CG処理か!と感じさせすぎるカメラワークにはシラケるが、この作品はミュージカルの映画化の歴史の中で特筆すべき傑作となった。
2013年2月24日@渋谷東宝シネマ5

Argo 監督/ベン・アフレック 脚本/クリス・テリオ
製作 ジョージ・クルーニー グラント・ヘスロヴ ベン・アフレック
出演者 ベン・アフレック、ブライアン・クランストン、クレア・デュヴァル、アランアーキン、ジョン・グッドマン
マイケル・パークス、テイラー・シリング、カイル・チャンドラー
撮影/ロドリゴ・プリエト 編集/ウィリアム・ゴールデンバーグ



一級のエンタティメント映画

腐敗に満ちたパーレビ国王を退陣させ、清廉潔白であるが世界秩序には歓迎される人とはいえないホメイニ師を表舞台に登場させた「イラン革命」は、その後の40年にも渡る対アメリカの始まりでもあった。1970年代のカーター大統領は人質に取られたアメリカ人を救出するために余りにも多くの代償を払った。当時の今とは全くの様相の違う時代を、でも多くの人がまだ何が正解か覚えている1970年代の映像をアフレックは見事に映像化することに成功した。ここでは、政治的なメッセージはなく、スリル、サスペンス、アクションを徹底的に楽しませてくれるエンタティメント映画になっていると同時に、現代のアメリカ政治史における傷であり、忘れたい出来事であった歴史のはずが、こんなこともあったんだぜ、やっぱアメリカスゲーと思いたいアメリカ人にとっては拍手喝采の映画であろう。オスカー作品賞はそういうドライブの掛かった受賞だと思う。もちろん、面白い一級のエンタティメント作品に仕上がっていることは事実である。2013年2月20日
監督/ジョシュ・ラドナー
出演/ジョシュ・ラドナー/エリザベス・オルセン/ リチャード・ジェンキンス/ ジョン・マガロ/マイケル・ウェストン/エリザベス・リーサー/ アリソン・ジャニー

ストーリー…仕事に行き詰った 35歳のジェシーは母校の講演に招かれ、そこで 19歳の学生ジビーと出会う。 二人は親交を深め、ジェシーはジビーから 前向きに生きる勇気を得る...



サンダンス映画祭から出て来た佳作。監督自らが出演しているわけで、低予算ながら見ていて楽しい佳作に仕上がっている。中年になって独り者になった男が、再び愛を受け入れるまで、それも自分がタブー視していたことを受け入れるまでのラブコメディ。2013年2月19日

監督・脚本/ニコラス・ジャレッキー
撮影/ヨリック・ル・ソー
キャスト リチャード・ギア スーザン・サランドン ティム・ロス


鞘取りを意味する「アービトラージ」というタイトルを捨てていやあ安っぽいタイトルにしたものだ。リスクの高い金融取引をしている金融マンのサスペンス映画で、男は家族にさまざまな隠し事があったりするのだ。ゴージャスな生活を垣間みれる楽しみがあるが、人間関係の描き方は割と平板で、リチャードギアは頑張っているけれどもミスキャストである。ま、一度ぼんやりと見るのには飽きないしいいと思うけれども。2013年2月11日
監督/ジェイソン・ムーア 出演/アナ・ケンドリック/ブリタニー・スノウ/アナ・キャンプ/レベル・ウィルソン/アレクシス・ナップ/アダム・デヴィン


テレビの画面で見るのにちょうどいい作品。ただし1回だけ
グリーの世界をもう少し丁寧に作った作品。出てくる出演者は映画の枠にあってない。テレビの枠の俳優たちだ。出演者の紹介が終わる始まって20分過ぎには、作品の終わりまでが見えすぎてアレレな感じもしたが、アメリカのキャンパス生活がのぞけたりして、まあ家でのんびり1回見るのはいいかも。ただ準新作になってからで十分。55点 2013年2月1日
監督 ティム・バートン 脚本 セス・グレアム=スミス
出演者 ジョニー・デップ/ミシェル・ファイファー/ヘレナ・ボナム=カーター/エヴァ・グリーン/ジャッキー・アール・ヘイリー


ティムは新しい世界を生み出そうとしているものの
この不思議な感覚はティムバートン独特のものである。それこそジョニーディップは数々の名演を見せてくるが、やはりティムの世界にいると水を得た魚なのである。それは、黒澤と三船のようであります。小津と原節子なのかもしれません。ディカプリオとマーティンスコセッシの関係とは違う。もはやティムバートンの映画は、美術家の新しい作品をみるようだ。彼自身新しいものを取り入れようとしている。例えば、この作品でも、幻想的な家族の物語に、リアルな70年代のロックバンドを入れてみたり、スプラッター映画のような表現を使ってみたりする。しかし、それは、自らの作品の幻影をみせているくらいでしかない。78点 2013年1月31日
監督 リドリー・スコット
脚本 デイモン・リンデロフ/ジョン・スパイツ
製作 リドリー・スコット/トニー・スコット/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル
出演者 ノオミ・ラパス/シャーリーズ・セロン/マイケル・ファスベンダー/ガイ・ピアース/イドリス・エルバ

リドリースコットの手腕に舌を巻いた。
超名作、「エイリアン」シリーズの前の話と企画されたと言うが、関係あると言えば関係あるしないといえばない。ドラマの作り方も終わらせ方も、特殊効果も美術も脚本も、またかと思っていたのだが引き込まれてしまう。もちろん新しいところもあるのだが、堅実な作られ方がされているのだ。こういうところがリドリースコットの手腕のすごさだ。続編が作られてもおかしくない終わり方で作られたら見てしまうだろうなあ。プロメテウスはリドリースコットのことなのかもしれない。82点 2013年1月24日
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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