佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 英国ロイヤルオペラ来日公演 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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 18年ぶりの来日らしい。18年前は行かなかった。確か、フィガロ、コシ、ドンジョバンニのモーツアルト3部作という鉄板興行で大コケしたはず。そりゃ、そうだ。酷いんだもん。当時、ロイヤルオペラは民営化の流れのなかで1980年代までの栄光から墜ちたオペラハウスだったかからだ。その後、僕は、ロンドンに出かけたときも、民営化で大幅値上げされた一等席3万円を越える価格で、わざわざこの価格なら東京できけばいいし、もっといいオペラをきけるよなと思ったりしたものだ。一度、バレエのロミオとジュリエットをロンドンで見たときの演奏などは、これは日本のアマチュアオケのほうがましじゃないかなと思うような有様だった。ロイヤルオペラハウスは1990年代に改装して、受付とカフェは素晴らしくなったのだが、演奏は荒れた。特別な公演の時は素晴らしい演奏をすることもあるのだけれど、アレレなことが多い。パッパーノは次世代の期待の指揮者である。いったいどんな演奏をするのか愉しみである。
2010年9月11日@上野文化会館 



マスネ作曲 歌劇「マノン」@上野文化会館
アントニオパッパーノ指揮 ロランベリー演出 シャンタルトーマス美術 
マノンレスコー/アンナネトレプコ デグリュー/マシューボレンザーニ ほか

英国ロイヤル・オペラ 2010年日本公演 「マノン」全5幕
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:ロラン・ペリー
美術:シャンタル・トーマス

ギヨー・ド・モルフォンテーヌ:ギ・ド・メイ
ド・ブレティニ:ウィリアム・シメル
プセット:シモナ・ミハイ
ジャヴォット:ルイーゼ・イネス
ロゼット:カイ・リューテル
宿屋の主人:リントン・ブラック
レスコー:ラッセル・ブラウン
警官:ドナルドソン・ベル、ジョン・ベルナイス
マノン・レスコー:アンナ・ネトレプコ
騎士デ・グリュー:マシュー・ポレンザーニ
伯爵デ・グリュー:ニコラ・クルジャル
ロイヤル・オペラ合唱団 / ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

◆上演時間◆

第1幕(転換)第2幕:15:00 - 16:20
休憩 25分
第3幕(場面転換あり):16:45 - 17:45
休憩 25分
第4幕(転換)第5幕:18:10 -18:55

※下線で示したキャストは、当初発表させていただいたキャストが変更になったものです。
当初、「マノン」の伯爵デ・グリュー役で出演を予定しておりましたクリストフ・フィシェッサーは、喉頭炎のために出演できなくなりました。
代わって、伯爵デ・グリューはニコラ・クルジャルが演じます。
なにとぞご了承のほどをお願い申し上げます。
また、警官役はプログラムの記載より変更となっております。

以下は来日前にあったロンドン公演での盗撮もの。違法ですから、すぐに観られなくなると思います。でも日本公演もほぼ同じセットです。主役を歌ってるのはネトレプコ。



 蘇生したロイヤルオペラハウスの記念碑的公演。

 直前に、とてもいい条件で1階席のS席チケットを手に入れる事ができて、急遽観に行くことにした。正直いってマスネという作曲家のオペラでワクワクした経験が一度もない。最初にマスネのオペラをみたのは1980年代終わりのメトロポリタンオペラハウス、亡くなったアルフレードクラウスの生を聞いたのが最初かな。おそらく「ウェルテル」。しかし、退屈で退屈で。「マノン」も見てはいる。でも退屈で、ほとんど覚えていないのだ。何で今回見に至ったのかは分からない。積極的に観に行ったわけではない。
 オケピットから最初の音が聞こえてきた時に、ああスゴいのが観られるぞと思ったくらい。パッパーノに導かれたオケは90年代に沈滞していたオペラハウスのイメージを一掃するような明るく活き活きとした音楽を鳴り響かせた。よくきいてみるとマスネの音楽はやはり変化に乏しく、曲調も単調で面白い物ではない。しかし、スコアの中から現代と結びつける物を探し出し、それを客に上手く伝えることができればきっとやはり歴史に残って行く作品なのだろう。パッパーノの指揮はまさにそれだった。
 措置や演出は単調だし、奇をてらった物ではない。まあ、それはそれでいい。安っぽい美術も予算もあるだろうから仕方ない。それでも、さすがはシャンタルトーマスの担当だけ会って、衣装は本当に素晴らしい物だった。20列目くらいから見ていても生地や仕立てが違う事がはっきり分かる。そして、群衆シーンなどになると、微妙に異なる色合いの衣装の人たちがうまく立っていてとてもキレイだったりした。
 歌手もネトレプコはますます磨きがかかり、ボレンザーニやプレティニをやったシメル。モルフォンテーヌのメイなど水準も非常に高かった。しかし、演じる方も必死に最上のものを届けようとしていた。しかし、それを可能にしたのは、パッパーノが導いて、メリハリがあり、絶妙のフレージング、テンポのとりかたが現代的で、細かいところもピッチがあっていたオケが勝者だと思った。
 2010年9月11日(上演時間4時間)


ヴェルディ「椿姫」
動画 ロイヤルオペラのジェーンエア演出の動画



 このたびの英国ロイヤル・オペラ「椿姫」におけるアンジェラ・ゲオルギューの降板、それをうけて代役をつとめたエルモネラ・ヤオが、初日、3日目の公演で途中降板して、第2幕からアイリーン・ペレスに代わるという予期せぬ事態になったことに対し、観客の皆さまに深くお詫び申し上げます。
 エルモネラ・ヤオの不調をうけ、ロイヤル・オペラ側から「椿姫」最終公演のヴィオレッタ役の発表がありました。オペラ・ディレクター、エレイン・パドモワのコメントを下に載せましたが、「マノン」の最終公演を終えたばかりのアンナ・ネトレプコが、22日のヴィオレッタ役を演じることになりました。(最終出演者は22日の会場での発表とさせていただきます。)
 なにとぞ、このような事情をご理解のうえ、ご了承のほどお願い申し上げます。

財団法人日本舞台芸術振興会


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 英国ロイヤル・オペラの18年ぶりの日本ツアーも、明日最終日を迎えます。
 今回の「椿姫」においては、大変残念ながらアンジェラ・ゲオルギューが愛娘の手術に立ち会うことを余儀なくされ降板せざるを得なくなってしまいました。彼女の降板の意志はたいへん固く、それからすぐに私たちは代役探しに奔走いたしました。そしてエルモネラ・ヤオを確保することできました。ところが、彼女は初日と3日目の公演で、突発性のアレルギーによる音声障害によって、第1幕のみで降板するハプニングに見舞われました。両公演にお越しいただいた皆さまには、このような予期せぬ事態になりましたことを、心よりお詫びしたいと思います。

 当初、ロイヤル・オペラとしてはゲオルギューの降板をうけて、あらゆる可能性を考え、アンナ・ネトレプコを含め、さまざまな歌手にあたりました。当然、ネトレプコは今回「マノン」に出演していますので、全公演には出演できません。しかし、通常中2日休んで出演しているところを、「マノン」の最終公演を無事歌い終えた後に調子がよければ、(中1日しかなくても)「椿姫」最終公演のみ歌えるかもしれないとのことでした。ですから、我々も最終決定を今まで待たなくてはなりませんでした。

 ロイヤル・オペラとしては、二度にわたるエルモネラ・ヤオの途中降板をうけ、再びネトレプコに打診しておりましたところ、ネトレプコから明日のヴィオレッタを歌うという確認をもらいましたので、ここに皆さまにお知らせしたいと思います。

 ネトレプコはすでに2年前ロンドンにおいて、このリチャード・エア演出の「椿姫」に出演し、大成功を収めています。

 日本の観客の皆さまのご理解をお願い申し上げます。明日の英国ロイヤル・オペラの日本公演の最終公演をお楽しみいただければ幸いです。


英国ロイヤル・オペラハウス
オペラ・ディレクター 
エレイン・パドモワ




アンナネトレプコの評価を決定づけた2005年ザルツブルグ音楽祭のネトレプコのヴィオレッタ



英国ロイヤル・オペラ 2010年日本公演「椿姫」全3幕
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:リチャード・エア

ヴィオレッタ・ヴァレリー:アンナ・ネトレプコ
フローラ・ベルヴォワ:カイ・リューテル
ドビニー侯爵:リン・チャンガン
ドゥフォール男爵:エイドリアン・クラーク
医師グランヴィル:リチャード・ウィーゴールド
ガストン子爵:パク・ジミン
アルフレード・ジェルモン:ジェームズ・ヴァレンティ
アンニーナ:サラ・プリング
ジュゼッペ:二―ル・ギレスピー
ジョルジョ・ジェルモン:サイモン・キーンリサイド
使いの男:シャルベル・マター
フローラの召使い:ジョナサン・コード

ロイヤル・オペラ合唱団 / ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

◆上演時間◆第1幕:17:00 - 17:40 休憩 30分 第2幕(場面転換あり):18:10 - 19:20 休憩 25分 第3幕:19:45 - 20:20 2010年9月22日@NHKホール


ネトレプコの栄光の日

僕と椿姫
 4月に歌舞伎座が閉館する時に大騒ぎになった。ホロヴィッツの初来日の時に大騒ぎになった。公演が始まる前に観客の興奮が盛り上がり異様な空気になる公演がある。18年ぶりのロイヤルオペラの来日公演、最終公演の9月22日の椿姫はまさにそのような公演となった。今回の椿姫4公演のうち3公演は本来の出演予定だったゲオルギューの格下の歌手がさらに降板するというハプニングがあった。
 ネットの時代で、世界中で起きていることがメディアの情報を通さずに観客同士のネットワークでガセネタも含まれながら瞬時に世界に広まる時代である。8月後半から「マノン」のネトレプコがキャンセルするだろうという噂がネットに広まっていた。実際は8月下旬に「椿姫」のゲオルギューの降板が発表された。病弱の娘のそばにいてやりたいという理由だったのだが、親の死に目にあわずとも舞台に穴をあけないというのと真逆。それも、ゲオルギューは愛娘のそばにいたのではなく、旦那のオペラ歌手アラーニャとバカンスを楽しんでいることが報道されもした。NHKホールで54000円のS席という高額のチケットを「ゲオルギュー」が出るのならと購入した人はどう思っただろう。交換返金不可なのである。これなら、もう亡くなったマリアカラス霊界から出演予定!ともできるわいな!少なくとも悪意があれば相当あくどい商売もできる。
 1970年代に読売日本交響楽団が巨匠カールベームを定期演奏会に呼ぶとして騒然となった。老齢のカールベームは予想通りキャンセルとなり、カールベームをきくために定期会員になった人が大騒ぎになった。しかし、読売日本交響楽団は、代役として幻の指揮者と言われていたジョルジュチェリビダッケが登板。大評判となった。僕は遠巻きに見ていただけだが、いやあ、面白い。ドラマです。観客も喜怒哀楽含めたドラマに巻き込まれるのも公演の楽しみと考えたいものです。

 さて、今回の18年ぶりの来日公演。僕は春にニューヨークのメトロポリタンオペラの一等席でゲオルギューとヴァレンティの「椿姫」をきき、初めて椿姫の魅力を感じた物だ。今まできいてきたもののなかで主なものはもう15年前のリッカルドムーティとスカラ座の豪華絢爛な来日公演、当時はムーティのお気に入りで注目を浴びたティツィアーナ・ファブリッチーニという人だったらしい(全く覚えていない。2回のうち1回は亡くなった母を連れて行ったのだが、がっかりしていた。)。線が細く声はきれいだけれども何か心に迫って来ないというのが印象。つまり詰らなk立ったのだ。2回きいたんだけどね。ローマ歌劇場初来日のときは名古屋の愛知芸術劇場まで遠征して聞きに行った。開場に併せて名古屋だけでの公演だったのだ。なんか良く分からない鏡を山ほどつかった演出で、確か指揮はネロサンティ(あと、「トスカ」もやったはず)で、これもイマイチ。椿姫って、冒頭の乾杯の歌が終わったら、あとは退屈だなあと思ったのです。モンテカルロ歌劇場やフェニーチェ歌劇場の来日公演も、豪華絢爛、ゼッフェレリ演出のメトロポリタンオペラ(現地)でも見たのだが、途中で寝てしまう始末。
 もうこのオペラは自分に合わないからいいやと避けていたのですが、数年前に芝居のためにミュージカルの発声を主に生業にしている人に発声を習ったら、先生に一環として第二幕のバリトンの名アリア「プロバンスの海と陸」をやれとなり、曲をきくヘソができましたな。2007年にスイスのチューリッヒ歌劇場の来日公演で初めて集中して聞けたのです。指揮:フランツ・ウェルザー=メスト、ヴィオレッタ:エヴァ・メイ アルフレード:ピョートル・ベチャーラ ジェルモン:レオ・ヌッチできいてなるほどねとなったのです。最初にスカラ座の生をきいてから12年、やっと聞けたって感じですね。
 2010年4月にニューヨークに観劇のために出かけたとき、あんまり面白い舞台の出し物がなくて、「椿姫」があるけれど、どうしようと、230ドル(2万円くらい)で1階の半ばのど真ん中の素晴らしい席があったので、きいたらば、先述のようにもう脳天にきましたな。ゲオルギューの歌唱と演技のすばらしさ、舞台は豪華絢爛だしね。バレンティというテナーは歴史に残るような歌手ではないかもしれないがヴィオレッタを演じたゲオルギューがやりやすそうで、聞いてる方も何ら不都合はなかったので楽しみにしていたのです。

 2010年9月22日「椿姫」
 ゲオルギューが降板しアンナ何とかという格下の歌手を54000円、いや2万円の席だろううが聞いている人は、自分を納得させる為に必死だったと思う。僕は仕事もあり、チケットは勝っていたものの行くのをやめようか、3時間の休憩時間にしようか悩んでいましたな。とにかく代役が酷いときいていたのです。ところが前日にネトレプコが登板するとなり、これはどんな歌唱を聴かせるのか楽しみになりました。しかし徹夜。3階席だし、これは寝ちゃうかもしれないなあと思いつつ座席につきました。ところが、パッパーノの指揮はまたまた躍動。こりゃ聞く人の下半身に来る演奏。肌で感じる演奏であります。コーラスと時々づれるのですが、なんのその。脇役のアジア系の歌手がでかい声は出すけれど下品な歌唱をしましたが、ネトレプコの歌唱は、NHKホールにも関わらずピアニシモから高音まで安定した歌唱。強い声なのに、キンキンしていないんですよ。いやあ、いいですね。そして、色気があるのです。ジェーンエアの演出は分かりやすくシンプルです。シルエットを使った1幕と終幕も美しい。いや、何よりも大勢の人たちの人の動かし方が素晴らしいのです。
 ネットではジェルモンのキーンサイトの評判がいいのですが、「プロヴァンスの陸と海」ではイタリア語がきれいに歌えていないことと、アリアの最後の高音も避けてちょっとがっかり。しかし、ネトレプコが美しく色気があり、それが歌唱と相まって最高の公演になりました。もちろん練ることもなく、そのあとの仕事も滞ることありませんでした。行って良かった。きっと語り継がれる公演になったでしょう。こりゃ、内容についてはほとんど触れていませんね。まあ、いいや。とにかくパッパーノによってロイヤルオペラは再生し、ネトレプコがマノンとヴィオレッタの公演で日本のオペラファンを席巻した来日公演でした。次の来日は5年後くらいかな?ロンドンに行くことがあったら、またロイヤルオペラハウスでもオペラを楽しもうと思いました。オペラハウスは本当に生きものです。良くなったり悪くなったり。一度の経験で評価を決定づけるのは危険だなと思いました。



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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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