佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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ユーリー・テミルカーノフ指揮
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団
2011年10月31日 チャイコフスキー/交響曲第5番 プロコフィエフ/ロミオとジュリエット組曲
2011年11月1日 ロッシーニ/セヴィリアの理髪師序曲 メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ストラヴィンスキー/春の祭典
2011年11月12日 ラフマニノフ/交響曲第2番 チャイコフスキー/交響曲第4番

今年の秋のクラシック音楽シーン。ベルリンフィル、ウィーンフィルと来日も注目されているが、私が密かに最高に注目しているのが、このロシアの古豪。


「とうとう聞いた。サンクトペテルブルグフィル」
 チャイコフスキーの5番はとてつもなくゆっくりとしたテンポで始まった。速いテンポで一気に全曲を駆け抜けるカラヤンの演奏とは真逆の演奏だ。かといってゲルギレフのように脂ぎった演奏でもない。ロマンチックだしメロディをきちんと唄う。プーシキンやチェホフの戯曲を読んでいるような気がした。それは、プロコフィエフにもいえて、僕はこのオーケストラがレニングラードフィルと呼ばれていた頃の演奏を一度も聞いていないのがやはり残念に思えた。ムラビンスキーは80年代にも来日公演が予定されチケットまで手に入れたのだが、来日中止となってそのまま亡くなってしまった。ソビエトのオーケストラは何度もきいたし、ロシアのオーケストラもオペラもきいてきたけれど、何かね残念。このオーケストラの変化を体感したかったなあ。
 テミルカーノフがレニングラードフィルの第二オーケストラの首席だったとか、いろんな歴史があったのを知ったのも今宵のパンフだったんだけれども、僕がこの指揮者の演奏をきいたのは、何の予備知識もなく、ただニューヨークで、ニューヨークフィルのラッシュコンサートで1時間の演奏会(演奏会後に隣のメトロポリタンオペラも聴けるので、ね)で「春の祭典」を聞いて、わあ、いい指揮者だなあと思ってから。その後、読売日本交響楽団で聞いたのだけれども。その時も良くて。いつかちゃんと聞きたいと思いながらも来日のたびに、他の用事でまったくきけていなかった。5年以上もの片思いがやっと適った。今宵のテミルカーノフは他のオケと違ってすごくリラックスして演奏していたような気がした。
 こうして、初サンクトペテルブルグフィルは、東京文化会館の残響が決して長くない実力が手に取るように分かるホールで聞いたのだった。
2011年10月31日 東京文化会館大ホール

「ポップな曲だった。むしろ、ロックン春の祭典」
 「セヴィリアの理髪師」序曲は凡庸だった。というより集中力もなくふわっと聞いてしまった。「メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲」はもちろんオケは悪くないのだが、もう庄司紗矢香の伴奏してるっていうのは言い過ぎだけれど、スゲー音だなあとか感じることはなかった。じゃあ庄司さんの独奏はどうだったか。一楽章は線が細いなあと思ったけれど、2楽章から細やかに唄う。それが3楽章の爆発を呼び起こして、お上手と思った。東洋人ソリストブームだから、ミドリに続いてサヤカも世界中で売れるのだろうか。真っ赤なロングドレスを着た女性は150センチ台で、年齢上に若く見える。廻りの客席で可愛い可愛いとオペラグラスで観るお客樣方。それは、オケのメンバーの暖かいまなざしにも共通するものを感じたな。好かれるってのは強いものだ。好かれるために見栄えってのも大切なんだ。分かってるけどね。
 僕の今宵のメインは「春の祭典」。
 しばらく「春の祭典」思いで話が続くので飛ばして下さい。
 初めて外国で聞いた曲が今から25年以上前のサンフランシスコ交響楽団の定期演奏会でシャルルデュトワ。テミルカーノフを最初に聞いたのも上述したようにニューヨークでのこの曲。この曲はジェケ買いしたのだよね。高校に入って俄然クラシック音楽を聴くようになって、学校の帰り道。荻窪駅の線路沿いに月光社という中古レコード屋があって、お金はないけどとにかく数が欲しい僕は頻繁に利用させてもらったのだ。中古レコード屋は出会いの世界だから日参した。そこで、出会ったのがピーエルブレーズの「春の祭典」と「ペトルーシュカ」、クリーブランド管のレコード。カップリングで2曲聞けてお得。その上、ジャケットがカッコ良かった。レコード選びのときに参考にしていた志鳥さんのクラシックレコード案内本でも推薦してた。ということで購入。買ってみてぶったまげた。何だこの曲は!!!!甘ったるい曲も多いクラシック音楽の中で現代の薫りプンプン。っていうか聞いてて心地よいとこってないじゃん。くらいの衝撃だった。
 高校が中野富士見町にある都立富士高校。地下鉄丸の内線の2つ先には方南町があり、そこに立正佼成会の普門館っていう講堂みたいなホールがあって、当時はクラシック音楽の公演が時々行われた。カラヤン/ベルリンフィルも使ったし、僕が最初に最初にきいた外来オケのコンサート。ボストン交響楽団/小澤征爾/ルドルフゼルキンもここだった。で、高校のときに当時のメディアの寵児でもあった、大家政子さんが、パリオペラ座バレエのチケットを配ってくれたんだ(そのかわし、パリオペラ座のパレエが始まる前になぜか大家政子さんが幕が上がる前の舞台に出て来て何かしゃべってた。今じゃ考えられんわ)。それで「ジゼル」を見た。ポントワがまだ踊っていたはず。その時かその次の来日かで、見ちゃったんだよな。ベジャールの「春の祭典」。面白かったなあ。というのも、コリンヂヴィス指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管の「春の祭典」が物凄く話題になっていて、そのジャケ写真がベジャールのバレエの1シーンだったんだよね。で、見たくなったわけ。
 それだけじゃなく、高校3年のときの体育祭の時に、学年対抗の応援合戦をするんだけど、その演出をまかされちゃってさ。なぜか。八岐大蛇に立ち向かう古代日本人の若者っていうのにしたんだけど。まあ、自分でおろちの頭をやって。立ち向かう古代日本人の若者の振付けを自分でやったんだよ。そのときに使った音楽もなぜか「春の祭典」。というわけで、「春の祭典」はなぜか縁があるんだよね。

 で、今宵の演奏なんだけど、おったまげた。というのも、スコアを見てもらうと分かるんだけど、この曲は変拍子とか、転調とか、まあ、リズムの取り方が難しいのであります。それじゃなくても通常の曲よりも大編成のオーケストラで演奏されるし、トロンボーン、サックスを始めとして通常のオーケストラ曲にはない管楽器なども多いので、先ずは拍子をきちんと合わせて演奏するのが大変なはずなんですよ。
 指揮者は細かくリズムを刻み、きっかけを出す。あのイスラエルフィル/ズービンメータで聞いたときも動く動く動く。先年聞いたデュトワ/フィルハーモニア管弦楽団、それは、モントリオール交響楽団の来日でもそうだったけれど、細かく指示するんだよね。見事な演奏でも、合わせてる感がスゴくあるんですよ。
 ところがね、今宵のはそうじゃないんですな。ライブ!これこそライブ!って感じでさ。テミルカーノフはあんまし細かく指示をださない。それよりは曲の根底に流れる変化や流れに指示をだすくらいでさ。それはオケのメンバーが曲もメロディもリズムも身体に染み付いている感があった。ピッチも息もぴたーっとあってて、いや実は1カ所だけ崩れそうになったところはあるが…、いや、思い切りリスクを取って演奏している感じなんだ。ストラヴィンスキーのスコアが変拍子だからでなく、各奏者がそういう風に演奏したかっただけ!みたいな、いま音楽が生まれてるっていうか。
 合わせてるのではなく、各パートが好き勝手に演奏してみたら、たまたまこんなに上手く行っちゃったよみたいなライブ感があるんです。時にテミルカーノフはドライブを掛けにいったりするんだけど、それが小気味いいんだよなあ。オケがぎりぎりのとこに追いやられていくのが分かる。集中力が物凄く高まる。だからもっと合う。全ての音は必然性があって生み出されている。だから、変拍子にも、不協和音にも聞こえない。ジャジーでロックな魂にあふれた「春の祭典」だった。自分は本当にお行儀のいい優等生の「春の祭典」ばかりを聞いて来たんだなあと。いやあ、面白かった。これ一生忘れられないよ。
2011年11月1日  サントリーホール


「豊麗なサウンドの饗宴…でもちょい飽きた」
 初めての文京シビックホール。地下鉄の出口直結で大変便利。そして、ホールの容積がものすごく大きい。音が豊麗になる。内装もシックでとても気に入った。でも東京はいいホールが多すぎる。維持費だけで幾らかかるんだろうと思う。
 さて、秋のテミルカーノフ祭りの大団円である。ラフマニノフは、1時間のこの長大な交響曲を豊かな音量でたっぷり唄ってみせた。ちょっとどきつい仏蘭西料理のような味である。いやロシア料理か。弦のアンサンブルがぴしっと合うのは気持ちいいし、音楽性も似ているか。誰にでも分かりやすい、どこまでも豊麗なサウンド。
 それはチャイコフスキーでも同じで、5番と同じようにゆっくり目なテンポで始まるが途中でメリハリ聞かせて早いテンポになったりね。豊かだなあ。それに、きっとこのサウンドはドイツやフランスの、もちろん日本のオケにも出せない何かがある。
 サンクトペテルブルグフィルを今回3回聞けたのは嬉しかったのだが、豊かなサウンドにちょっと飽きた。嫌いじゃないのに、2週間に3回はあれだって。贅沢だなオレ。2011年11月12日 文京シビックホール
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佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
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演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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