佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 東京オペラの森 エフゲニーオネーギン 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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チャイコフスキー作曲
小沢征爾指揮 東京のオペラの森管弦楽団

 東京のクラシック音楽のファンから小沢征爾の評判はすこぶる良くない。ワシリーゲルギレフと並んで、音楽ビジネス界との乖離が目立つ有名指揮者の二人である。そして、今回の作品でその評価は決定づけられるだろう。なぜなら、チャイコフスキーの「スペードの女王」と「エフゲニーオネーギン」は小沢征爾にとっての十八番。古典派の正統的なドイツ音楽で世界の頂点に立つことは日本人である小沢征爾にはあまりにも壁が高い。そこで、小沢征爾は、マーラーやストラヴィンスキー、バルトークといった複雑なオーケストレーションで豊麗なサウンドが求められるものに活路をもとめて評価を得たのだ。そして、チャイコフスキーやドヴォルジャークのような民族の薫りの高いものもそれに入る。特にオペラに関しては、このチャイコフスキーの二作品はパリでもウィーンでも圧倒的な評価を得たはずである。
 しかし、今宵の演奏は本当にがっかりした。サウンドが淡白なのだ。いぶし銀の枯れた良さではない。1週間前にロシア人指揮者のベートベーンをきいたばかりだが、何と豊麗なサウンドでよわせてくれたことか。この作品の音楽からはロシアの大地と気候の厳しさ、そこに過ごす人々とその文化を思わせるような深みがなければならない。舞台はシンプルで大量の雪がそれこそ美しく1時間以上も降り続け、舞台には雪が積もっていくのだが、それ以外には特に舞台装置はない。ロシアを表現することは美術でも照明でもなく音楽に託されているのだ。それが、深みのないさらっとした音楽だった。時折大げさにテンポを動かしてみたり、アクセントをつけてみたり、フォルテにしてみたりするのだが、それこそ不要の産物なのである。
 僕らの敬愛した小沢征爾はいったいどうなってしまったのか?もう、十八番でこのレベルなのか?
正直申し上げる。今回の小沢征爾の音楽で感動できなかったら、これが小沢征爾を生で聴く最後の機会だろうと思って出かけた。そして、そうなってしまった。もう36000円も払ってこんなつまらない音楽にお金も時間もつかいたくない。僕は、「エフゲニーオネーギン」は日本でも世界中で何本も見ているが、もっとも酷いものだった。
 歌手は一幕はひやひやしたりもした。タチアーナのプリバンはフルボイスで歌わないし、オネーギンのイェルスも制御していた。まあ、後半は素晴らしかったけれど。マリウス・プレンチウのレンスキーは良く、グレーミン公爵のシュテファン・コツァンは絶妙のユーモアを交えて歌っていた。
 コーラスは良く、ダンスを踊った若い日本人たちも魅力的だった。歌手たちがどんどんロシア的になっていくのに、小沢サウンドは追いついていくのに必死だった。
  
 かつて小沢征爾といえば、日本を代表するというよりも、世界的な名匠として一世を風靡した。ヘルベルトフォンカラヤンとシャルルミュンシュの直弟子を標榜し絶大な政治力もあって音楽界に君臨した。30年以上在籍したボストン交響楽団のあと、手に入れたウィーン国立歌劇場の音楽監督も再任されることなく、いったいこれから何をするのだろう。
 いづれにせよ、自分の財布から大枚をだしてこの指揮者をきくのは、特別のことがない限り、これが最後となると思う。秋のウィーン国立歌劇場の公演で「フィデリオ」を公演するが辞めておいた方がいい。今の小澤が一般の人にも深みのない音楽しか出来ないことがばれてしまうのではないか?
 特に、「フィデリオ」は、この10年あまりの間にクラウディオアバドがイースター音楽祭の来日公演と称してベルリンフィルで素晴らしい演奏をしている。それ以外にもバイエルン国立歌劇場も、新国立歌劇場でさえ名演を残している。歌手とオケは最高の布陣=ウィーン国立歌劇場で振る限りは言い訳は許されない。小沢征爾。ああ、あの生きる活力に満ちていた小澤さん。そのかつてのアイドルが墜ちていくのを観るのが本当に辛い。

  

2008年4月18日
東京文化会館大ホール
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プロフィール
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佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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