佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 東京バレエ団 ザ・カブキ 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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振付 モーリスベジャール
音楽 黛敏郎

キャスト 大星由良之介:柄本弾 直義:森川茉央 塩冶判官:長瀬直義 顔世御前:二階堂由依 力弥:青木淳一  高師直:松下裕次 判内:氷室友 勘平:宮本祐宜 おかる:佐伯知香 現代の勘平:井上良太 現代のおかる:河合眞里  定九郎:小笠原亮 おかや:田中結子 お才:井脇幸江



 性と生に溢れた公演。

 ルキノビスコンティの作品に「ベニスに死す」という作品があって、映画好きなら観ないと駄目みたいな空気が僕の若い頃にあってビデオレンタルがまだ池袋の西武百貨店とかでしかやってなかったころ、1500円のレンタル料金を払ってみたことがある。何だよ、これ!男色映画?と思い耐えられず途中で辞めた。「家族の肖像」も「ルートヴィッヒ」も最後まで観られなかった。どちらもレーザーディスクのソフトを1万円くらい出して買って、見終わらずに中古屋さんに払い下げてしまった。
 実は若い頃、ウディアレンも全然だめで面白さが全く分からなかった。それが、「世界中がアイラブユー」を40歳を過ぎてみたら面白く、「アニーホール」から丁寧に見直したら、面白くて面白くて堪らない。あんなに駄目だった「マンハッタン」まで底抜けに面白いのだ。キューブリックもそうで若い頃は「2001年宇宙の旅」の面白さなんかちっとも分からなかった。それが、たまらなく面白い。
 それじゃ、ビスコンティも見てみようと思ってつい2年くらい前に見た。面白かった。未だ見ていないがブニュエルのDVDも買いそろえている。今年中には観ようかなという感じ。
 
 モーリスベジャールには常にエロスが根底にある。エロスが性だけでなく生に結びついているのだ。だから分かりやすい。エロは思春期を迎えれば誰でも共鳴できる事がらだから、その部分では作品のとっかかりがつかめる。1986年の4月「ザ・カブキ」の世界初演の時、それは由良の助が日本人ではなくパリオペラ座のアフリカ系の人が踊ったときだったと思うのだが、スゴいものを見た。
面白いものを見たというのは理解できた。それから、今から10年以上前にも一度見た。そして、今回。久々になぜか見てみたいと思ったのだ。きっとベジャールが亡くなったことも関係しているかもしれない。パリオペラ座、バスチーユのどでかい劇場で2008年の暮れに追悼の作品を見た。それから見ていない。ベジャールが愛した東京バレエ団も久々に観ようと思ったのだ。
 上野水香と後藤晴雄。高岸直樹から、名実共にトップの座を譲り受けつつある後藤は、昔のパトリックデュポンや、ジルロマンのようなカリスマ性を持ったバレエダンサーに成長した。そして牧阿佐美バレエ団のスター(=エトワール)であった上野は、ベジャールを踊りたいと東京バレエ団に移籍までしたパッションの人。だから上野と後藤の組み合わせで観るのが普通だろう。他のダンサーもベテランが多い組だし。でも今回は敢えて若く名も知らないダンサーばかりの組み合わせの初日に見たのだ。
 驚いた。世界でももっとも高い水準のバレエ団だと思う。男のコールドバレエは人数が多い分、アレレな人も少なくないが、女性の水準はものすごく、さらに二階堂という17歳のプリマがもうスタイルがね、スゴい。長い脚、小さな顔、それが神が宿ったように動く。何か能のような感じだ。
 そして、由良之助は20歳の柄本弾(つかもとだん)。これが驚がくものだった。間違いなく東京バレエ団というより世界の男性バレエダンサーのトップを狙える人として、小林十市以来の逸材だろう。キレのよさ、しなやかな動き、立ち姿の美しさ。ジャンプ力とかダンスの正確性とかは分からないが、今までの由良之助像に捕われること無く自らの美学を透徹していた。見事だった。スターが立ち上がっていく瞬間をみたのだ。
 初役だったという。カーテンコールで大先輩の高岸から真っ赤なバラの花束をもらったときに、やっと笑顔がこぼれ、感極まった感じであったと同時に、自覚もしているようで、すごいなあと思った。とにかく右腕が動くだけでなんじゃこれ、人間はこんなに生命力にあふれ美しいものなのかと思わせるのだ。
 そんなものは、自分には無かったのだ。昔も今も勝ち得なかった肉体の美しさだった。何か体育会系の雑な動きではない。現代風にいうと草食系アスリートの最高峰という感じかなあ。でも若く蒼い性の匂いはぷんぷんとする。何か三島的。いや寺山修司的なのかな?そして、僕は彼の踊りを見ながら、「ベニスに死す」のダークボガードを思い出したのだ。でも、それはきっと性愛ではなく、生に対する憧憬の思いからだろうけど。そして、もうすぐ自分は時間を気にしながら生きなければいけない年齢になると自覚したのだ。
 若いころ1986年にこの初演を見た時には、エロの部分でしか観ることのできなかった作品だったが、忠臣蔵は知っていても、歌舞伎は見ていなかった。その後で、何回も「仮名手本忠臣蔵」の通しを見て、文楽や狂言、能といったものも見て、齢も重ね、今はベジャールの世界観がもう少し分かるようになった。今回は作品としてもとても面白かった。しかし、バレエダンサーの肉体はあのベジャールの世界観でさえ突き抜ける絶対性があるなあと思った。きっとそれを知っていたのもベジャールだろうし、忠臣蔵の世界を通し、アジアと西洋、歌舞伎とバレエ、男と女、善悪、男女、若さと老いといった様々な要素を多重的にいろんなことを思って作ったのだということも感じた。

 もうひとり、伴内を踊った氷室友が素晴らしかった。何と言うか、ベジャールの枠の中で彼自身の自由な精神を忘れていない。まるでヒップホップを楽しみながら踊る若者のような自由さがあった。そして、これほどまでにユーモアのセンスがある踊りをするバレエダンサーが日本人男子にいただろうか?定九郎を踊った小笠原も良かった。この組にはベテランはお才の井脇幸江くらいで、技術を求められる役というよりも風格が求められる役だったが、それも見事だった。

 東京バレエ団を見始めたのが確か「ザ・カブキ」。1986年の4月の世界初演の時からだけれども、技術も肉体も当時と比べると格段に良くなったのが良く分かる。欧米の肉食系なダイナミズムよりも、繊細な東洋のアンサンブルのスゴさで見せていたのだが、東洋的なものだけでなく、西洋的な肉体を持つダンサーがものすごく増えた。バレエ団は人の入れ替わりがあるから、システムとしてきちんと機能していないと低下する可能性もあるのだが、東京バレエ団はいままさに世界のトップに属するバレエ団であることは間違いなく、さらに、次世代も確実に育っていることを考えると、世界的財産として時代を代表する文化的価値を高めつつある。見ておいた方がいい!というのはこういうものである。

 いつか柄本弾(つかもとだん)がボレロのメロディを踊る日が来るはずだ。そしたら、絶対に見たいと思った。


以下はフランスのテレビがモーリスベジャールの回顧番組を放送した時の「ザ・カブキ」。ここでの主役は初演から長く勤めた高岸である。



もうひとつベジャールと言えば、世界的にはこれ。「ボレロ」の振付け。2009年にメロディをシルヴィギエムが踊ったときのもの。これを柄本が踊るようになるのではないかと思うのだ。


2010年4月24日 オーチャードホール
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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