自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
一、お種と仙太郎
茂林寺文福 作/平戸敬二 脚色/米田亘 演出
息子夫婦の仲の良さを羨む姑と、その姑にいびられてもジッと耐える嫁、そして姑を懲らしめようと乗り出す家族。笑いの中に様々な形の愛情が盛り込まれています。
大坂でも名高い住吉神社の境内で茶店を営むお岩(英太郎)は、亭主に先立たれてから女手一つで息子の仙太郎(曽我廼家八十吉)と娘のお久(山吹恭子)を育てて来ました。その甲斐あって、お久は良家の丹波屋へ嫁ぐ事が出来、仙太郎は気立てのやさしいお種(山村紅葉)をもらいました。仙太郎とお種は人もうらやむ程の仲の良さ。それがお岩には面白くなく、何もかもに当たりどおし。お種に無理難題を押し付けてはイジワルをしていました。
そんなある日、たまたまお岩がお種をいじめているところに出くわした丹波屋の御寮人・おせい(井上惠美子)。これではあまりにもお種が可哀相と、息子の新二郎(丹羽貞仁)と嫁・お久に一計を授けて、お岩の心を正そうと乗り出したのですが…。
二、大当り高津の富くじ -江戸育ち亀屋伊之助-
平戸敬二 作/成瀬芳一 補綴/門前光三 演出
上方落語の名作「高津の富」をヒントに舞台化された作品。伊之助は上方和事の“つっころばし”で演じられていましたが、今回は中村梅雀に当てて江戸育ちに設定を変え、江戸前の気前のいい若旦那・伊之助をご覧頂きます。
伊之助(中村梅雀)は、浪花の紙問屋・亀屋の後取り息子ですが、江戸育ちで「宵越しの銭は持たぬ」と色街で放蕩三昧。見るに見かねた父親は伊之助を勘当します。伊之助が転がり込んだ先は、亀屋へ親の代から出入りしている大工の棟梁・辰五郎(渋谷天外)の家。ひとかたならぬ恩義を感じている辰五郎は女房のおとき(山村紅葉)や小頭の市三(曽我廼家寛太郎)と共に快く伊之助を迎え入れます。
そんなある日、亀屋の御寮人・おこう(水谷八重子・波乃久里子交互出演)が辰五郎を訪ね、贅沢罷りならぬのお布令により上質の紙の売れ行きが落ち、老舗を誇る亀屋も五百両の金が無くてはのれんを降ろさなくてはならないという窮状を吐露しました。そんなこととは露知らぬ伊之助は、女義太夫・りん蝶(藤田朋子)や芸者・色香(瀬戸摩純)など困っている人に出会う度に、人の難儀が金で救えるものならと次から次へと金と引き換えに人助けをして行きます。
世の中を甘く見ていた伊之助に、初めて金の有難味が分かる時がやって来ます。それは何気なしに買った一枚の富くじでした…。
三、おやじの女
安藤鶴夫 原作/舘直志 脚色/成瀬芳一 演出
亡くなった兄の妻と愛人との悶着の間で、弟が右往左往する可笑しみを描いた、新派の味に近い新喜劇作品。水谷八重子・波乃久里子・渋谷天外という劇団新派と松竹新喜劇の本格的な共演作品にご期待下さい。
死んだ親父の名は都路太夫。歌舞伎の義太夫語りでした。酒は呑む、女道楽はするで、さんざんしたい放題し尽くしたのにも関わらず、人からは「ええ人やった」と言われて大往生。特に太夫の相方の三味線弾きだった実弟・半助(渋谷天外)にとっては、夫に死なれた後家の心境です。息子の藤一郎(丹羽貞仁)は、父親の性格とは反して、地道な会社員となり、妻・はつ子(石原舞子)妹・やす子(藤田朋子)と共に母親・つる(波乃久里子)への親孝行も怠りませんでした。
父親の百ヶ日も過ぎた或る日、姫路から生前のおやじの女・花村よね(水谷八重子)が、線香をあげさせてほしいと、知人である大隅社長(高田次郎)を通じて頼んで来ました。幼時、およねのために嫌な思いをした藤一郎は、この申し出を断りますが、おつるのひと声で迎え入れる事になりました。
浮気をされながらも誰よりも夫に惚れていたおつるの気持ちを一番理解していた半助は、やってきた兄の愛人・およねが、おつると共に仏前で二人並んで合掌している後姿に憎悪より懐旧の思いへの変化を感じとりホッとするのですが。それも束の間…。
キャスト/水谷八重子 波乃久里子 中村梅雀 渋谷天外 ・藤田朋子 山村紅葉 丹羽貞仁 高田次郎 英太郎 井上惠美子 田口守 瀬戸摩純 曽我廼家八十吉 曽我廼家寛太郎 石原舞子 井上恭太
芝居小屋の楽しさに溢れた演劇玉手箱
歌舞伎座が閉まってしまっていたから新橋演舞場は仮歌舞伎座みたいな劇場になっていたので、こういう芝居が東京でほとんど見られなかった。いやあ行って良かった。今回は3本だて。その上演時間は50分、75分、75分。この短い時間でこれだけの要素が詰まっているとは驚くばかり。笑って泣ける人情喜劇の王道の芝居が3本。それも、125周年の新派と松竹新喜劇の合同公演の様相。名優が多いのだが、誰かひとりの芸を中心に見せる座長芝居にドライブがかかってないのも嬉しい。楽しい。飽きない。いろんな要素の詰まった演劇玉手箱、演劇万華鏡である。演舞場であるが、芝居小屋の雰囲気。ストーリーで見せる。役者の芸で見せる。お見事、お見事なのだ。水谷八重子、波乃久里子、中村梅雀、渋谷天外、高田次郎は旨いことは知っていたが、英太郎がこんなに旨い俳優なのだと今回改めて実感。この人は三越劇場よりも演舞場の箱の大きさが合うんだなああ。50分の中で後半はもうちょこっと動いただけで笑えるのだ。お見事!
山村紅葉はテレビの芝居では何かウルサいなあと思うこともあったけれども、舞台ではこんなこともあんなこともできると感心することしかり。そして、田口守!この人は本当に昭和の加藤大介や宮口守といった昭和の名優と相通じる旨さ。シリアスもコメディも怪演もできる俳優さん。スゴいなあ。スゴい!三木のり平さん演出の舞台でも見てみたかった。この人、もちろん新派の舞台でも毎回名演技。見た目の派手さはないかもしれないがロバートデニーロ系の芝居をする。つまり、でる芝居によって化けるのだ。今回も見事に化けていた。
自分もこういう芝居を書いてみたいし、こういう腕のある役者さんと芝居がしたいなあと思った次第。さらに、もうひとこと。今回生まれて初めて演舞場の3階席で見た。これが案外舞台に近くて細かい芝居もきちんと見られて驚いた。チケ代も小劇場くらいの安さ。松竹の偉いところは、1等席も作るけれども、こうした格安でも芝居を見せるところ。もう一度見たい。今度は1階席で。最後に辛口のことを一言。井上恭太は新派のホープ、二枚目である。若いから小さい役でも舞台に乗る。その時の芝居が細か過ぎて残念。二枚目なのだから、無理にアンサンブルにとけ込まずにドーンと立っていて欲しい。特に上半身が動きすぎる。ドーンと立って最低限の芝居だけしていれば、客が見つけてくれるもの。長谷川一夫はあんなに動かなかった。2013年2月10日@新橋演舞場
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
HP:
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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