佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 阿佐ヶ谷スパイダーズ 失われた時間を求めて 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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作・演出/出演 長塚圭史
出演 奥菜恵 中山祐一郎 伊達暁

 ネットでの評判はすこぶる悪い。それでもベニサンピットに超満員の観客だった。それも、今までみたベニサンピットの芝居の中で一番多くの観客がいたのではないか?300席ほどの客席は会ったように思う。そして、通路席まで満杯の客。スゴい人気である。芝居の内容もそうだけれど、観客の様子も気になった。1時間40分の芝居だが、30分くらい経過した時点で集中力が切れてしまい飽きてしまった客が少なくなく、目をつむったり眠ってしまうお客さんもいた。それも少なくない。

 芝居は、僕に言わせれば、別役実ばりの不条理劇で、電柱とベンチとくずかごと落ち葉がある。何かそういうのも、不条理っぽい記号である。それに、丁寧に側溝もあるし、それが囲まれた空間にはねじ曲がった扉がある。出口という扉の向こうにもまた同じ世界が広がり抜け出せる感じはない。

 物語は解体され登場人物の関係性のゆらぎだけが一貫して演じられて行く。中山祐一郎はその中でものすごいパワーと、戯曲に対する信頼感をもって、この世界の登場人物を全うする。そして、世界の登場人物に実生活も不条理的な匂いがする奥菜恵が素晴らしい演技を見せる。その中に登場する伊達暁も一番まともそうで、やはり同じ穴のむじな系なのである。長塚圭史は、このような不条理劇の嗜好がある。そういう作品を愛する傾向があるのは前から分かっている。この観客の反応は、数年前の公演(それは阿佐ヶ谷スパイダースとしての公演ではなかった)、観客から不評の嵐だった三好十郎の「胎内」の時を思い起こさせた。あのときも確か奥菜恵ではなかったか?

 阿佐ヶ谷スパイダースの公演は長塚圭史が物語を信じて作劇してきたように思う。時に長塚ノワールとまで言われた独特の世界観や空気感はあるけれども、そこには現代的な笑いも、確実に約2時間後に迎える終わりに向かって進む物語がある。きっと観客はそれを求めて阿佐ヶ谷スパイダースにくるのだ。しかし、今回は違った。
 長塚圭史の嗜好性として前々からある世界観ではあるし、それは従来の阿佐ヶ谷スパイダースの公演にも顔をのぞかせていたのであるが、今回は、それを前面に、いやそれで透徹して作品を作ることをした。別役実やベケットを知らない観客も巻き込んでしまった公演だったのだ。でも、長塚圭史は、阿佐ヶ谷スパイダースの公演として見に来る観客にこそ、これを、この世界を見て欲しかったのだ。
 今までの阿佐ヶ谷スパイダースの公演とは違う。違うタイプの芝居だ。だからこそ、観客は戸惑いを隠せなかったのである。こうなることを長塚圭史は知っていたはずである。戸惑った若い観客にとってみると5500円のチケット代の元が取れなかった気分になるのかもしれないが、今は面白いと思えなかったとしても、それは思えなかっただけで、これからの観劇の経験の中で、将来、あれ!今から考えたら,あのときの公演って面白かったんだ!と気づくことがあるかもしれぬ。いやそうなるものである。
 忘れないで欲しい。観客として大いに戸惑ったこの作品を、それを演じる中山祐一郎の渾身の演技を。あれだけ汗だくになり演じたあの姿を忘れないで欲しい。いや、忘れられないだろう。この作品を面白いと思ってみられなかった観客にとっても、それは、ずしっと心に刻まれたはずだからである。
 そういう意味で、この作品をみた一部の観客にとって、この作品と本当に出会うのは未来なのかもしれない。失われた時間を求めて。とても不思議なタイトルをつけたものだ。
 
 で、眠ってしまった観客はどうなるか。ある人は最初の30分は起きていた。途中から眠ったり起きたりだったかもしれない。それでも、5500円払ったのだから、全部で40分は起きてみていただろう。それなら大丈夫。この作品はワーグナーのオペラのように、最初から最後まで一貫した世界のゆらぎの妙を楽しむ舞台だから。自分の覚えている断片を手がかりに、やっぱり、この作品と出会う人が出てくる。そして、眠ってしまったことを「失われた時間を求めて」ってそういうことだったのかなと、中山祐一郎の白熱の演技とともに思い出すのである。

 不条理劇を観に行くときは、その観客も、今日は不条理劇を見るぞと準備してくるので、その世界に戸惑ったりする人は少数派である。しかし、今回の阿佐ヶ谷スパイダースの公演は違った。それは、まるでテレビのゴールデンタイムに詩吟とか将棋とか堅いニュース番組とか決して放送されない番組が放送されているみたいで、その世界に投げ込まれた観客と舞台と両方併せて観ると本当に面白かった。ロックコンサートと思って来てみたら、シューベルトの歌曲集を唄うみたいな。そんな感じ。そして、中山祐一郎の新境地となったと思う。

 いらっしゃいませ。不条理劇の世界へ。どんどんはまって行きますよ!!!

 ごめんなさい。書き直すかも!
 


2008年5月25日
ベニサンピット■■■
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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