佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 ロリンマゼール/N響定期 2012年10月 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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2012年10月
ロリンマゼール指揮
NHK交響楽団

NHK


 今年度のNHK交響楽団シーズンの最大の目玉の10月。Aプロのグラズノフのバイオリン協奏曲のソロのキュッヘルはご存知ウィーンフィルのコンサートマスターの中でもトップの存在。キュッヘルは2011/12のシーズン。震災後で多くの欧米の演奏家が来日を拒否しキャンセルする中、単独来日し、N響の5月のプログラムで特別コンサートマスターをしてくれた日本を愛してくれる世界の音楽界のトップ。そして、マゼールとはウィーンフィルで百回以上共演している仲です。もう期待が高まらないと言うのが無理な話です。4つそれぞれが音楽好きならたまらないプログラムになっています。

Aプロ  
 チャイコフスキー組曲3 グラズノフバイオリン協奏曲(キュッヘル)
 法悦の詩/ 無伴奏パルティータ2番 サラバンド(アンコール)

N響最高度の集中力でマゼールと共演
 マゼールとの初顔合わせは珍しいチャイコフスキーの組曲3番で始まった。冒頭は堅いなあと思わせたがすぐにN響はマゼールのあの溜める指揮棒に柔軟に対応し始めた。それにしても今宵のオーケストラの集中力はものすごい。この組曲は弦楽のアンサンブル、ハーモニーがとても大切で、マゼールの指揮とハーモニーの合奏のための聴くということが同時に進行して行く、素晴らしい選曲である。
 そして、コンマスのマロさまのソロ部分の美しいこと。マゼールはこの曲だけでなく、最初の顔合わせだからか、いつもの灰汁の強いマゼール節炸裂の演奏でなくむしろ中庸の良さを大切にした演奏だったと思う(彼にしては)。
 ウィーンフィルのキュッヘルさんを迎えてのコンチェルト。キュッヘルさんは昨年2011年の5月。世界の音楽家が来日キャンセルする辛い音楽環境のなかで、来日し尾高忠明指揮のもと、4回の定期演奏会に特別コンサートマスターとして演奏してくれた。その時の英雄の生涯のソロの美しかったことは忘れられない。ということで、世界的な音楽家ではあるがN響にとっては、親戚の様な存在。
 しかし、キュッヘルさん、この協奏曲にてこづっていた。音色も音量も音程もイマイチ感が拭えないまま終わってしまった。それでも観客は盛んに拍手をするのだが、彼自身が不調であることを分かっているためにスゴくバツの悪そうな感じ。
 巧みにコンサートの最後におかれたスクリャービンの名曲はなかなかいい演奏に出会わない。しかし、今宵はこの曲の魅力を思う存分、聞かせてくれる素晴らしい演奏だった。マゼールが来たからと何か特別の技術的飛躍があるわけではないが、マゼールの色づけとオケのいつもにも増しての集中力でとてもいい演奏会となった。2012年10月13日 @NHKホール
 
 N響はマゼールの芸術を表現する能力を完璧に備えて…
Cプロ:ワーグナー ニーベルングの指輪(声楽なし/マゼール編曲)
 ゲストコンサートマスターにアムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスター、ヴェスコエシュケナージを迎えての80分弱の音の饗宴。マゼールはNHK交響楽団に何の妥協も必要ない。ゆったりめのテンポでワーグナーのテキストを懇切丁寧に読み解いて行く、おなじみのメロディやモチーフはきちんと揃っていて、弦の奏者を厚めにそろえたこともあり、低音の美しさ。ハーモニーのすごさ。管楽器はちょいと怪しいところもあったけれども、すんばらしいいい。打楽器系も面白いほど決まる。それも、この巨大な音響の点では東京の他のオケが使わないホール。ここでこの演奏。すげーなーとしか言いようがない。N響の定期会員であることをホントに喜びと思った80分。2012年10月20日@NHKホール

 もはや旧知の仲、マゼール/N響の絶妙なハーモニーを満喫。
Bプロ:モーツアルト/プラハ交響曲、ウェーバー/クラリネッと協奏曲2番(Dオッテンザマー) スペイン狂詩曲 ボレロ 
 モーツアルトの38番交響曲。マゼールはモーツアルトで評価されている指揮者ではない。僕には例えばアンドレプレヴィン/N響でモーツアルトを聴いたばかりだから、この演奏にモーツアルトよりもマゼールの体臭のようなものを感じてしまう。しかし、同じオケがよくもこう1ヶ月で替わるなあと感心する。モーツアルト=小編成でまたもやオケの合奏力、アンサンブル力にギアを入れたマゼールは、享楽の音の世界を次々と披露する。
 決して有名曲ではないウェーバーのクラリネット協奏曲。そこにウィーンフィルの首席のオッテンザマーが入り、最小音から絶妙の表情がびしびしと決まる演奏。今年の最優秀ソリストの候補に入った。ザマー。会場が一気に湧く。
 そして、後半のラベル。先日の読響と比較すると光り輝き音が跳ねている。光と色彩豊かな印象派なラベルが聞けた!ピアニシモの中に輝くダイヤ。砂丘に吹く風のように微妙に変化が生まれて行く。これぞ、ラベル!ボレロは、テンポがやや速めなのと、各パートにジャージーにメロディを歌わせることもあってか、サックスなどミス連発。ちょい残念。しかし、この超名人芸はなんだ。こんな個性的な、こんなボレロ…も、、、、いいよ、いい!まるでN響はもう何回目かの共演のごとくマゼールの要求を見事に聞き入れ、名人芸であり、個性的な演奏を繰り広げる。
2012年10月25日@サントリーホール
 





NHK音楽祭 
 ベートーベン:序曲「レオノーレ」第3番 ハ長調
 グリーグ:ピアノ協奏曲 イ長調 作品16 アリスオット独奏
 チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
(アンコール)グリンカ作曲「ルスランとリュドミラ」序曲

大団円は祝祭的に
 今年の初めから待ちに待っていた。マゼール/N響の共演もフィナーレ。コンサートマスターはマロ、篠崎さんに戻り、何ヶ月も前から完売だった公演は超満員の観客の中で開かれた。マゼールのこだわりのあるベートーベンで始まり、アリスオットが美貌だけでなく、ピアニストとしてもなかなか優秀であるところを見せたグリーグの協奏曲。マゼールのつける音楽は華やかで繊細。そして、歌う。
 そして、4番交響曲。昨年9月のブロムシュテットとの5番も名演だったが、響のこれは個性豊かな名演。テンポは微妙に動き音楽が生き生きとしている。そして歌う。特に低音を丁寧にし、客を強音で驚かしてひきつけるのではなくピアニシモで引き寄せるようにして魅了して行く。マゼールマゼールマゼール。
 会場はブラボーというよりも歓声で埋まる。そして、アンコール。この夢の饗宴を惜しむように見事な楽しい名演であった。82歳のマゼールともう一度機会がありますように!2012年10月29日@NHKホール


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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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