佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 NHK交響楽団2012年4月定期 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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指揮 ロジャー・ノリントン

NHK



Bプロ
ベートーヴェン / 序曲「コリオラン」作品62
ベートーヴェン / ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58
ブラームス / 交響曲 第2番 ニ長調 作品73
ピアノ/河村尚子

「この新鮮な響きは印象派の絵画に似て」
 ベートーベンでは、馬蹄形に並んだオーケストラ。コントラバスは舞台後方。弦のセクションは向き合い同じセクションでも距離が近くお互いの音を聞きながら演奏する事になる。ピアノはオーケストラに包まれるようにおかれ、まるで弾きぶりをするような配置である。通常よりもピアノと各演奏者の距離も近い。協奏曲の時はノリントンはオーケストラの真ん中にいて、前を向いたり後ろを向いたりで指揮をする。
 ノリントンの導く、ピュアトーンは、いわゆるヴィヴラートを排する。ピリオド奏法ともいう言葉から連想されるように、各々の奏でる音を極める事を求めている。ヴィブラートが許されないということは、どういうことだろうか?
 音はドレミファソラシドと音階があるが、もちろんドとレの間にも無数の音階がある。ヴィブラートはそれを揺らしながら、揺らぐ音を奏でるわけだ。つまり、分かりやすく書くとド−→ド→ド+→ド→ド−といった具合にある範囲を揺らぐのである。
 また、ホールに残響があるように、音の長さも綿密に表現すればアナログなのである。一方でピュアトーンは、そういう揺らぎを極力排していこうとする。だから、特に弦の奏者を中心に、音の揺らぎをなくそうと、お互いの音をきき、一点の音の極みにたどり着こうとするわけだ。音の長さも同じである。8分音符は8分音符ジャストの長さで行こうというわけだ。
 こういう演奏をするということは、奏者は極めて高度の技術と集中力を求められる。N響のような文化的、教育のメソッドも割と似通った背景を持つ楽団は向いているのかもしれない。昨年のノリントンの演奏に比べて、ピュアトーンの魅力が爆発的に表現されていたように思える。音の極みは、まるで印象派の絵画を観るようだ。例えば、セザンヌ、たとえば、ゴッホ。彼らがキャンバスに陽光に光る緑を表現するために、息吹く花を表現するために、原色を乗せていったように、極めて純粋な音の放射があるのだ。
 弦からティンパニまで見事にこのピュアトーンの魅力を表現していた。ああ、ああ!N響はここまで柔軟に表現できる楽団なのか!東京にいることが惜しい。何で欧米と東京は航空機移動で15時間もかかるのだ!時差があるのだ。もしも、数時間であれば年に何回も、ちょっと気楽に、それこそN響が地方都市で演奏会をするように気軽に欧州の西洋クラシック音楽の本場でこの魅力ある楽団の真価を分かってもらえるのに!
 僕は河村尚子というピアニストを知っているわけではない。
しかし、彼女はこのピョアトーンの中に身をおいて、その空気を見事に感じ取り演奏していた。僕は、ベートーベンのピアノ協奏曲といえば、バックハウスの録音で始まり、ルドルフゼルキンで聞いた生演奏を極上のものとする価値観で生きてきた。それを打ち破ったのがポリーニであった。彼のイタリア的、いやルネサンス的美学溢れる美しい音のベートーベン。若く魅力的な造形美は90年代以降になって、僕の演奏のあるべき理想像に大きな影響を与えた。
 河村が今回の独奏者に据えられているのをしって、正直、何の若造(女性であるが)が!と思ったのだ。まあ、若いから指がサーカスのように動く演奏を聴かせてくれるだろうけど、そんなのベートーベンじゃねえ!と思って会場にいたものだから驚いた。ベートーベン造形美を感じさせながらも、細部に至って見事に光沢されていたのだ。そして、ジャズというかロックというか、なんてノリのいい演奏なのか!
 1楽章の出だしは極めて自然なのに、オーケストラとのやり取りの中で高まっていく音楽の魅力に溢れていた。日本で活躍するのもいいが、どうか内田光子のようにキャリアをどう築くかじっくり考えてもらいたい。本当に素晴らしいピアニストだ。
 ブラームス2番交響曲。ブラームスの田園交響曲とも言われるこの曲は極めて渋い。渋いながらにメランコリーなメロディが時々顔を出す。難しいシンフォニーだ。後半は演奏者をどっと増やして、前半よりも通常の配置のオケに近づいていたが、コンセプトは同じだった。ピュアトーンが時に上手く行かず弦のセクションの音が金切り声に近づいてしまいキズが全くない演奏というわけではないが、やはり素晴らしかった。というよりも、聞けて幸せだった。しかし、ベートーベンに比べるとピュアトーン演奏が成功していたとはいえないと思う。きっとピュアトーンは純粋な古典派に向くのだと思う。でも、この演奏方法をベートーベンまでで収めてしまうのは勿体ない。次のノリントンとN響の共演は年末の第9交響曲だ。楽しみに待ちたい。
 2012年4月26日@サントリーホール
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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