佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 夏の夜の夢 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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ウィリアムシェイクスピア作
西沢弘治演出

 小劇場界の名うての役者を集めて上演する夏夢。最近とみに聞こえてくる演出家西沢さんの手腕を観るのにこれほど適したテキストと場はないのではないか?誘って頂いたこともあり喜んで参上したいと思う。



「夏の夜の夢」はさまざまな演出で見ているが、一番印象に残っているのは、まだこの作品についてほとんど分かっていなかった時代にロンドンで見た、RSCのトレヴァーナンの演出ではないかと思う。とにかくファンタジー、とにかくスピーディ、でも、良く分からない英語の台詞が舞台上から跳んできた。日本では昨年の新国立劇場でのジョンケアード演出版が印象深いが、それこそ、90年代にベニサンピットで見た蜷川幸雄版の初演や、7年くらい前に見た柄本明さん演出の東京乾電池の夏夢ーそれは正月に見たのだがー面白かった。加納幸和さんが日生劇場でやってみたり、そうそう、小林顕作が池谷のぶえや峯村リエ、みのすけさんたちと、MAというジャニーズを中心に木野花さんの演出ってのも見たなあ。映画では、ソフィーマルソーやケヴィンクラインが出演したアメリカ映画もありました。
 いやいや、出かけてみたら「夏の夜の夢」かよと思ったものもありました。まあ山ほど見てきているわけです。
 さて、今回の西沢バージョンを考えてみたいと思います。別に正しい指摘かどうかは分かりません。あくまでも感想です。この上演の特長は、本来ならば3時間以上かかってもおかしくないこの作品を90分程度にまとめたところ。山ほどカットした。今風のギャグを入れ込んだり順番を変えてみたりいろいろです。これは物語をすっきりさせるためには、悪くないアイデアです。そして、それはかなり成功していました。
 しかし、個々の演出プランには疑問の部分も少なくないのです。西沢さんの古典に対するアプローチの仕方が分からなかった。先ずは、全体の設定が良く分からなかった。例えば蜷川幸雄さんのそれであれば、石庭の中で行われる芝居、日本の世界に引き込んだ。加納さんのそれであれば、神社の中での和の世界にした。天狗が出てきたりするわけです。木の花さんのそれは、もう写実的に森の中できちんとやった。設定を置き換えるのは何ら抵抗ありません。もうオペラの世界で山ほど見ているからです。しかし今回は、まず舞台を観ると、藁敷が山ほどかけてあ大きめなホームレスの住居(それならブルーシートだよね)にも見えるし、何かの陣営みたいなところにも見える。途中でリヤカーが出てくるので、時代はそう古くないんですよね。そうなるとああいう場所が分からない。
 設定や美術はどうでもいいとしましょう。素舞台のかわりに藁にしてみたっていう理由でもいいとしましょう。しかし、出てくる人たちの衣装も統一感がないんです。ある人は現代風の服を来ていたり、非常に貧乏な感じだったり、おしゃれな服装だったり、それは統一感がとれていません。役名がそのままだったことを考えると、未だに何でああいう美術にしたのかが分からないのです。いっそ、真っ白でも、真っ黒な素舞台でもいいから意味のないものにして、そこでこの芝居を稽古する俳優たちっていう設定でも構わないんです。何かそういうところをきちんとやってほしかった。
 でも、そういうこと以上に気になったのは台本へのアプローチです。例えば職人の芝居を安っぽくしていた。シルビーを最も太った人にデンスケみたいな化粧をさせ、分かりやすく言えばフルートにオカマ芝居をさせて笑いをとるわけですね。日本の歌舞伎できちんとした女形がいるように当時のイギリスもきちんと男が真面目に女をやっていたわけです。元々はきちんとした芝居であったものを、変な風に気を回し、それでも一生懸命やっているのが面白いという風にしてもらえたら、原作の味わいも伝わった上で面白がれたと思うのです。あれでは、オカマ芝居で笑いを取っているだけで原作の味わいは消えてしまいました。さらに、パックが妖精というよりは、小悪魔のように見えてしまうんですね。いたづらも悪意をもってやっているという風にしか見えない。今までの解釈で悪意をもってというのは見たことがないので戸惑いました。公爵やオベロンたちも若すぎて可哀想です。タイターニアは何かゴシック&ロリータ風で意味合いが良く分からないのです。こういう問題を解決するためにも、設定が大切なんだと思うんですよね。でも…そう言う中で良かったのは予想通り、京極圭と江原里実さんでした。江原さんは例の若者二組の中にきちんと佇まいながらも台詞が台詞にならずにきちんと自分の言葉になっているんですね。例の演劇的っていうか、宝塚的な台詞の大仰な言い回しがあるじゃないですか、それを連発する人もいるわけです。連発して台詞がテキストを様式化して言っただけでは芝居ではないわけです。江原さんはその大枠の中にありながらも、きちんと台詞として生き生きとしていたのです。これは大変なことです。
 相手役デミトリアスをやった京極さんは、本来のイメージからはちょっと違う役回りでしたが、それを自分のものにして演じきっていました。妖精たちは、カラシの精は面白かったし、ライサンダーも爽やか一生懸命走ります的な演技で好感がもてました。全体として役者さんたちの力量はあるのですが、それでも差があったかなあという感じです。ゴメンナサイ。

 まあ、いろいろと申し上げましたが、いろんな俳優さんがいるカンパニーで、全体として何しろ90分にまとめてくれた手腕はたいしたものだと思います。見に行って良かったです。


赤坂REDTHEATER
2008年8月10日

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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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