佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 ティーレマン指揮/ドレスデンシュターツカペレ来日公演2012 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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指揮:クリスティアン・ティーレマン
管弦楽:ドレスデン国立歌劇場管弦楽団


ブラームス:交響曲第1番&第3番
(アンコール)ワーグナー:リエンティ序曲


この、ブラームスはお好き?
 ブラームスの交響曲。世界中の超一流オケの演奏でいろいろと聞いてきた。聞かせてもらってきた。
 しかし、このティーレマン/ドレスデンシュターツカペレの演奏は全く違う高みに達していた。僕の記憶の中に生涯残る、圧倒的な名演だった。
 オーケストラがあのような緻密な演奏をするのは、チェリビタッケが指揮した時のミュンヘンフィルの緊張感に共通するものがある。決してフォルテ、最強音に簡単に行かずに、ピアニシモと中庸の中で深いハーモニーと微妙に揺れるテンポ、ひとつひとつのフレージングを大切にしながら醸し出すオーケストラ演奏のひとつの頂点。
 個性はあるのに、伝統の音でもある。
 ドレスデンシュターツカペレは共産主義の東ドイツ時代、80年代の来日で2回、あれはブロムシュテット、90年代になりシーノーポリで何回か、そして先年は、ファビオルイジと3人の指揮者の演奏できいてきたが、全く違う境地にいたことは間違いない。
 NHKホールは音響的には東京の会場の中ではもはやトップクラスではない。その中であれだけのプレゼンテーションをする。NHKホールで聞いたオーケストラ演奏会では間違いなくトップ5に入る時間だった。
 ドイツの現存するオケとシェフの組み合わせで、僕の中で決定的に、ベルリンフィル/サイモンラトルよりは、魅力的な組み合わせであることを確信した。
 ティーレマンをオーケストラコンサートで聞くのは、サバリッシュの代理でウィーンフィルとやってきた2003年の来日、そして、ミュンヘンフィルと来日した2007年と聞き、今回は5年ぶりなのだが、感動の深みが違うのは僕だけだろうか?ミュンヘンフィルの時にもブラームスの1番を聴いたのだが、その時の記録では「良かった」くらいしか書いていないんだよね。
 この極みはなんだ!
 来月はかつてのシェフであるブロムシュテットがバンベルグ響とやってくる。ホルストシュタインの最晩年、バンベルグと何回かやってきて、ブラームスのいい演奏を聴かせてくれたなあ。
 しかし、昨日の演奏はスゴかった。スゴいのに、圧倒的なのに、力でねじ伏せられている感じは全くない。音楽の何か重要な肝の部分でひゅーっと吸い込まれて行くようだった。
 それだからか、金管の音の出だしがちょいとひっくり返り気味になるのが目立って仕方がなかった。もちろん、いったんメロディに乗っかってしまうと素晴らしいのだけれど、ああ、ホントに良かったなあ。
 こうなると、ティーレマンの唯一の欠点は見栄えだな。
何かあの顔、体型、髪を観ていると1940年代のドイツの純粋愛国的な若者を思い出してしまう。あと拍手を指揮台から乗り出すようにして、どうでした?って見る顔、あれはキャラヤンぽい。フォンキャラヤン!
 昨日のアンコールのワーグナー「リエンティ」序曲も良かった。大枚32000円!出して聞きに行く26日のブルックナーも楽しみだ〜!正直、チケット代に金使い過ぎだが、この体力のあるうちにいい演奏を聴くために金を使いすぎて、人生の終末で貧乏になりおかゆを啜るようになったとしても、後悔なんかしない。
2012年10月22日@NHKホール



ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』から“前奏曲”と“愛の死”
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調

ティーレマンとカラヤン
 カラヤンが設立したザルツブルグのイースター生誕音楽祭やジルベスターコンサートのドイツ国内のテレビ中継などが、ラトル/ベルリンフィルから、ティーレマン/ドレスデンシュターツカペレに変わりつつあるという。欧州の楽壇を制覇しつつあるこの50歳の若き巨匠の存在は極めてユニークだ。
 既にドイツ系の音楽を演奏する指揮者はすべて既に高齢である。ハイティンク、マゼール、デイヴィス、アーノンクール…すでに80歳代。ヤンソンスも70歳。デビッドジンマン75歳。アバドもムーティもまもなく80歳。50歳前後で彼のライバルとなる人はいない。全くいない。それもティーレマンは久しぶりの著名なドイツ人指揮者である。私がこの指揮者に驚いたのは2003年のウィーンフィルとの来日だった。伝統のウィーンフィルをいつも以上の緊張感をもたせ、がっちし名演をきかせてくれた。その時と同じプログラムが今宵のそれだ。
 ワーグナーでは、ブラームスの時に聞かせた、中音量から弱音のレンジにおけるテンションの高さ、微妙な表情の変化は聞く側にも高い集中力を求めるもので疲れたがティーレマンの将来を楽しみにさせるものだった。
 しかし、このブルックナーはどうだっただろう。
良さはある。同じく弱音などでの面白さだ。同じくフレージングを歌わせる。弦のアンサンブルも素晴らしい。しかしながら、どうして、こうブルックナーのスコアにティーレマン節を残して行こうとするのだろう。それは故意に残すキズのようなものだ。
 カラヤンは権力を楽壇の中で示そうとしたが、ティーレマンは演奏の中に自己を投影した。それは、将来の飛躍のための道中の表情なのだろう。これから熟成されて行くのだろうとは思うのだが、決して心地よいものではない。
 ブルックナーは自ら書いた交響曲を決して信じなかった。幾度も書き直し、神に問うた。あなたがこの世に残したい楽曲はこういうものなのでしょうか?と
 ブルックナーの音楽はロマン派の音楽が吹き荒れた音楽の世界で、バッハからブラームスに至るドイツ音楽の本流と対話し、自らを託して生み出した楽曲だ。その音楽は教会や神社に漂う神聖な空気が、地球の歴史の遥かかなたを思い起こさせる大自然に漂う透徹した大いなる力と結びついた音楽だ。その空気が全編を覆う。その意味でブルックナーの音楽はブルックナーであり、ブルックナーではないのだ。そこに50歳の若造の音楽性?個性?の投影を残して自分らしさと思うのならそれはあまりにも青い音楽でありブルックナーではないのだ。2012年10月26日@サントリーホール
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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