佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 バンベルグ交響楽団来日演奏会 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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ヘルベルト・ブロムシュテット指揮/バンベルグ交響楽団



85歳の若い老巨匠を得て水を得たように復活したバンベルグ響

ベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」交響曲第7番
(アンコール)エグモンド序曲

 ジョナサンノット指揮でのバンベルグ交響楽団は少し沈滞した。このオケはドイツの名門オケが次々とインターナショナル化していくなかで、頑にドイツ的な何かを守ろうとしているオケなのだ。僕はヨッフム、ホルストシュタイン、そして、ノットでも聞いたきたのだが、若い指揮者に全幅の信頼を寄せないのだろうか?指揮者の意志が行き渡るというよりも、何か楽曲演奏の中心がどこにあるのか分からない演奏で緊張感がなかった。今回は85歳のブロムシュテットを得たことによって、大満足の演奏。このオケ、楽員の誰よりも演奏歴の長い人が来ると、何も言わずに従うのかな?そんなことないか。いづれにせよ素晴らしい!
 ブロムシュテットはつい数年前に、オスロで聞いたオスロフィルのブラームスで評価を変えた。それまではどうも面白くない演奏をする人だと思っていたのだ。最初にきいたのは、ドレスデンシュターツカペレとの来日。まだ社会主義時代の1980年代のことだった。あとはN響の指揮ということになるが、その頃のN響はドイツ人の巨匠が次々と指揮していたから、いまひとつパッとしなかったこともあるかもしれない。
 しかし、ブロムシュテットは85歳なのに若い。渋さよりも壮麗で、若々しいテンポで音楽をならしていく。4楽章の弦楽合奏だけで語られるところのアンサンブルの素晴らしさ、弦の音の美しさ。若々しいが、ブロムシュテットは余計なことを一切しない。ベートーベンに語らせる。そこが、若いティーレマンとの違い。こういう演奏をきくとべートーヴェンは21世紀にも生きていくだろうと確信する。
 ときおり、楽曲の冒頭で縦の線があわなかったり、管楽器がひっくり返ったり。ブロムシュテット/N響ではそんなことないのになあ。
 それにしても、こんなに良い演奏をしてくれるとは思わなかった。
2012年11月1日@サントリーホール

音楽界の勢力図が大きく変化している。そして、

モーツアルト/ピアノ協奏曲17番
ブルックナー/交響曲第4番「ロマンチック」

 ブロムシュテットは2011年秋のN響との定期演奏会でブルックナーの7番交響曲の名演を披露してくれているし、先週のベートーヴェンの演奏も良かったので、間違いなく素晴らしい演奏会になるだろうとは予想していた。
 しかし、その高いハードルも軽く飛び越す究極のブルックナーの演奏を聴かせてくれた。1日の演奏会であったような縦がずれるとか、金管などが揺らぐことも全くなく冒頭から深く強いアンサンブルを聞かせてくれるものだった。特に2楽章のボヘミア的ロマンチズムが溢れるところからは、この演奏はもうウィーンフィルやベルリンフィルなどでも聞かせることのできない、技術的、そして、高い音楽性をもった至宝の演奏であったといえるだろう。オーケストラの各パートはお互いを聞くとともに刺激し合い、有機的に高いレベルになっていくのだ。ブロムシュテットの微妙な変化に微妙に応えて行くのだ。唖然とする演奏とはこのことで、私は目の前にバンベルグ交響楽団とベルリンフィルの演奏会があって、どちらか好きなものをどうぞということになれば、バンベルグ交響楽団を間違いなく選ぶことになるだろう。ベルリンフィルはブランドは一流だし技術も特級だったが、今宵のバンベルグは技術は一流だし、個性と魅力はベルリンフィルを遥かにしのぐものだといえるだろう。最近の東京のオケの飛躍的な向上など、楽壇はいま大きく変わろうとしているような気がしてしかたがない。
 ブロムシュテットはいいという評価はあったとしても、カールベームなどと比較される様な指揮者ではなかったけれども、今回のバンベルグ響との来日で、少なくとも日本では、ベーム、カラヤンなどと比較される世界の音楽界の超一流指揮者として名声が確定したといえるだろう。
 ブロムシュテットは85歳だけれども若い。肉体的にも若いし音楽も瑞々しい若さがある。
 さて、今宵の演奏はこのブルックナーの交響曲を聴きに行ったのであってモーツアルトはおまけのような存在であったはずだった。しかし、その考えは全くの間違いであった。こんな化け物みたいなモーツアルトを聞いたことは私の経験ではない。17番のピアノコンチェルト。ソリストのピョートル・アンデルシェフスキというハンガリーとポーランドの血を引く若いピアニストの演奏がぶったまげるほどすごかったのだ。ピアニシモの美しさ、ピアニシモの中での微妙なゆらぎ、鋭角なリズム、こんな美しいピアノの音をきいたことがない。彼が丁寧な美しいピアニシモの音でオーケストラに襷を渡すと、それに呼応して非常に繊細な美しいピアニシモの弦が引き継ぐ。ああ、協奏曲でお互いに呼応するということはこういうことだよね!と思わせてくれる素晴らしいものだった。音楽は有機体としてライブに生きていた。モーツアルトが聞いたらきっと大喜びしただろう。僕は巨匠と呼ばれるピアニストを山ほどきいてきて、もうほとんどが亡くなってしまったし、ポリーニも一時期の生彩はないし、アルゲリッチは粗いだけになってしまったので、もうしょうがないなと思っていたけれど、あれだね。天才ってのは出て来るんだね。このピアニストの欠点は名前が覚えにくいことくらいだ。ああ、驚いた。
アンコールのバッハのフランス組曲のサラバンドも見事。コンサートがあったら他の予定を変更してでもいきたいと思った。
2012年11月6日@サントリーホール

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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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