佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 読売日本交響楽団演奏会 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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指揮:ペトル・ヴロンスキー ピアノ:清水和音
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491
《マーラー・イヤー・プログラム》マーラー/交響曲 第5番 嬰ハ短調

 


「驚異的な成功をおさめた読売日本交響楽団とブロンスキー」

 読売日本交響楽団の演奏会に久々でかけた。僕の長年の友人が去年から事務局に入り、聞かないかと誘ってくれたのだ。始めはちょっと躊躇した。ブロンスキー?聞いた事のない指揮者。どうも地震の影響で元々の指揮者がキャンセルしたために呼んだ人らしい。マーラーの5番。疲れる。行くかどうか考えたのだ。
 しかし、その友人はつまらないものだったら呼ばないと確信していた。そういう男なのだ。それに、もう読響を何年も聞いてないじゃないかと思った。
 ちょっと、僕の読賣日本交響楽団の印象というか、いろいろ。
 前に読響をきいたのはテルミカーノフ指揮だった。ちょうど、ニューヨークで久々にニューヨークフィルをきいたのだ。ニューヨークでは10年ぶり以上できいた。というのも、ラッシュアワーコンサートというのをやってて、じゃ聞こうというわけだ。その前は、向こうに住んでいる時にバーンスタインの指揮で一度行った(マーラー3番、その時の演奏はCDになってます)。その後、旅行でニューヨークにいる時には、わざわざ貴重な滞在時間でニューヨークフィルを聞く気になれなくて、基本的には、僕は芝居をブロードウェイで見て、メトでオペラを楽しみ、コンサートに行くにしてもカーネギーホールのプレミアなコンサートをきくだけと決めているのだ。
 ちょうど旅行に行った時に、7時前から始まる1時間の短いコンサートがあった。これなら、終わってすぐ、隣のメトでやるオペラも見られるしってね。誰でも良かった。何でも良かった。アビリーフィシャーホールでニューヨークフィルを聞く。これでよかった。で、行った時に確か「春の祭典」だったと思うのだけれど、振っていたのがテルミカーノフ。知らなかった。もしかしたら10年以上前なのかなあ、いつごろだろと思って調べてみても、この10年はテルミカーノフ、ニューヨークでラッシュアワーコンサートやってないみたいだから。
 で、ま、とにかくニューヨークフィルを振るのをきいて、こりゃいい指揮者だ、見つけた!と思って。帰ってきたら日本でも読響も振るというので聞いたのだ。池袋だったと思うけど、ロシアもので。それが、それも、良くて。でも本当に10年以上前かもしれない。となると、10年くらいも読売日本交響楽団の演奏会に行ってない事になる。
 それ以前の読響の記憶といえば、日比谷公会堂で、アンタルドラティを指揮者に迎えてやったマーラーの「巨人」。新宿文化センターで、クルトマズアの指揮でも聞いている。それくらいの思い出しかない。もう25年以上前。というわけで、あんまり読売日本交響楽団と縁がない。一度、ロジェストヴィンスキーでも聞いたと思うけども。あとオペラとかでピットに入っているかもね。
 僕はオーケストラは来日ものを中心にきいてきた。とにかく世界で一番いいものをと思っていたから、日本のオケは35年くらい前からNHK交響楽団をメインにきいてきた。あとは、20世紀は小澤が振っていた新日本フィル、21世紀になってからは昨シーズンまで東京フィルとまあ、そういうのは、定期会員になって継続的に聞いてきた。そうなると、それ以外の日本のオーケストラを聞く機会が本当に少なくなるわけです。
 あと、読売日本交響楽団と言えば、30年以上前に、定期演奏会にカールベームを呼ぶと発表して話題になったことがある。みんな来ない、来るわけないと噂していたら、やっぱりこなかった。僕が中学生のころの話です。かわりにチェリビタッケを呼んだ。幻の指揮者だったから。で、すごく話題になった。もう1回きたかなチェリビタッケ、読響に。中学の時の同級生に高橋君っていって、読響でチェロ?いやコンマスかなやってた人の息子がいて、チェリビタッケ!がすごいって言ってたけど、まあオヤジが言ってたのを受け売りしたんだと思う。
 まあ僕は行ってないんであれだけど。その後、20歳過ぎて、チェリビタッケをミュンヘンフィルの来日できき、その後も香港でのコンサートも聞いたけれど。全部で4−5回くらい聞いたのかな。話がずれた。
 それから、読響ってロリンマゼールを呼んだり、ちょっと派手なことが好きという感じがしていた。

 まあ、とにかく、あんまり縁がなかった。聞きたい指揮者はいたんですよ。最近なら、アルブレヒトとか、スクロヴァチェフスキとか。昔ならオッコカムとか。テルミカーノフもその後も来ているし。でも縁がなかった。
 
 で、呼んでもらってききにいった。正直いうとモーツアルトのピアノ協奏曲きいて退屈しちゃって、帰ろうかな、と。清水和音さん、こんなものなんかって。第一バイオリンのピッチの併せ方とかもイマイチという感じでね。でも、帰るのも悪いなと思ってつまんなかったら寝ちゃおうと思って席に戻った。

 ブロンスキーって指揮者は24年ぶりに読響を振るチェコの指揮者らしいけど、知らなかった。24年前に呼ばれて、それから呼ばれなかった。そんな人、期待できません。今回は震災で指揮者がキャンセルして代役。本当に期待できませんよ。もう一度言います。帰ろうかと思ったけれども、チェコの指揮者だし、1階のどセンターの12列目くらいの素晴らしい席だったんで。

 そしたら、このマーラーはすごかった。


 マーラーの交響曲5番は、これも今から30年ほど前にに、シカゴ交響楽団とゲオルグショルティ(欧米ではジョージショルティ)で聞いたのが最初で、すごいなあって。それから、シノポリとフィルハーもニア管弦楽団が、サントリーホールのお披露目かなんかでやったと思うし、まあ何回か聞いてる訳です。
 でも、今宵のが今までで一番良かった。まさか、こんなすごい演奏をきけるなんて24時間前は想像もしていませんでした。曲が始まってすぐに、これすごい事になるかもと思って、自分の心に感じる事を書き留めたくなり、メモを書いたくらいです。

 冒頭、ブロンスキーはおじぎをして、全てをトランペットに任せました。そして、あの哀愁漂う叫びのようなトランペットのソロ。これが良かった。で、合奏から指揮棒を降り始めた。テンポが非常に遅い。え!このテンポでやるのか?テンポが遅いってのは危険なんです。粗がどんどん浮き彫りになる。そしたら、悪いどころか、今まで見えてこなかった曲の構造が見えてきて、聞こえていなかった音が聞こえてくる。 いろんなメロディをこの指揮者はきちんと歌わすんです。弦や木管楽器のセクションだけでなく、大太鼓やティンパニまで歌わす。驚きました。こんなに素朴でこんなに心にしみいる音楽がいま鳴り響いている!。
 でも、まだ思っていた。メリハリをつけるために一楽章だけ遅いのかなと。そしたら、違った。2楽章もテンポは遅く、そして、歌わせる。先ほどのモーツアルトの弦と全然違う繊細な音。ピアニシモが研ぎすまされていて美しい。しかし、音に酔っている感じでないのがいい。で、この指揮者の素晴らしいところは、きちんと中音部、低音部の弦をどーんと歌わすのです。読響の楽団員たちも、ベルリンフィルがかつてカラヤンの指揮のときにやっていたような、全身をフルに使って演奏する。疲れるぞあれ!それも、この指揮者、歌をひとつの色で染めない。藍色、緑、オレンジ、紫、いろんな色を提示させ、それが、ホールの中で混じり合う。そして、消えて行く。
 2楽章の後半にチェロだけでしばらくテーマを奏でるところがあるのですが、今までの演奏では全体の中に埋もれてしまって僕の五感にドカーンと来なかったのですが、今日は別でした。こんなテーマがあったのかと思ったほど驚いた。それも一色でないからこそ新鮮に響くのです。
 この指揮者は60歳くらい。でも無名です。でも、アイデアがあった。
3楽章になって、主席ホルン奏者を後ろに立たせた。まるで3楽章はホルン協奏曲の様にホルンの音を存分に聞かせた。そして、あのワルツのメロディを!!!
 4楽章は音楽がもっと繊細になっていきます。まるで、楽想が沸き、歌い、混ざり、崩れていくといった趣きがあります。この楽章ではそこにポイントをもってきて指揮棒をおいて、両手で繊細に見事に表現していた。
 終楽章が演奏されているとき、僕はマーラーの交響曲5番をこれほどまで素晴らしく、新鮮にきかせてくれているのが、あの読売日本交響楽団で、そして、それを指揮しているのが見知らぬチェコのブロンスキーという指揮者であることを信じられませんでした。シカゴ交響楽団の来日で何回かきいたマーラーの5番を遥かに凌駕した奇跡の名演奏でした。一生忘れないコンサートです。読響おそるべし。きっとこのコンサート、東京の音楽ファンの中で語り継がれるコンサートになったと思います。別のドヴォルザークのプログラムも聞いてみたかったです。
 

2011年5月23日 サントリーホール
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
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演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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