佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 レ・ミゼラブル 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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監督/トム・フーパー 脚本/クロード=ミシェル・シェーンベルク、ウィリアム・ニコルソンほか
撮影 ダニー・コーエン

ジャン・バルジャン…ヒュー・ジャックマン
ジャベール…ラッセル・クロウ
ファンティーヌ…アン・ハサウェイ
コゼット…アマンダ・サイフリッド
マリウス…エディ・レッドメイン
エボニーヌ…サマンサ・バークス
マダム・テナルディエ…ヘレナ・ボナム=カーター
テナルディエ…サシャ・バロン・コーエン

舞台の映画化の欠点をついに克服。
ミュージカル舞台の映画化は失敗作のオンパレードである。数年前に「オペラ座の怪人」が映画化されるときにどれだけの期待があっただろうか?マドンナをキャスティングしたニュースは「エビータ」こそ成功するミュージカル映画だと思われた。華麗なキャスティングで見事に大コケした「ナイン」を見つつ映画ではどれだけ素晴らしいかを言いたかった人は少なくないはずである。舞台でそのミュージカルを知っているものの多くは、ああ、舞台の方が何倍もいいなと思うのである。近年成功したミュージカル映画は「シカゴ」と「ヘアースプレー」くらいである。「シカゴ」は魅力的なキャスティングで成功したのであって、カメラワークで必死にオリジナル性を出そうとしている側面よりも、舞台の演出を大幅に取り入れた演出の方が効いていて映像としての挑戦はかなり控えめだ。「ヘアースプレー」は面白いが舞台をそのまま映像化しただけである。「マンマミーア」はアバの音楽とギリシアの映像に救われた。ブロードウェイで21世紀の最大のヒット昨のひとつである「プロデューサーズ」は舞台と同じ主役を得て映像化したものの舞台でもってる爆発力はついに得ることはできなかった。
 舞台のすごさである。ミュージカル映画の歴史を振り返っても映像のミュージカル映画は、1950年代のアステア、ジーンケリーといった名うての芸人の魅力を記録したものの、映像の魅力を徹底的に見せたのは「パリのアメリカ人」のラストシーンくらいである。あれは革命的な映像美であった。それ以外では、ミュージカル映画の巨匠とはいいがたい、ロバートワイズが監督した「ウエストサイド物語」「サウンドオブミュージック」の空撮など映像でしか見ることができない徹底的な開放感によって舞台を映像化する意味合いを保っているのである。「マイフェアレディ」などは、完全に舞台の演出に敗北宣言した映画であり、オードリーヘップバーンの魅力はあっても、映像リアリズムはそこにはない。他には「シェルブールの雨傘」「ジーザスクライストスーパースター」「スイートチャリティ」といった作品があるくらいだ。
 映画史において「レ・ミゼラブル」が特筆されるのは、舞台の演出を乗り越えた映像ならではの作品になっているだけでなく従来のミュージカル映画の決定的な欠点を見事に見抜いた新しい演出を用いたことにある。それは、役者に録音に服従させて演技をさせるのではなく、演技をメインにおいたことである。この全編が歌で綴られる作品において、役者は生で唄い、それを収めているのだ。オーケストラは後で演奏されたと聞いている。それによって、演技が舞台と同じ様に生になった。気持ちがきちんと入り、それがスクリーンから観客に届く様になった。声を聞かせるのではなく、演技が歌に寄って表現される様にしたのだ。この効果は絶大だ。最近はだれ気味だった観客席の緊張感は特筆もので、何回も舞台でみたこの作品を最初から最後まで飽きずにみることができた。また、映像化されることによって、舞台ではなかなか分からなかった物語の背景や人間関係もすごくくっきりすっきりした。中にはやりすぎだなとか、CG処理か!と感じさせすぎるカメラワークにはシラケるが、この作品はミュージカルの映画化の歴史の中で特筆すべき傑作となった。
2013年2月24日@渋谷東宝シネマ5
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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