佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 ハイティンク/ロンドン交響楽団来日演奏会2013 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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プログラム
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.19
         (ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス)
ブルックナー: 交響曲第9番 ニ短調

プログラム
ブリテン: オペラ「ピーター・グライムズ」から 4つの海の間奏曲
モーツァルト: ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K.453
         (ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス)
ベートーヴェン: 交響曲第7番 イ長調 op.92

巨匠の音楽についての雑感
  考えてみると偉大な指揮者の生演奏を聞き逃してきた。僕にとっての3大聞けなかったぜ指揮者は、カールベーム、ムラヴィンスキー、カールリヒターである。特に後者の二人はチケットまで購入しておきながら来日直前に病に倒れたり亡くなったりして聞けなかった。ちなみにポップスでは、ビングクロスビーがそれにあたる。
 フランクシナトラは聞こうと思えばきけたのだが、ホールというよりスタジアム系イベントか、ホテルの10万円くらいのディナーショーしかなかったから無理だった。それでも、サミーデイヴィスジュニアやトニーベネット、ライザミネリにジュリエットグレコ、イブモンタンまで聞けているのだから幸せ者といっていいのだろう。
 話をクラシックに戻す。クラシックの巨匠系指揮者は山ほどきけた。ベームを聞き逃したことによって学生時代の限られた小遣いの中で必死にチケット取りをして音楽を聴いた。むさぼり聞いた。
 ヘルベルトフォンカラヤン、ジョージショルティ、カールマリアジュリーニ、ジョルジュチェリビタッケ、クラウステンシュテット、レナードバーンスタイン、ユージンオーマンディ、アンタルドラティ、オイゲンヨッフム、カールクライバー、ラファエルクーベリック、ギュンターヴァント…。亡くなった指揮者だけでも結構行く。多くの人が20世紀初頭に生まれ戦争とカラヤン的という二つの嵐の中で活動し地歩を築いた人だった。
 むろん、フルトヴェングラーやブルーノワルター、ジョージセルといった大指揮者は聞いていないのだけれども、まあ、それでも聞けた方ではないか。僕がライブを聴き始めた頃は、クラウディオアバドや小沢征爾、ズビンメータもリッカルドムーティもまだ中堅で大物争いをしている頃だった。ユージンオーマンディの演奏会に行ったら、東京文化会館の1階を前後に分ける、あのVIP列席のど真ん中でフィラディルフィア管弦楽団のシェフになるムーディがオーマンディの演奏を聴きに来ていた。けれど、誰も気がつかなかったくらい。僕が休憩のときにサインをもらったら、やっとみんなが気がついてそのあとやっとサインの行列ができた。そんな時代である。
 そういう流れで見ていくと、もはや私にとって真の巨匠というのはほとんど現存していない。もちろんいい指揮者はいるけれども、カラヤンやクライバーという人たちとまさに同時代を生き指揮者としての仕事場を確保できてきた指揮者というのはほとんどいない。強いて言うのなら、昨年NHK交響楽団を振ったロリンマゼール、そして今回ロンドン交響楽団の来日公演の指揮をしたベルナルドハイティンクではないだろうか?ハイティンクこそ、最長老で巨匠時代の最後のマエストロである。
 メンゲンベルクやベイヌムというきっとハイティンクの親よりも上の世代の指揮者が強烈な演奏をしてきたオランダの名門コンセルトヘボウ管。その名門オオケのシェフに1960年代の初めになった。そのあと、華々しい内容の、いや、数のレコーディングがあったわけでもなく、このマエストロはどちらかというと静かに演奏をしてきた。例えば、いま売り出し中のドュダメルやティーレマンのように、聴衆はその演奏から曲の真髄というか神髄を聞かせてもらうというより、指揮者そのものがを演奏を通してアピールされるというものとは全く違う。音楽に真摯に向かう司祭のような立場で演奏をしてきたからこそ、いまになって無駄も個性も削ぎ取った高みまで上り詰めた。多くの同世代指揮者がいなくなって世界中がハイティンクにやっと気がついたのだ。
 ハイティンクではウイーンフィル、シカゴ交響楽団の来日演奏会や、リニューアルオープンした10数年前のロンドンロイヤルオペラでの「ファルスタッフ」など幾つかのピットでの指揮で聞いてきた。それらのライブでスコアが明確に聞こえてくることはあっても、個性が押し付けられることはなかった。
 もうひとつ付け加えさせてもらうと、その明確に聞こえてくる音楽は決してデジタル時代の演奏ではなく、何ともアナログな味わいのある演奏なのである。
 今回の演奏でのブルックナーの第9交響曲はそれは見事であった。ハイティンクではウィーンフィルやシカゴ響の7番交響曲のときと同じに、弦の合奏とハーモニー、休符を大切にするからこそ伝わる音楽の響きの美しさ、管楽器の輪郭を比較的くっきり出すことによって曲の醍醐味を伝えてくれたように思う。それは、ベートーヴェンの第7交響曲でも、9日の演奏会のアンコールで演奏だれたメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のスケルツォでも同じことが言えるのではないか。
 そして、ピリスを独奏者迎え披露されたモーツアルトの17番とモーツアルトのの音楽に近いベートーベンの第2協奏曲でもピリスの響きの美しさを大切にした演奏でもピリスが例えばベートヴェンの第二楽章で、スコアぎりぎりにたっぷりに、また音色もそれは、ベートーベン?というぎりぎりのところを彷徨っていても、ハイティンクがしっかり彼女を支え、曲の大枠は決して崩させなかった。
 このふたつの演奏会で私は音楽を聴く喜び、去り行く巨匠時代、それは音楽に誠実に向き合うということなのだが、その名残を感じながら私は大いに楽しんだ。2013年3月7日、9日@サントリーホール
 
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
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演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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