佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 平成中村座 法界坊 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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串田和美 演出/美術

聖天町法界坊 中村 勘三郎
道具屋甚三郎 中村 橋之助
永楽屋手代要助実は吉田松若 中村 勘九郎
花園息女野分姫 中村 七之助
仲居おかん 中村 歌女之丞
山崎屋勘十郎 笹野 高 史
番頭正八 片岡 亀 蔵
永楽屋権左衛門 坂東 彌十郎
永楽屋お組 中村 扇 雀

「圧倒的な劇空間。自らを越えていく勘三郎」
 2000年11月に平成中村座が旗揚げし「法界坊」を上演した時に観劇した。今回、平成中村座を見せてもらう機会があって、演目を見たら「法界坊」でああ、12年前弱に見た時、面白かったなあと思って観に行った。
 冒頭で法界坊がばあさん連中を連れて出歩くところまでは、ああ、こんな話だった、こんな話だったと思ってみていたのだが、話はおおよそ覚えていたけれども印象は相当変わる。会話は現代的で、七之助にわざと昔の歌舞伎のテンポで台詞をしゃべらせる以外はまるで野田秀樹の芝居をみているような現代口語のリズムで会話は進む。ギャグや人間関係のドライさの表現はまるで松尾スズキの芝居に通じるものがある。舞台転換は蜷川や超一流のアングラ演劇のケレン味たっぷりだ。遊びはあるけれども、それで劇空間が緩むのではなくクライマックスに向かって観客の心を引き込むために、扉を開けて手招きしただけだった。
 面白い。そして、12年前の印象と全く違う。12年前の「法界坊」は傑作として高く評価されたが、勘三郎は自ら作り上げたその「傑作」を堂々と乗り越えさらに上の頂きに向かっていたのだ。もちろん串田和美の力も大きいのだろうけれども。
 自らの作り上げたものを壊し、もっといいものにした。
 これは再演ではない。12年前の傑作を上回る傑作の上演だ。新作以上の新作だ。まるで次元を越えたような感覚を味わった。12年前の傑作は今回の上演を見るための巨大なプロローグのようにも思えるくらいだ。
 それを非常に分かりやすく魅せてくれたのが、二時間の本編終了後、30分の休憩時間のあとにある25分の浄瑠璃だ。本編をそのまま引きずっての作品だが、最後に舞台奥は放たれ、とんぼ達と江戸歌舞伎の醍醐味を見事に魅せてくれ、それは、スカイツリー、隅田川、そして、桜咲く日本を借景に繰り広げられ、最後に勘三郎は自らの肉体を放り投げて舞うのだ。余りにもの劇空間は中村屋がものすごい極みまで到達したことを宣言した。勘三郎はいろんなことをする。いろんな人と付き合う。しかし、それらは全てただただ歌舞伎のために行なってきたんだ、と分かって涙が止まらなかった。合点がいったぜ、中村屋!
 人間が生きるとは、生き抜くとはどれだけの覚悟と全てを掛けての姿勢が必要なのかをこの御大は魅せてくれた。圧倒してくれた。
 全ての人に見て欲しい。何があっても見て欲しい。
 今春世界で上演される舞台芸術の中でも屈指の傑作であろう。
 人を感動させるために、病み上がりのもうすぐ60になろうという男が命をかけて駆け抜ける。自らの名声なんかにこれっぽっちも頼っていない。この1ステージが全てだと言わんがばかりに。
 俺はそうやって生きてるか?少なくともたまには?って思ってしまったよ。
2012年4月3日@隅田公園内平成中村座仮設劇場
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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