佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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監督 ルパート・ワイアット
脚本 リック・ジャファ 、 アマンダ・シルヴァー
キャスト ジェームズ・フランコ フリーダ・ピント ジョン・リスゴー

「猿の惑星ファンは喜んでいるだろうか」
 期待が高すぎた。サンフランシスコを舞台に現代の医療技術の話も組み込みながら作り上げた。もちろん良く出来ているしそこそこ面白いのだが、僕のDVDコレクションにいれたいのか?と聞かれたら、まあ、そういうことだ。オリジナル版の衝撃はないし、ティムバートン版の透徹した美しさもない。CGで作られた猿たちはとても良く出来ているが、例えばロディマクドウェルが演じた猿のようなユーモアはないのだ。この映画の最大の価値はオリジナル版がきちんと再発売され注目されたことだろう。
2011年12月16日@JAL
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シューベルト Schubert

ピアノ・ソナタ ホ長調 D157 Sonate E-Dur, D157
12のドイツ舞曲 D790 Deutsche Tänze, D790
3つのピアノ曲 D459a Klavierstücke, D459a
ピアノ・ソナタ 変イ長調 D557 Sonate As-Dur, D557
即興曲集 D899 Impromptus, D899



「心に沁み入る理想的な一夜」
 ベルリンフィルやウィーンフィル、超一流オペラハウスの来日公演のような大型の来日公演で3万円とか6万円といったチケット代を払う。家でCDで何回もきいた音楽を生で追体験する。熱狂の大拍手は、この音楽をこの演奏者で生で聞いたという充足感で満たされ熱狂する。それが理想的なコンサートと思っている人が多くないか。いや私もそういうコンサートを心のどこかで求めている事がある。
 しかし、ゲルハルトオピッツのコンサートはそういうコンサートとは趣きが大きく違った。4年に渡って毎年2プログラムづつ、シューベルト作曲のピアノ曲を演奏する連続演奏会の3年目の3回目。オピッツは、協奏曲のソリストとして聞いた事はあるが、ソロコンサートは初めてだ。最後の即興曲集以外は普段聞くような曲でもない。だから、コンサートでこの誠実でドイツ音楽の王道の演奏によって聴衆は音楽と出会う。何と幸せな出会いだろう。ふたつのシューベルト初期のピアノソナタ、舞曲といった音楽を、ひとつひとつの音を異様なほど磨き挙げたり、粒を際立たせたりせずふんわりと大きく包み込むような、普通の演奏を淡々と演奏するオピッツの演奏で出会えたのだから。
 ピアニストのソロコンサートでも、ポリーニやアルゲリッチ、ボゴレリッチ、キーシンといった超人気ピアニストや、ランランを始めとする人気のアジア人ピアニストの演奏と違って、60になろうとするこのオピッツの演奏は良質な普段着の良さがある。おいしく毎日食べても飽きないし安心できる家庭料理というか。
 会場も異様な期待の中で始まるといった趣きではなく、素敵な音楽と普通に出会い心が緩んでいく幸せを感じる事のできる一夜だった。
 これってきっとヨーロッパの地方都市で開かれる音楽会の趣きじゃないのか。どうもパシフィックコンサートマネジメントの演奏会はこのような演奏会が多い。今回も5000円という手頃な価格ということも関係しているのかな。ポリーニのようにソロピアニストの演奏会に25000円という価格は確かに異常だものな。
 無料で配られる簡単なプログラムの最後に来年と再来年のこのコンサートの日程が書いてあった。僕は手帳に書き込んだ。
2011年12月13日 東京オペラシティコンサートホール
小野真一 作/演出/振付
出演 中村誠治郎 市瀬秀和 石上慧


「見事な殺陣に驚きまくり」
 中村誠二郎という人気俳優をこれだけきちんと真ん中にすえ、その魅力を見せる作演出力に見事な殺陣が見事だった。しかし、秀吉役をやった市瀬さんは華のある存在感で見事な演技と殺陣を披露していた。笑いの役割もにないこの舞台のベースレベルを見事にあげていた。僕はまったく顔もしらなかったので、市瀬さんは織田信長をやってるものだと思ってたら秀吉だったんだ。いや見事です。石上慧の役柄は大きくはないものの見事にその役割を担っていた。笑いもきちんと取り、大きな舞台でまた確実な成長をしてくれた。次に一緒に芝居をするのが楽しみだ。2011年12月13日@前進座劇場
モラル・作/演出
鈴木アメリ、堀雄貴、萩原達郎 ほか /出演



「若いからこそできるこの豪華なバカバカしさ」
 王子小劇場で公演した前回の全裸になる作品も好きだったが、センスのある格子縞のパンツに身を包んで演じられる今回の性をまつわる少女の冒険物語=思春期のラブストーリーも好きだなあ。恋愛にある理不尽さもきちんと残っていたり、少女が思う自分勝手な妄想もきちんとあるが、全部乾いた視線で距離感をもってモラルの視点で構成されている。言葉一つ一つにイチイチ小道具が出て来たり、衣装が変わったり、無駄で疲れる大技の演技を見せたり。若いからこそできるハイテンション、バカバカしさがここにはある。観ているだけで元気になれる。心が充足されていく、そんな芝居がここにはある。異様にキレのある俳優たちは誰もが魅力的だし、秋山光洋の舞台美術はセンスがいいし、伊藤孝を照明に迎えるなど、いやホントにスゴい体制で上演しているんだなあ。裏は小道具や衣装で溢れているんだろうなあとも思う。ホントに観るものを幸せにさせてくれる芝居だ。
早稲田大学劇研アトリエ 2011年12月12日(通し稽古で拝見)


Aプロ
マーラー / 交響曲 第8番 変ホ長調「一千人の交響曲」
指揮|シャルル・デュトワ
ソプラノ|エリンウォール(クリスティーネ・ブリューワー代役)
ソプラノ|中嶋彰子(メラニー・ディーナー代役)
ソプラノ|天羽明惠
アルト|イヴォンヌ・ナエフ
アルト|スザンネ・シェーファー
テノール|ジョンヴィラーズ(ポール・グローヴズ代役)
バリトン|青山 貴
バス|ジョナサン・レマル
合唱|東京混声合唱団
児童合唱|NHK東京児童合唱団
ゲストコンサートマスター ダンカンリデル
2011年12月3日@NHKホール
「超満員の観客は喝采した」
 NHKホールの定期演奏会が売り切れることはあまりない。しかし、1ヶ月ほど前には7000枚を越えるチケットは完売しネットではプレミアムチケットとして売買されていた。1500円の自由席が9000円といった具合。僕は2階席のB席できいた。NHKホールの巨大なステージに溢れんばかりの演奏陣。合唱だけで400人くらいはいたんじゃないかなあ。それn140人近いオケのメンバーで1000人とは言わなくても500人を越える陣容だったわけだ。コントラバスだけで12人。ハープが4台。驚くよ。第一部から先ずは合唱の迫力に寄った。代役が多いにも関わらずソリストたちは素晴らしかった。オケはゲストオーケストラマスターにデュトワが芸術監督を努めるロイヤルフィルのコンサートマスターを招いての演奏。きっとこの陣容だから外部のオーケストラからの助っ人も多かったんではないか。オケの演奏に荒さを感じたのは気にし過ぎかな?僕に取ってはもう10年以上前に都響/インバル@新宿文化センター以来の生演奏だ。多くは求めまい。巨大なシンフォニーを聴く楽しみに酔った。
Cプロ

ブラームス / ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
バルトーク / 歌劇「青ひげ公の城」作品11(演奏会形式)
指揮|シャルル・デュトワ
ヴァイオリン|リサ・バティアシュヴィリ
青ひげ|バリント・ザボ
ユディット|アンドレア・メラース
「どちらも見事なメイン料理でおなかいっぱい。」
 ギトリス、川畠の色も艶も技術もないある意味貴重なバイオリンコンチェルトを聞いたばかりだった事もあったからかもしれないが、バティアシュヴィリの高い技術で艶のある音色、見事なフレージング、重厚というよりはカラフルなブラームスの協奏曲を楽しんだ。3楽章の開放感たるやスゴかったなあ。オーケストラも木管楽器、弦のセクションのアンサンブルも音色も美しく、全体に見事な構成で、ブラボーであった。
 「青ひげ公の城」はブタペストのオペラハウスで実演を観たのが最初だったかな。メトロポリタンオペラハウスでジェシーノーマンの歌で聞いたけれども作品の面白さが伝わったのかというと、良くわかんなかった頃だった。先年のパリオペラ座の来日公演でもみた。そう何度か実演も観たり聞いたりしているのだが、今回ほど胸に刺さった公演はなかった。オーケストラは緻密で重くなりすぎずその色彩美から舞台を心の中に浮かび上がらせる。ユディットのメラースの声は強く、女の芯を見事に演じ唄いきって大満足。人間の業を一枚一枚、剥いでいく見事なドラマがそこに浮かび上がった。ブラボー

2011年12月10日@NHKホール

Bプロ
ヒンデミット / ウェーバーの主題による交響的変容
プロコフィエフ / ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26
バルトーク / オーケストラのための協奏曲
指揮|シャルル・デュトワ
ピアノ|ニコライ・ルガンスキー
「いいのか、ホントにいいのか」
 僕が若いときのN響から今日のようなサウンドを期待できただろうか。ありえない。今宵のオケコンを聞いた時、メータ/イスラエルフィルや小澤/ボストン響できいたのと何の遜色もない見事な演奏に、こんな素晴らしい演奏を日常にきけることに改めて愕然とした。フルートのトランペットのクラリネットの、バルトークの描いたファンタジーをなんて美しく奏でるんだろう!音色は変幻自在に変化していき、この万華鏡のような曲をさらっと演奏してみせた。弦のピアニシモの美しいこと。
 プロコフィエフのピアノ協奏曲。ロシア生まれ、あのタチアナニコライエワ(一度だけバッハを聞いた)の弟子のテクニック抜群のルガンスキーとともにプロコフィエフの世界を作り上げる実力。10年ほど前までN響は海外公演をすると技術はあるけど…と書かれていたが、このドイツものも、フランスものも、ロシアものも、縦横無尽に変化し演奏できる演奏技術はもはや世界のトップクラスのオケと肩を並べるところにきているのだ。
 もはやもっといい指揮者を呼ばねばならぬ。もっと世界のトップクラスの指揮者が指揮をしていいオケになったのだと、喜びを噛み締めたコンサートだった。
12月15日 サントリーホール
原作:樋口一葉、脚色:久保田万太郎、
現代語訳:島田雅彦、補綴・演出:成瀬芳一、
言葉監修:渡邉治美

出演:水谷八重子、青柳喜伊子、勝見史郎、
矢野淳子、川崎さおり、井上恭太、松村沙瑛子、
木内宣輝、田居美由姫、田居大宗

この公演は水谷八重子の自主公演で、水谷八重子が樋口一葉として舞台で朗読をし、新派俳優がそれぞれの役で演じるという新しい形の朗読劇です。

「豊かに広がった劇空間
/多くの人に見てもらいたい新派入門に最適の作品」
 明治の金持ちとそこに奉公する貧乏人の、大晦日の悲喜こもごもを綴った作品。名も無く貧しく美しくとせず、善人に宿る罪の火種などもきちんと描いた樋口一葉の現代にも通じる物語を70分でこれだけ堪能させてくれる舞台がどこにあるだろうか?きっとこの作品を見ると、人に寛容になれるし、もっと多くの人を愛する事ができるようになるだろう。年の瀬に一年の生の感謝を思いながら見るのに相応しい作品だ。12月は忙しいから上演時間70分というのも嬉しいのでは?
 新派の伝統を次代に受け継ぎ、ベテランにも普段はあまりやらないような配役をあてがい、劇団新派自体の筋力アップにもつながっている。シンプルな美術であるが必要なものはきちんとあり、衣装や床山まできちんと行い。文語調の文章の難解な部分は現代語役もつけての見事な構成も素晴らしい。麻布区民センターで9年めとのことだが、来年以降も続ける価値のある作品だし、たった4000円で見せてくれるので、新派を観た事の無い人には、時間もお財布もちょうど入門向きにも最適ではないか?また小劇場の俳優さんなんかにも是非みてもらいたい。
 役者は、水谷八重子がカーテンコールで新派のホープと語った井上恭太から語りたい。現代的なのに古風な部分も十分有る理想的な二枚目だし、芝居も伝統だけでなく現代の口語芝居なども含めいまの流行も意識していてうまい。唯一の欠点は声が抜けていかない事か。これからますます大役も多くなるだろうから必須の課題だと思う。
 みねを演じた松村沙瑛子は、入門から間もないというが、この役にぴったりの風貌で時にぎこちないところもあったけれど、それも含めて初々しく良かった。しんを演じた矢野淳子やあやを演じた青柳喜伊子などはベテランの余裕も感じられて芝居を支えていた。
 水谷さんは例によってガラガラの声なんだけれど、可愛くて。狂言廻りにはぴったりだった。もう少し台本から目を離してくれるともっと嬉しいな。だって眼力のある人だから。
 来年もきっと上演があるだろうから、ぜひ行かれる事をお薦めする。
2011年12月9日@麻布区民センター
文学座アトリエでのテネシーウィリアムズ1幕もの4作品の上演。

作 テネシーウィリアムズ
演出 靍田俊哉
「財産没収」
「バーサよりよろしく」
「ロンググッドバイ」
「話してくれ、雨のように…」
出演 藤堂陽子 松岡依都美 佐川和正 亀田佳明 細貝光司 ほか


「文学座+T.ウィリアムズ…ああ、あまりにも高いハードル」
 文学座がテネシーウィリアムズを上演するということは見る側には大きな期待をさせ大変高いハードルとなる。何しろあの杉村春子が代表作のひとつに磨き上げた「欲望という名の電車」。杉村春子が亡くなって相当経つまで大女優は誰も手をつけなかったほどに仕上がっていたのだ。テネシーウィリアムズは文学座のお家芸といいたいくらい。
 今回の作品は短編4本をオムニバスのようにつなげた。「ロンググッドバイ」以外は名前も知らない作品だったが、テネシーウィリアムズの匂いプンプンの作品群であった。
 演出の靍田俊哉氏は1961年生まれだから、そうした杉村春子の名演なども舞台で十分という程、観ているはずである。ますます期待が高まる。しかし、僕のハードルがあまりにも高かったからか、細かいところがいちいち気になり、高い期待通りとまではいかない上演だった。
 1作目の「財産没収」には、ミニブランチのような女が出てくる。狂乱してしまうところまでは行っているのだが、そこに踏みとどまれない人間の業のようなものは出ていない。自らの世界にとどまって、相手役の男と絡まず一人で世界を作り上げている。出てくる地名など固有名詞の発するイメージもつかんでいないような気がした。大変重要な役柄だけに残念だ。相手役の亀田佳明は文学座の若手のトップランナーのひとりだ。役になりきり化ける事のできる俳優だ。しかし、相手役がああいう演技で来られちゃ、どうしようもない。何となく焦点のぼやけた芝居になってしまった。旨いんだけどね。深みというところまではいかない。
 2作目「話してくれ、雨のように…」の細貝光司はきちんと役柄をとらえ見事に演じていた。ベットに横たわる姿や立ち姿も美しく華も匂いもある役者だ。しかし、声が良すぎた。長台詞のところなど、台詞に寄りかかり、肉体と声のバランスがやや崩れ声が前面に出て来た印象。残念だ。松岡は前々から旨い。太地喜和子の持っていた女の可愛さを持つ女優になるかもしれない期待の☆だ。あまり濃厚に演じるよりもフラットなところに座標軸を取った。お見事。
 3作目の「バーサよりよろしく」は小野洋子の代役でベテランの玉井碧が藤堂陽子の相手役を演じたのだが、藤堂が入念に作り上げた底辺を生きる女を見事に演じていたのに対し、肉体で演じるところと長い台詞を語るところが旨くつながっていない様な気がした。素晴らしい台詞が出てくると、このようなベテランでも手こずるのかなあと。ここでも、ちょこっと出てくる松岡の立ち姿なんか非常に印象的。
 最後の「ロンググッドバイ」はニューヨークが舞台なのかな。面白い。亀田が1作目と違い演技の立ち位置もしっかりしていて、あまり開けっぴろげな演技をしない若いのに重厚な佐川と見事な掛け合いが出来上がっていて楽しめた。
 引越屋さんもいいアンサンブルを演じてた。 
 僕だけが不満なのかとも思ったが、午後のマチネだったこともあるからか、僕の廻りでは多くの人が舟をこいでいた。それもあっという間に。何艘もこぎ始めて驚いた。
2011年12月7日@文学座アトリエ
キエフ国立フィルハーモニー管弦楽団
ニコライ・ジャジューラ

チャイコフスキー作曲/バイオリン協奏曲(イヴリーギトリス独奏)
メンデルスゾーン作曲/バイオリン協奏曲(川畠 成道独奏)
ドヴォルザーク作曲/交響曲第9番「新世界より」


「砕けていた一流美術品」

 初めて聞くオーケストラは幾つに成ってもワクワクする。特にキエフ、ウクライナという旧ソビエト圏といえどもなかなか聴く機会のないオケで楽しみだった。そして、80才を越え演奏活動を続ける巨匠ギトリス。聞いたことがない。アイザックスターンやヘンリックシェリングといった巨匠に通じるものがあるに違いない。若いバイオリニストと違うものを聞かせてくれるだろうと楽しみにでかけた。
 ギトリスは腰掛けての演奏。バイオリンも支えられないらしくバイオリンを支えるものも登場。それは別にいい。しかし、演奏はミスがあるといったレベルのものではなく酷かった。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲を聴く楽しみが全くなかった。醜態である。お金を取って演奏するレベルではない。もちろん、時おり聞こえるフレーズにはかつての栄光の日に聞かせたであろう。ユダヤ系のバイオリニストの持つどでかいスケールも散見されたけれども。吉田秀和なら、これは砕け散った美術品とでもいうんだろう。破片からかつての輝ける頃の演奏を想像しなくてはならなかった。しかし、それにしても、余りにも材料が乏しかった。時おり聞こえるユダヤの民族音楽のメロディ特有の弾き方も誇張し過ぎで気になった。自ら今日はダメだったと、アンコールで浜辺の歌を弾いた。早く引退しなさい。
 メンデルスゾーンを弾いた川畠は視覚障害者である。しかし、アーチストとして聞いてみると今の若い世代のバイオリニストとしては、相当魅力に欠ける演奏しかできていない。線は細くフレージングも単調だ。このバイオリニストをつぶさないためにも今のうちに君の演奏は良くないよと言ってあげないといけないはず。
 特にギトリスの時にはギトリスの揺れるテンポにつきあわされたこの一流とは言えないオケはむしろ好演したと言わねばならないかもしれない。気の毒で。ギトリスの伴奏の際、必死に合わせるという演奏で時おりオケだけになると水を得た魚のようにいいハーモニーも聞かせてくれた。最後に新世界交響曲。20時45分を廻って始まった新世界交響曲は、こちらも集中力が無かったこともあるが、何かメリハリだけで乗り切ろうという演奏でせっかくの日本ーウクライナ国交樹立20周年の演奏会なのに残念な結果となった。こんな演奏は日本のアマチュアオケでも人前にさらさない。2011年12月2日@東京文化会館
シューマン:アラベスク op.18
 SCHUMANN : Arabesque op.18

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
 LISZT : Sonate en si mineur

ドビュッシー:忘れられた映像
 DEBUSSY : Images oubliées
   ゆるやかに(メランコリックにやわらかく) Lent (Mélancholique et doux)
   サラバンドの動きで Dans le mouvement d'une “Sarabande” 
   きわめて速く Très vite

ドビュッシー:映像 第1集
 DEBUSSY : Images première série
   水の反映 Reflets dans l’eau
   ラモーを讃えて Hommages à Rameau
   運動 Mouvement

ドビュッシー:映像 第2集
 DEBUSSY : Images deuxième série
   葉ずえを渡る鐘の音 Cloches à travers les feuilles
   そして月は廃寺に落ちる Et la lune descend sur le temple qui fut
   金色の魚 Poissons d’or


 「僕はとても好きなピアニストに出会った」
 ベロフは前に聞いたことがあったかなあ。既に名匠なのに、聞いた覚えがない。あったとしても協奏曲だろうと思う。もしかすると、20年以上前にロンドンで聞いたかもしれない。それほどなので、初めて聞いたのも同じ。体調は悪かったがチケット代が事実上S席2000円とディスカウントされていてこれは聞きにいけとの命だと思って聞きにいった。
 ドビッシーの演奏は、僕はやはりミケランジェリのCDと生演奏のことを意識せずにはいられない。ミケランジェリとポリーニ。今日のベロフは二人と違うものだった。ポリーニやボゴレリッチなどで激しいリストも聞いたけれど、今日のベロフはそれも違った。何だろう。見事に掘られたルネサンスの彫刻のようなポリーニやミケランジェリの演奏や、独自の世界に引き寄せるボゴレリッチの演奏とも違ってベロフのピアノはもっと ふわっとしている。
 初めて聞くのにこんなこと言うのはいけないのかもしれないが、自分の感情や感性に従っているような気がしたのだ。構築性といったことよりもその時々の瞬間を信じるというか。ちょっとジャズな感じというのかなあ。これらの曲をきちんと理解しているわけではないのだけれど、生まれてくる感性に従ってみたらこうなったという。そんな気がしたのだ。それはシューマンにも感じられた。

2011年11月26日@すみだトリフォニーホール
千葉雅子/脚本 G2/演出
出演 松尾貴史 柳家花緑 坂東巳之助 松永玲子 植本潤 ほか
 


「圧倒的名人芸の披露」
シンプルでモダンで変幻自在な美術のセンスの良さ。衣装の面白さ。空間を一瞬にして江戸時代が今の時代に続いていたらという空気に変えてしまう役者陣の力量。それは脱線シーンでも遺憾なく発揮される。花緑さんはもっとお芝居やって欲しいなあ。落語より好きだな。松尾貴史さんは無理せず芸をふわっと披露。これでもか!のビッグビジネスシリーズが懐かしいけど。50才を越えてますますスゴい。ちょっと無理して観に行ってよかった。

2011年11月20日マチネ@世田谷パブリックシアター
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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