佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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作/THERESA REBECK 演出/SAM GOLD
出演/ JEFF GOLDBLUM, JUSTIN LONG,
     ZOE LISTER-JONES, JERRY O'CONNELL and HETTIENNE PARK


「映画と舞台の演技の違いを感じた次第」
 ブロードウェイでは珍しい1幕もの95分のブラックコメディ。ライターとして食っていけるようになりたい若手4人が数千ドルという高額の授業料を払って文壇の権威に特別講義を受ける。そのやり取りを楽しむというもの。そのやり取りから人生が透けて見えてくるから芝居として非常に質が高い。
 ジェフゴールドブラムは例によって彼独特の演技で勝負する。今回見ていて思ったのは、間合いの取り方などやはり高い技術の裏付けが彼の個性を引き立たせる背景にあるのだと思った。「ダイハード4」で主演のひとりだったジャスティンロングはやはり若手の中ではダントツのうまさだ。演技がしなやかなのだ。ライブ感も多くあって映像が活動の主体であることを強く意識した。ほかの3人もうまいのだが、やはりこの二人に目が言ってしまう。4月3日からキャストが相当入れ替わってゴールドブラムとジャスティンロングというキャストになったために見たのだが、面白かった。ちょっと英語が難しくてわからないところも多かったけれども。もっとお客が入っていいのに、隣で「セールスマンの死」を上演しているのが相当損している理由だと思う。


2012年4月11日@ブロードウェイ ゴールドマン劇場
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DEATH OF A SALESMAN

Written by Arthur Miller
Director Mike Nichols


Willy / Philip Seymour Hoffman
Biff/ Andrew Garfield
Linda/Linda Emond

Charley Bill Camp
Happy Finn Wittrock
Stanley Glenn Fleshler


Uncle Ben John Glover
Miss Forsythe Stephanie Janssen
Bernard Fran Kranz

「マスターピースの上演史に刻まれる名演」
 今回のアメリカ行の目的のひとつが、この上演を見ることだ。日本で予習をし万全の態勢で出かけたこともあり、この稀にみる名演を堪能できた。フィリップシーモアホフマンは、この10年弱の間にハリウッドのトップクラスの俳優として君臨する名優となった。それはほぼデビュー作でもあった「トルーマンカポーティ」1作でアカデミー賞主演男優賞を奪取したことでも明らかだ。それも誰もがその受賞を疑わない圧倒的な名演であった。
 ホフマンは若いころのアルパチーノやデニーロのように、役にのめりこむタイプの役者である。舞台上の彼は演技をしているというよりも、ただそこに存在している。台詞のうまいこと、表情の豊かなこと、肉体の存在の見事なこと。ただ椅子に座っている。ただ歩いている。ただ人を見る。そのひとつひとつが、資本主義国アメリカでアメリカンドリームを実現できなかった男の哀しみを体現しているのだ。
 僕はブロードウェイとロンドンで本当に多くの名優たちを生で見てきた。ダスティンホフマン、ケビンスペイシー、アンソニーホプキンス、デンゼルワシントン、ジュリールイス、ケヴィンクライン、ローワンアトキンソン、3回みたマギースミス、バネッサレッドグレープ、キャサリンゼタジョーンズ、ジェシカラング、マイケルガンボン、マーティンショート、ジョシュハートネット、バーナデット・ピータース、イーサンホーク、ジェフゴールドマン、ネイサンレイン、アルバートフィニー、ジョンリスゴー、グレングローズ、クリスチャンスレーター、ダニエルラドクリフ、マドンナのストレートプレイを見てるし、そして、ジャックレモン。今回も「エビータ」のリッキーマーティンに始まって、前に「ピローマン」を演じたのも観劇した2回目のジェフゴールドマン、若手の演技派ジャスティンラング、そして、キャンディスバーゲン、アンジェラランズベリー、ジェームズアールジョーンズ、ジョンラケット、5回目のマシューブロデリックと山ほどハリウッド映画のスター達を生で見ているのであるが、本当にうまい。しかし、今日のホフマンの演技はそんな名優たちの中でも特筆だ。
 普通スターというのは持って生まれたオーラ、キャラクターから来るオーラというものがある。それはそれで素晴らしい。しかし、このフィリップシーモアホフマンという俳優は普段はきっと普通のアメリカ人のおじさんとしてカメレオンのように大して目立たない。しかし、一度演技を始めるとその演技自体がオーラを放ち魅力となるのだ。キャラではなく演技そのものが輝いている。それも押しつけがましいのではなく、普通にただ存在しているだけなのに。そういう意味で、前述のスター達とはまた違った次元にいる俳優なのだと思った。
 日本にいまこれほど素晴らしい俳優がいるだろうか?男優で?
 共演したリンダエモンド、アンドリューガーフィールドも丁寧な役作りでものすごくうまいのだが、ホフマンの前ではかわいそうなくらい目立たない。演技をしているという感じから抜け切れていないからだ。
 そして、もうひとつ付け加えたいことがある。ブロードウェイは確かに悪い意味での資本主義に染まっている。特に9/11以降はチケット代が本当に高くなった。昔はなかったプレミアムシートで、このセールスマンの死も最高席は400ドルである。通常席のS席(1階席と2階席の2/3)は140ドルくらい。最後列2列くらいが水曜のマチネだけ60ドルといった具合。僕がここで芝居を見始めたころは最高席でも60ドルくらいで、ミュージカルでなければ50ドル以下だった。本当に高くなったものだなあと思う。
 例えば、この「セールスマンの死」は16週間の限定である。シーモアホフマンが演技をしているから見るのであって、ミュージカルのようにでは次のキャストというわけにはいかない。いろんな問題がある。今日見た劇場はミュージカルでない良心的な名作、意欲作を上演することが多いエセルバリモア劇場。5~7年くらい前に、ここで見た「ガラスの動物園」も素晴らしかった。ジェシカラングとクリスチャンスレーターをデビッドルヴォーが演出していた。
 こういった素晴らしい演技を経済的に余裕がない若い演劇人、若い人たちに見てもらう方法はないのだろうか?

公演後歩いて帰るホフマン(笑)

2012年4月11日@ブロードウェイ エセルバリモア劇場
ブルックリン美術館 キースへリング Keith Haring1978-1982 展




「キースへリングの初期を概観」
 キースへリングの版画を一枚持っている。89年の作品で彼は90年2月に亡くなっているから最晩年の作品のひとつだ。画商から買ってくれと言われて他の作品と比較する事もなく買ってしまった。直筆サインを見てにやにやしてる。
 彼は日本でも原宿の店を全て彼の描いたもので覆ってしまうというほど、注目されたアーチストであった。ちょうどバブルの頃に。あの作品はどうしたんだろう?横浜の東横線のガード下にはキースへリングに影響されたと思われる美しい落書きで覆われ、歩きながら鑑賞したものである。
 このブルックリン美術館の展覧会はキースへリングがまだ広く世の中に認められる前の、いわゆる初期の作品を概観するものセックスに関する表現を露に執拗にしていたりして、いろんなことがむき出しで面白い。伝説として聞いていた地下鉄の壁にした落書き?アート、街の壁にチョークで作品を残していったことは知っていてもどんなものなのかこの目で見る事ができた。巨大な壁画のようなものも見た事がなかった。アーチストは一度マーケット的な価値を持ち始めると世界がガラガラと変わる。キースへリングもそうだ。
 金の稼げるアーチストとして大成する前の彼を概観してみせる希有な機会だった。ただ、それらがどう有機的に結びつき発展していたのか、影響し合っていたのかは、展覧作品を見るだけでは分かりにくい。そして、初期の作品だとしても、それが後期の、彼の人生の最後の8年の作品にどう受け継がれていったのかを示す資料の展示があると良かったのにと思った。
 しかし、こうした展覧会を見た後には、ニューヨークの街にある落書きやオブジェといったものに次世代のキースがいるのではないかと思ってマジマジと観るようになるだろう。時には心をとらえるものもあるはずだ。街を新たな視点で観られるようになれる通過儀礼をしたい人向きかも?
 そして次のスターンファミリーのようになる人が出てきてくれればいいのに。
 つまり作品を集めてくれたのはいいけれど、集めただけに終わってしまったように思える。ブルックリン美術館は今回初めて出かけたのだけれども、マンハッタンから至近なのに、来場者は少なく、アジアや中東の美術のコレクションも見事。また、19世紀から20世紀にかけての印象派などの作品もあって(特にセザンヌが豊富)それも人のほとんどいないところでじっくり観られるのは良かった。
 

James Franco on WhoSay2012年4月11日@ブルックリン美術館
脚本/ゴア・デビル 演出/マイケルウィルソン
出演 ジェームズアールジョーンズ(「博士の異常な愛情」「レッドオクトーバーを追え」「パトリオットゲーム」「フィールドオブドリームス」「ルーツ」ダースベイダーの声)、キャンディスバーゲン(「砲艦サンパブロ」「風とライオン」「結婚ゲーム」)、ジョンラクロット(「JFK」「リッチーリッチー」)、ケリーバトラー(「ツインズ」「アナザーワールド」「30ロック」)エリックマコーマック、アンジェラランズベリー(「ナイル殺人事件」「ジェシカおばさんの事件簿」) ほか トニー賞、オリビエ賞、アカデミー賞の常連ばかり!

権力、野心、政治上の秘密、過酷な大統領選の舞台劇。ゴア・ビダールのThe Best Man(ザ・ベストマン)の舞台設定は大統領選挙の予備戦中の党大会で、二人の候補者が指名獲得争いに凌ぎを削っている。泥仕合に騙し合い、三重の言い抜け、と
「名優、スターのきらびやかな競演を満喫」
 とても面白かった。同時に日本での上演は考えられないなと思った。きらびやかなスターたちが、きちんと政治家に見える。政治家の台詞を話すのだ。日本では会社員、経営者、政治家、弁護士、医者に見える俳優がどれほど少ないか。だから、この俳優でやるのかと思うキャスティングになる。例えば、今度やる「エンロン」。僕なんか一番見たい種類の芝居なのだが、また、あの市村節で芝居をやられるのかと思うとわざわざ金を払ってまで行きたくなくなってしまうのだ。怪人やエンジニアは良いのだが、政治家、医師、経営者、弁護士、ジャーナリストとかを、いつものあのテンションで市村さんのセリフでやられたらどれもこれもぶち壊しだと思うのだ。
 この作品は1960年の民主党の指名争いの党大会の話だ。実際に指名されるケネディは出てこない。3人の候補が最後のしのぎを削っているという設定だ。
 壮年で病気を隠し、妻との冷え切った関係の候補。若く野心があるが軍隊時代にホモ疑惑を持つ若い候補は、壮年候補の秘密を握って今にもマスコミに公表して逆転してやろうと必死だ。一方、壮年候補も若手候補のゲイ疑惑の秘密を握る。
 大統領は壮年候補を支持。しかし、末期癌で痛み止めを飲みながら選挙戦の行方に絡んでくる。最後に二人の候補は取引をしようとするが…。
 といったストーリーである。 ブロードウェイで芝居を見ると、どうしてもミュージカルの比重が多くなる。英語の台詞の理解度に不安があるので、音楽、歌、ダンスでも楽しめる作品に手を出しがちだ。しかし、今回の芝居はあらすじも知らなかったし、何も知らずにとにかくスター総出演というのに惹かれてみたのだが、これだけ英語の台詞がきちんと分かる芝居も珍しいなあと思った。
 この芝居はブロードウェイものでは珍しく3幕仕立て。そこで、どうしてだろうと思いながら3幕を見ていたら、なるほどと思った。わざとらしくなく、微妙に重要なキーワードをきちんと際立たせるように自然に台詞を話しているのである。特にアクセントをつけたり、間をとったりするのではないのであるが、言葉を大切にしている。伝えている。これでキーワードを聞き逃さずに聞けるから話がどんどん分かるのである。名優の技術ってこういうところに出るのだなと思った。そういえば、日本でも昔の新劇の名優はそうだったし、今でも現代口語ではない歌舞伎を見ても何を言ってるのかがわかるのは、歌舞伎の俳優はそういう技術を伝承しているからだ。
 大統領選挙戦のいま、大変面白い芝居を見れて大満足なのであった。



2012年4月10日@ブロードウェイ ジェラルドシェーンフェルド劇場 Gerald Schoenfeld Theatre
ジョージガ−シュイン音楽
マシューブロデリック キャサリンオハラ 主演
Estelle Parsons Judy Kaye Michel McGrath Jennifer L Thompson Robyn Hurder



「名うてのコメディアンの競演!」 新作ではあるが話はあまりにも古い。骨董品。「Me&Mygirl」や「Anything goes」と同じ成功を狙うプロダクションだ。
 舞台は禁酒法時代の1927年のロングアイランド。金持ちのバカ息子のたわいのない恋と結婚の物語である。ガーシュインの名曲をたっぷり使って単純なおばかな設定の中で今ではありえない語が繰り広げられる。ストーリーに突っ込みを入れてはならない。この舞台を見ると決めたとたんから、ストーリーはどうでもよくなる。そこから解き放たれて、そのたわいのない話をものすごく腕のある役者陣の名演を楽しめばいいのだ。驚いたことに彼らが思った以上に遊びまくる。まだ幕が開いたばかりだろうから、毎日が発見なのだろう。脚本のジョーディピエトロはメンフィスの脚本で2010年にトニー賞をとったばかりの勢いの人である。そして、演出のアキャサリーンマーシャルは振付も兼ねている。こちらは2011年にエニシングゴーズの再演でトニー賞。まあ名うての喜劇役者にゆだねる部分も多いだろう。そんな作品である。
 舞台上で遊びながら新しい発見をしながら芝居を完成の極みに作り上げているのだ。
 マシューブロデリックは共演者の演技を本当に楽しそうに見ていた。この人の力の抜き方は大したものだ。上に書いた役者は僕は知らない人も、見ているけれども顔と名前が一致しない人もいるが、調べてみるとものすごい人ばかりだ。そして、うまい。みんな自分の見せ場が分かっていて、お客さんを楽しませることを喜んでいる。観客の年齢層は高めであるが、これこそ日本で上演するのにふさわしい作品かもしれないと思った。 
 しかし、この作品のブロードウェイでの上演はトニー賞でもとらない限り、1年も続かないだろう。というのも、この舞台、話で見せるものではなく、これだけの超一流の喜劇人の芸を見せるものだからだ。そして彼らは同じ舞台を1年以上は続けないと思うからだ。芸を見るものだから、この面子がいなければ成立しない。
 僕はマシューブロデリックをブロードウェイで見るのは5回目。1995年の「努力しないで出世する方法」シリアスな「夜は確実にやってくる」ネイサンレインと組んだ傑作2本「プロデューサーズ」と名作「おかしな二人」に続くもの。ブロデリックも年齢を感じさせ、童顔で永遠の青年役という設定はそろそろきかなくなってきている。今後どう展開するのだろう?
 ブロードウェイで作品の良しあしよりも、名うての喜劇役者の名人芸を見たい人にオススメ。



2012年4月9日@ブロードウェイ インペリアル劇場
How to succeed in Business without really trying
演出・振付/ロブ アシュフォード
出演/ ニックジョナス ボーブリッジス マイケルウリエ ステファニーローセンベルグ




「努力の末に極みに至った『努力しないで出世する方法』」
 努力をしないで出世する方法を初めてみたのは小学生のころだった。淀川長治さんがホストを務めていた日曜洋画劇場でズタズタにカットされた短縮版を見たのだった。なんだこれ、面白いぞ!それが1967年版の映画版「HOWTOSUCCEED」だった。これは1952年の芝居を1961年にミュージカルにし、1967年に映画版となって長く埋もれてきた作品である。
 わかりやすくいうと、クレイジーキャッツ・植木等の原型がここにあるのだ。C調で人間関係をうまく泳いで出世するというお気楽ストーリーの原型だ。まさに1960年代だ!
  ビデオもレーザーディスクでもDVDでも日本では再発されない。それが1995年にブロードウェイでマシューブロデリック(ハリウッド映画で山ほど出ている天才俳優)で再演された。それを見たのだ。どうも、それにはブレイク前のサラジェシカパーカーも出ていたらしい。
 
音楽がいい。ストーリーが面白い。こんなことありえないようなと思わずに現代のおとぎ話と思ってみればこんなに楽しい気持ちになれる作品はないだろう。マシューの演技も見事でこの作品でマシューはトニー賞の主演男優賞を受賞するのだ。
 あまりにも強烈でもう15年もたってしまったのかと思ったけれども2011年3月27日にその作品がさらにブラッシュアップ。1995年のプロダクションに磨きをかけ、使われなかった楽曲も足して、ハリーポッターのダニエルラドクリフで再演。
 正直、マシュー版にはかなうまいと思って見ようと思っていなかったのだが、今回のニューヨーク滞在は長くなんと16本の舞台を見られるので、見てみた。
 俳優のお目当てはタフガイの役柄を映画でやってきたボーブリッジスであった。

 驚いた。素晴らしい。マシュー版をも上回る大成功のプロダクションだ。
 演出も振り付けも1995年版とベースは同じである。しかし、細かいところをものすごく工夫している。一番の工夫は悪役バドプランプ役を単なるライバルではなく、もっと強くしコメディ要素を足したことである。1995年版ではマシューブロデリックひとり舞台の感じがあったが、今回は総合的なアンサンブルで成功しているのが分かる。
 驚いたのは主役のニックジョナス(Nick Jonas)である。全く知らない俳優だが、歌、踊り、演技がうまい。何よりもコメディのセンスが抜群だ。調べてみると何と19歳。信じられない。「キャンプロック2」というディズニー映画の主役をやってるらしいので見てみようと思う。「ヘアースプレー」などにも出ているが、なんと「レミゼ」のガブロッシュ、「美女と野獣」のチップを演じているというのだから10歳になるかならないかという年齢から舞台と映画、テレビで育ってきた芸人なのである。とにかく信じられないほどうまい。
 彼の演技は見事である。ベースは、たとえば話し方からして、マシューブロデリックの影響をものすごく受けている。しかし、完全にニックのものにしているのだからいいのだ。俳優は他人から芸を盗んで大きくなるのだから。とにかく、この男。見事。



 そして、バトフランプ役やったマイケルウリ(Michel Urie)のコメディアンぶりが一歩も引かず見事。演技の基本はミスタービーンの踏襲であるが、これが見事でオリジナルの演技となっている。観客の拍手もものすごくもらっていた。彼はブロードウェイデビューである。アグリーベティに出ているらしいが、あまりにも見事なので身震いした。
 初のブロードウェイが大役で、出演者の中では無名なのに見事に演じ切り観客の支持も得た。すごいな、スター誕生である。時間と空間の把握が見事すぎて。でも昔の日本にはこういう俳優もいたよなあと思うと残念。今はいない。対抗できるとしたら、西田敏行さんくらい。あとは無理。
 これらと比べると、目当てだったボーブリジッスは、先月見たジョージクルーニー主演の「ファミリーツリー」でもいい味を出しているが、こういう若い才能の前では見劣りしてしまう。
 振付も演出も美術も新しいが1995年版の影響が強くある。1995年版では使われなかった楽曲もありほんとに楽しかった。もう1回見てもいい。僕は口をあんぐり開けて驚いて何か盗めないかとみていた。
 しかし、この成功は、50年に渡ってこの作品を大切に育ててきたアメリカのエンタティメント界の勝利である。ひとつのもので作り上げたない。努力の末にたどり着いたエンタティメントの高き頂きである。日本ではこの作品は1995年版を宝塚がやった。違うんだよなあ。見てないけれど、そういうんじゃないと強く思った。

 もしも、ニューヨークでミュージカルを見るのであれば、まずは最初にこの作品を選んでいただきたいです。


ダニエルラドクリフ版(トニー賞受賞テレビ番組でのパフォーマンス)


マシューブロデリック版(トニー賞授賞式テレビ番組でのパフォーマンス)


映画版(1967年)ロバートムーアによるもの


2012年4月8日@アルハシューフェルド劇場
作曲/Alan Menken 作詞/Jack Feldman
脚本/Harvey Fierstein 演出/Harvey Fierstein 振付/Christopher Gattelli



「日本で上演するのならジャニーズで」
 とにかく10代から20代の若手俳優が山ほど出ていて、アクロバットのたくさんある激しいダンスを踊っている。歌もたくさんあるし、舞台の小道具セットのセッティングなどもどんどん使われていてディズニー厳しいなあと思ってみていた。主役の青年の靴ひもが緩かったらしくちょっと躓き、歌いながら直していたり、新聞紙を破ってそのうえで踊るシーンなど新聞がどうしても残る。その上にダンサーが足を乗せたら滑って最後である。ひやひやしながらも見ていた。プログラムでは悪役の新聞王はピューリッアー賞のピューリツアーになっているが芝居上では名前をあまり言わないように要らない配慮もあったりした。
 話は映画版を基礎にしているが、話を絞り込み、出演者を絞り込む工夫が随所にされていて、楽曲も映画ではなかった曲も入ったオリジナルな作品となっていた。例えば新聞記者役を男から女に変え、主役ジャックの彼女となるようにしたといったことなどだ。
 日本でやるなら、東宝や四季などが買い取らずに、ジャニーズがそのまま買い取って自らのプロダクションでやるのが唯一の方法だと思った。アクロバットができて踊れる若い男の俳優が20人以上必要で、それも、ジャニーズプロダクションにとっては、歌とダンス、演技の実践の場として通常のレビュー系のものだけでは対応できない厳しい乗り越えなくてはならない山が山ほどあるし、主役は20代後半~30代でよく、短いながらの多くの出演者に芝居どころがあり、歌も歌えるといったことからも向いているのではないかと思った。



2012年4月@ニューヨークブロードウェイ ネダーランダー劇場 Nederlander


「美術収集家の目的と限界」
 日曜日の午後1時まではドネーションで入場できる鉄鋼王フリックの私邸を美術館にしたフリックコレクション。それこそ20年以上ぶりに入った。アッパーイーストの5番街70丁目。フリックコレクション=鉄鋼王フリックの私邸のアドレスである。ニューヨークでも最高級の場所である。そして、僕はここからワンブロックのところに半年ほど住んだ経験もある。それも20代後半のころに。

 美術館の展覧会を日本で開催しても、美術館そのものは持ってこられない。フリックコレクションは3枚のフェルメールをはじめとして素晴らしい逸品があるのだが、建物そのものが美術であり、一番の美しさは概観、中庭を含めたこの建物だ。
 19世紀から20世紀の事業家の美術への鑑識眼の限界も含めてここにはアメリカ資本主義の、ヨーロッパへの劣等感の混じる憧れと自尊心の尊大さを感じさせる。
2012年4月の旅行で20世紀初めのユダヤ人スターン一家のモダンアートに対するコレクションも見たが、新しい時代の美術を観る力まではフリック自身は持っていなかった。だから、古い欧州の美術のメジャーで集めてしまう。
 彼が何でこの作品を金を出して買ったのかという視点で見ていくととても面白い。
 ニューヨークに出かける人で日曜日の午後1時までいこの美術館に来られる人はぜひ寄ってもらいたい。なぜなら、その時だけ任意の入場料で入れるからだ。つまり、1ドルでも10ドルでも払えばみせてくれる。そして、所蔵品の日本語ガイドは無料で貸してもらえる。13時前に入ればいいのであるが、それ以降は少し入場者数が減るので、むしろ午前中よりも空いてていいかも?

 で、肝心の中身。フリック氏、バルビゾン派の絵までは堂々と集めていたようだ。
中心は、フェルメールから始まる古典の評価の確定した大家の作品が多い。

 今回はボストン美術館やオルセーから借りた数点とともにルノアールの作品が10枚くらい特別展示されている。ところがルノアールでさえ、この屋敷に飾ってあると浮いて見える。彼はルノアールにも追いつけなかった。ドガの踊り子の絵を自分の寝室に飾っていたらしいが、それを客間に飾る事はなかった。
 彼のコレクションは20世紀の初め当時に欧米であった美術の価値基準にそって集めたのであり、欧州への憧れと氏の財力の誇示でもあったのだ、そんな鉄鋼王のコレクションと彼の限界を残酷な視点でゆっくり見るのもいいものです。ソファーもありますからどうぞゆっくりと。
2012年4月8日 フリックコレクション ニューヨーク
アランメリケン作曲
ラウルエスパンザ主演


「それほど面白いか?それほどいい楽曲か?」

 バルコニー席ならプレビュー期間中はいつでも29ドルというクーポンを配布。アランメリケンの楽曲が素晴らしいので聞いてもらいたいとネット上で積極的に情報公開している。楽曲が売りのミュージカルも新作では少ないなあと思い、当初の予定でなく、もう少しブロードウェイの作品を多めに見ておきたいと考え直しいろいろと工夫して出かけた。詐欺師の宣教師が村人の一部に信頼されてしまって起きる物語である。信頼が人を変えてしまうという物語でストーリーは分かりやすく深い。
 ただアランメリケンのメロディは印象に残るものがそれほど多いわけではなく、ゴスペル調のアップテンポの曲と歌い上げるバラード系の曲のオンパレードでイマイチ。エスパンザは前にも「カンパニー」というソンドハイムのミュージカルも見たが、熱演系の芝居、歌い上げるタイプ。まあ熱いというか脂こいというか、市村正親タイプの役者だ。共演者も実力派を揃えたのも分かる。特に歌のうまい役者も山ほどいた。こうして力の入った公演であることは間違いないし観客の反応もいいのだが、何か肝のようなものが抜けている感じもする。
 どうも僕のような似非クリスチャンには向いていないらしい。巨大宗教の詐欺的行為が氾濫し、神なき現代に生きるアメリカで、頑固に生きる保守的というよりも原理主義的なキリスト教信仰の人に特に受けてる感じ。観客にもそういう人をイメージさせるような人がものすごく多かった。うーーん、苦手。2012年4月7日@ブロードウェイ セントジェームス劇場
時は人種差別が色濃く残る1950年代、黒人でにぎわうスモーキーなアンダーグラウンドクラブでのこと、ヒューイ・カルホーンという白人DJの青年は、黒人音楽であったロックンロールや黒人シンガーの感動的な歌声に心を奪われる。Memphis は、白人の若者が魂を揺るがす黒人音楽と出会い、そして新たな音楽スタイルが生まれるという、音楽文化の革命を描くオリジナル作品。



「ウェルメイド!ブロードウェイ新作ミュージカルのお手本」
白人青年がリスクを冒し愛するブラックミュージックを広め、黒人女性歌手と愛するようになる話。分かりやすい。ゴスペル、ブルース、ロックなどなど音楽が多彩。そして、歌も踊りもうまい黒人系キャストが大挙出演で、歌もダンスも迫力満点な上に「サムディ」などいい曲もある。美術も豪華でブロードウェイ的ゴージャス感もある。白人の観客も白人青年に感情移入さえしてしまえばいいわけで、見ている人が誰も正義感にあふれた気持ちになれる。大変うまくできた作品でなるほど2010年のトニー賞をベストミュージカル賞も含め9部門で受賞したのはうなずける。
 ただね、周りにこのような青年がいたら、通常の組織なら迷惑だよなあと思います。彼のやっていることは正しいのだが、彼を推した人に迷惑と裏切りありまくりじゃん!などと見ることもできます。きっと本当にそういう人が自分の周りにいたら、誰もに嫌がられるでしょうが、それは舞台上での話。誰もが共感するのです。うまくできたファンタジーでもあるのでしょう。ブロードウェイで4本くらいはミュージカルを見たいという人にオススメします。
2012年4月7日@ブロードウェイ シューベルト劇場
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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