佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 演劇 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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燐光群「推進派」作演出・坂手洋二



「傷だらけになっても、必死に時代に追いつこうとして」
 3月11日に起きた東日本大震災とその後の愕然とする権力者の対応、そして、世界中から注目される現在進行形の福島第一原子力発電所。この上演は本来の6月3日の初日を8日まで延期して行われた。それは、坂手が自らの日本の問題と考えた基地問題から透けて見える日本外交と日本人の立ちいちが、3月11日以降の視点をどう組み入れて作品作りにするか必死になって追いかけたのだろう。
 通常の坂手作品と比較すると作品の完成度は決して高くない。木場の降板も起きた。川中氏を始めとする一部の役者は明らかに台詞のミス、忘れといったことが頻発した。そういう上演だった。作品からは、昔特攻隊の中継地だったところに、なぜ敢えて米軍基地の招致なのか、島の人口の減少の具合、沖縄の米軍による日本人雇用の数といった徹底した取材による情報が組み込まれているが、それは情報の面白さであって芝居の、人間関係の、人間と社会との関係にまで昇華されているのかというと疑問を持たざるおえない。
 坂手洋二が開幕のぎりぎりまで、今の日本と向き合ったのは作品から強く放たれていた。今の日本の状況は、坂手洋二までをも巻き込んだのだ。

2011年6月13日 下北沢ザ・スズナリ
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文学座「にもかかわらずドン・キホーテ」
作◆別役実 演出◆藤原新平
美術◆松野 潤 照明◆金 英秀
キャスト 金内喜久夫、飯沼 慧、三木敏彦、田村勝彦、櫻井章喜、清水圭吾、西岡野人、赤司まり子、塩田朋子、大野容子

 
 「脳みそグルグルだ。誰だストローで息を吹き込むのは」
 文学座のアトリエは数年前の改築直前に別役実の2作品を上演して大評判になったことがある。今回は別役実が新作を書き、藤原新平が演出をする。ゴールデンコンビらしい。100分の上演時間。小難しい不条理劇は勘弁して欲しいなあと思って行ったら、最初の数分でノックアウト。不条理なギャグが文学座の俳優の的確で観客にクリアに伝わる。金内、飯沼、三木が圧倒的な存在感で楽しい。不条理でありながら現実世界への痛烈な皮肉であるのはいつもの通り。ああ、面白かった。何か固くなった脳みそがストレッチというかリセットされた感じ。美術、照明も美しく素晴らしかった。壁に入ったひびがいいな。

文学座アトリエ 2011年6月9日
劇団チョコレートケーキ 法廷劇二本立て

「挑戦」したチョコレートケーキ。
最近のチョコレートケーキは大変真面目で熱く面白い。しかし、今回はその熱さにチョコは融けてしまったようだ。大きな期待をもって出かけたが結果はイマイチだったというのが正直な感想。もちろん今回のテーマが「挑戦」であり、その意欲は高く買わなくてはいけないと思う。しかし、「12人の怒れる男」では、怒りの種類が感情を激高させて怒鳴り合うというのばかりが目につく。もっというと、登場人物12人の中で起きるドラマの演出がほとんどされてなく、登場した人物たちが、最初の設定のまま仕方なく態度を変えて行くというのが余りにも多い。実はこんな人、陪審員の中でこういうドラマが起きたというのが余りにも少ない。
 こういう芝居は語っている人も大切だが、それ以上に大切なのが、それを聞いているリアクションだ。もうひとつ言えるのは、出演者に名作に対して畏怖の念が強すぎて…とまでは言わないが、いつもは現代口語の自然な演技をする人までが、キャラクターを作り上げ、「演技」することに熱をあげていたよう思う。もちろん、原作は素晴らしいし、この作品を取り上げたことも賞賛だが、全員が同じ色の同じようなスーツ。年齢もほとんど同じ俳優で、例えばポーランド出身であるとか、ニューヨークでの生活とか、そういうものが浮かび上がって来ない。時代背景のこともあれでは全く分からないと思うのだ。 さらに言うと、これを第二次世界大戦から10年もしていないアメリカのニューヨークでの芝居という意識があまり感じられないのだ。そして、堅物な有罪だと主張する人間=困った人、疑問を呈する人=いい人の図式の演出にもちょっと如何なものかと思った。
 特に最後に、あれは第何号だったか。我が子の写真を破ってしまうシーンがあるのだが、それをそのままにしてしまったのだ。我が子への愛憎が憎さだけになってしまうという意図があっての演出なのか?疑問が残る。特にあの当時の写真の高価さをもう少し意識してもらいたい。
 いろんなことを書いたけれども、それはこの劇団への思いからということも分かってくれると嬉しいな。
 「裁きの日」は最近冴えている古川の台本に問題点が多くあった。裁判員制度のことについてきちんと研究/調査をしたとは思うのだが、裁判員制度においては、裁判員が直接、被告や証人に質問をすることができるという、陪審員制度と決定的に違う部分がある。その前提からすると、裁判員がおよそ会話することが考えられない「怒れる12人の男」のような謎解きや推理はあり得ないのではないか。それは法廷でクリアにすることが求められるからである。また、裁判員に守秘義務のことを語るが、裁判員がメディアのインタビューに応じる事もあることはどういう風に考えているのだろう。そういった裁判員制度の矛盾点や、制度では起こりえない事柄が散見されて残念だった。私は新聞などを通して知ってるだけだが、そういう素人が知っている事は抑えておくべきだろう。そして、芝居のほとんどが、死刑制度や裁判員制度についての討論に使われたのも残念。つまり、被告についての討論でなく一般論なのだ。
 私の誤解もあるのかもしれないが、こういう芝居のルールとして、先ずは裁判員制度の特徴や知っておかなくてはいけないルールを芝居の冒頭や前半にに説明するのが鉄則だ。また出演者のキャラクターが動かない。ドラマが起きないのも残念。次回作に期待したい。
2011年6月1日「12人」3日「裁きの日」 ギャラリールデコ

風琴工房「赤き深爪」
作・演出 詩森ろば 出演 浅野千鶴(味わい堂々)葛木英(ehon)園田裕樹(はらぺこペンギン!)佐野功 他
 上演時間1時間。ドラマの本質である児童虐待のシーンを目の前では見せないで、起きた事、思う事をほぼ全て思いを吐露して芝居を構成している。説明台詞と心の吐露の長台詞が延々と続く。劇中で、唯一ある児童虐待のシーンと言えるところが、花束で子どもの頭を叩いたシーン。花はルデコの無機質な床に飛び散り、それはそれは美しいシーンだった。非常に皮肉な感じがした。役者としての葛木英がこんなにいいとは思わなかった。

2011年5月27日 ギャラリールデコ


 これほど退屈した「レ・ミゼラブル」は初めてだ。数年前に別所哲也さんに招待して頂いてみた時は、久しぶりの「レ・ミゼ」(日本では今から25年前に見たっきりだった)というよりも、別所さんはじめとする人々の歌のうまさに舌を巻いた。いいな「レ・ミゼ」と思ったものだ。今回はその25年前の初演の時に看板を背負っていた人が勢揃い。期待は高まる。
 2階の前方で見ていたからつまらなかったとは思わない。今宵はスペシャルキャスト。鹿賀丈史、岩崎宏美、島田歌穂、斉藤晴彦、鳳欄など豪華キャスト。しかしね、声が出ていない。むかし、ロイヤルオペラの来日でアグネスバルツアが、ホセカレラスとカルメンやって、すごかった。2回聞いて、一生これ以上のカルメンは聴けないのかもと思った。バルツアの頂点の最後の頃だったんでしょう。どかーっと落ちた。最近は自分が歌って損しないものを選んでいるようだけれども、落ちた後もしばらくはタイトルロールを歌ってて、10年もしない間に藤原歌劇団にも客演してカルメンを歌ったんだけど、がっかりしたものだ。演技でカバーしようとしているけれども声がないのだ。
 それが今回起きていた。特に斉藤晴彦さんは酷かった。大好きな俳優さんなのにな。岩崎宏美でさえ、あの頃のフォンティーヌの声はない。ジャベールの鹿賀さんもしかり。全編歌だから、歌で表現できないとこの作品は辛い。良かったのはマリウスの石川禅(今はジャベールをやってるという。初演の時は野口五郎か誰かがやったはず)。やはり初演の時にはいなかった、アンジョラスの岡幸二郎や、ジャンバルジャンの今井隆も良かった。また、経済とHに出演してくれた土屋研二さんが、アンサンブルで出ていて、それも「ドリンクウィズミー」といういいナンバーのワンコーラスソロで歌うのだ。非常に東宝チックな歌い方でちょっと個性が消されていたけれども、良かった。芝居では自分らしさを出そうとしてかいろいろと工夫して演じられていた。あと、子ども店長の加藤清志郎君が良かったが、上手すぎて小癪。
 とにかく、他が…。カーテンコールでは総立ちで拍手喝采だったが、きっと「レ・ミゼ」ファンの方々が在りし日の名演を思い浮かべていたのだと思う。今宵はただただ退屈だった。
5月12日18時15分開演 帝国劇場
作◆ニール・サイモン 演出◆望月純吉 美術◆石井みつる
父 ジャック/大滝 寛 母 ケート/金沢映子 兄 スタンリー/細貝光司 僕(弟)ユジーン/宮内克也 伯母 ブランチ/八十川真由野 従姉 ノーラ/渋谷はるか 従妹 ロリー/福田絵里
     
 ニールサイモンの傑作戯曲。東海岸のユダヤ人家庭の日常を描きながら家族や生きることを問いかける。笑いも涙もある7人の物語。こういうのを書けるようにならないとなあと思ったり。しかし、今の東京であれだけ観客に向かって独白の台詞書いたら馬鹿かとか言われちゃうのかなあとも思ったり。演出は手堅く、美術は二階建てで必要なものがちゃんとあって。10年ほど前に坂口さんの演出での上演されているはずなのだが、どう違うのか。この作品を舞台で見るのはこれが初めて、おおよそのストーリーなど知ってはいたが、やはり人間の肉体を使って表現されるといいです。宮内さんが15歳に見えないのが残念。文学座の力量はやはりすごいと思わせる公演。
 そして、今回の宣伝美術、文京図案室(三木俊一+中村斐子)というところが手がけたらしいが素晴らしい。感激した。

 2011年5月6日マチネ 全労済ゼロホール
作◆宮本研 演出◆西川信廣
出演 関 輝雄 得丸伸二 岸槌隆至 石橋徹郎 鍛冶直人 神野 崇 城全能成 佐川和正 星 智也
永尾 斎 清水 馨 松岡依都美 荘田由紀 木下三枝子 ほか


70年安保の前、高度経済成長時代の日本で書かれた宮本研の3時間の大作を上演。文学座にとっても非常に大きな作品で43年前に初演されたそうだ。舞台美術はシンプルな形であるが、俳優たちの演技を最大源に生かす色合いと形状である。最初から俳優の集中力はものすごく、俳優自身の魅力もあり、圧倒的なエネルギー。この芝居自身がエネルギーを感じさせる芝居であるが、それを倍増させていた。それは決して大きな役とはいえない男優役、女優役のいわばコロスに近い人たちも言えて、この作品に出ると言うことの意味合いをよくよく分かっているのだ。
 30−40代の役者を中心とした座組はどの俳優も素晴らしい。演技が王道で、役者の個性は引き立つ。しかし、劇団のアンサンブルも見事なハーモニーを醸し出していたのだから、すごい。前に、東京セレソンでラックスに出ていた,松岡さんは文学座の女優さんだと今日分かった。あの特徴的な声はなんだ。声って魅力だよなあ。ひとつひとつの台詞というか音が子音母音が粒だって心地よい。スタカートとテヌートの見事な使い分け。
 僕が5年ほど前に参加したサマーワークショップで、参加者のことをちょっと冷静な眼で見ていた佐川和正さんの芝居を初めて見てわーとも思った。文学座は何十年経ってもスゴいなあと思わせてくれる。


2011年2月14日 紀伊國屋サザンシアター
『グレート、ワンダフル、ファンタスティック』
作演出 三浦直之
出演 板橋駿谷 亀島一徳 篠崎大悟 望月綾乃 青木宏幸 多賀麻美 森本華 山崎明日香


 話題の劇団「ロロ」を観に行った。前作が評判で今回は不評が多い。観客に作品を受け入れてもらうことは本当に難しいものだ。いろいろの芝居へのオマージュに満ちた作品で、それはごった煮のようであり、遊園地のようでもある。ディズニーランドも、ナムコワンダーランドも、映画館も、ハイキングでの楽しみも、ゲームの楽しみも、球技大会の楽しみも。あれもこれも面白かったよねという芝居である。で、本人はブログやチラシでそういうものをやりたいと宣言しているのである。ところが観客は新しいものを見たいものだから、オマージュをもっと自分の中で消化して新しいものとして提出しないとだめなのである。
 表現したいもの、好きなものがきちんと明確になっていることは素晴らしいとも思うけれども。
 役者は魅力的だった。板橋、篠崎、望月を初めとして個々の役者が本当に良かった。

2011年2月9日@こまばアゴラ劇場
ソーントンワイルダー作
宮田慶子演出
音楽・ピアノ生演奏 稲本響
出演 小堺一機 鷲尾真知子 斎藤由貴 相島一之 佐藤正宏 ほか

1938年発表のワイルダーの名作をカット無しで上演したもの。美しい空間は広いこの劇場ならではの圧倒的質量と美しい照明、そして、ピアノともちろん役者によって素晴らしい世界が立ち上がった。3時間10分で途中20分の休憩が入るが、そこには人生の何気ない日々が2幕までで語られる。3幕は死者の思いから人生を俯瞰してみせるのだ。やはり3幕が圧巻。演劇的な、教訓じみた、もしくは、文化の薫りが高い名台詞が流れを区切ることがないから滲みてくる。さいたまゴールドシアター出身の役者さんがいい味を出している。欲のある役者も無欲の役者も混ざっているところがナイスなチョイスだと思うのだ。どちらもいることでどちらも見えてくるから。若いアンサンブルの役者は身体が本当に動いて羨ましい。歩くとき手を伸ばすとき、役者の手入れをしていることが良く分かる。それは生命力のほとばしりにつながるな。
 客の入りは良くない。ガラガラだけれども、それだけに、客としては何か観やすく良かった。途中で帰る人もいた。自分で書く本で途中帰る方がひとりでもいると大きく落ち込むものだが、この作品でも帰るのだと思うとあまり気にしなくていいものかなと思った。

2011年1月21日
新国立劇場中ホール
作 泉鏡花 
演出 戊井市郎 斎藤雅文 
出演 波乃久里子 高橋恵子 市川段治郎 安井昌二 田口守 伊藤みどり 井上恭太 ほか



 劇団新派を見るのは何年ぶりかな。それも三越劇場という小さな空間で拝見するのは初めてのはず。高橋恵子が美しく、どこまでも魅力的に淡々と演じるのに対し、波乃さんの情念の出し方の素晴らしいこと。見事な演出。久里子さん、どんどん勘三郎さんと生き写し(?)であります。顔の表情、台詞の調子、声のイガイガになるポイントまで似ている。三越劇場という小さな劇場では小さな仕草や息の具合まで全部大切になってくるけれども、その感じが見事。きっと計算された訓練で到達されたものも多いのだろうけれど鳴りきられている感が非常に多いと思った。それは田口守さんにもいえて、まあ常人でない役柄をウソのない感じで。へえ、新派ってこういう役者も在籍していたのかという印象である。
 新派らしいのだけれども伊藤みどりさんのいいこと。ああいう演技をきちんとされる役者は昭和にはいたけれども今はいないから、拝見してすっかりファンになりました。伊藤さんの出ている三婆見て見たい。井上恭太は、大輪の花が開く予感のする俳優でした。この役者をどう育てるかによって新派の未来が影響されるのではないかなあ。そう思ったのであります。違っていたらゴメンナサイ。

1月18日 三越劇場
ブロードウェイ来日公演カンパニー

 素晴らしい楽曲に、過激だけれども非常に現代的な内容。パペットを多用したプレゼン方法。たった7人で繰り広げられる名作。アベニューQが来日した。写真のメンバーは来日カンパニーの面々。そこそこかなあ。特に、人間として出る3人がブロードウェイやロンドンで見た時と明らかに落ちるんです。それが残念だった。あまりにも皮肉と過激な内容で客席は退きまくっていたけれども、こりゃやっぱり傑作だなあと思った2時間半でした。
 韓国というところを中国にしたり、市川海老蔵のことをからかったり、来日版で少々直していたけれども、例えば、ユダヤ人といっただけでは笑えなものね。でもね、傑作なんですよ。笑いのセンスとテンポがニューヨーク。



東京国際フォーラムC
2010年12月17日

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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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