佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 演劇 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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作/東 憲司
演出/高橋正徳
出演/新橋耐子 坂口芳貞 石田圭祐 横山祥二 横田栄司 富沢亜古 山崎美貴 藤﨑あかね



新橋、坂口の見事な演技をみつつ思ったことは
 新橋耐子はパワフルで名女優である。登場人物の女性が老いの流れの中で肉体に起きるドラマも見たいのだが、もっと彼女の内面のドラマを見たかった。実息子に対し実力行使をしたりする元気な部分もいいのだが、それとの対比や、繰り返される同じ様なシーンでなく、その差異なども見てみたいのだ。坂口は毎回どんな演技を繰り出して来るのかが楽しみな俳優であるが、今回も面白かった。しかし、それは坂口が創りだしたものだった。ここで考えたいのは戯曲自体である。
 僕は東の作品が文学座に合うのかと問われると分からない。東の作品の魅力は、技術よりも圧倒的な熱量とその思いを物量にも投影して上演するアングラの良さをもった所属劇団の芝居と比較してしまうからだ。文学座はもっと知的なアプローチをする集団である。社会とか時代とか、そういうものと対峙するだけでなく、もっと内面的なアングラ性が見たかった。
2012年12月13日@文学座アトリエ
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[劇作・脚本・演出]ケラリーノ・サンドロヴィッチ [音楽]パスカルズ [出演]生瀬勝久 / 小出恵介 / 丸山智己 / 安倍なつみ / 大倉孝二 / 緒川たまき / 大鷹明良 / マギー / 近藤公園 / 夏帆 / 三上市朗 / 久保酎吉 / 峯村リエ / 犬山イヌコ / 山西惇 / 池田成志 / 久世星佳 / 木野花 / 西岡徳馬 / 他
 北回帰線と南回帰線の狭間にある架空の街に、祖母と二人で暮らす内気な青年。街を牛耳っているのは強欲で好色な市長。彼の三人の娘は、それぞれに複雑な事情を抱え、やがて街を揺さぶる大事件に発展する―。
市長の後妻と百歳を越える母親、子供を亡くした使用人夫婦、テロを企てる市民たち、怪しげな教会の司祭、謎の錬金術師と白痴の助手、そしてよその街からやってきた放浪の若者。幾多の登場人物が壮絶に絡み合う一大クロニクル。




まるでドストエフスキーのようで
 上演時間は2回の短い休憩を含めて4時間10分であるがケラさん自身は時間のために削らなければならなかったシーンがあるらしい。作品はまるでロシアの作品を見ているようで、それもチェホフというよりもドストエフスキー。人間の原罪に迫って行く作品は深みもある。しかし、観客としては4時間10分の間、この作品のエネルギーを受けとめるだけの高い集中力を続けることができなかった。正確にいうと時おり集中が途切れてしまった。音楽も美術も演技も照明も見事である。
2012年12月9日@シアターコクーン
作/井上ひさし 演出/ 蜷川幸雄
出演/大竹しのぶ 藤原竜也 辻萬長 たかお鷹 立石涼子 木場勝己
赤司まり子 原康義 大門伍朗 妹尾正文 ほか


あまりにも見事な蜷川演出
 1978年初演の舞台を知らない。しかし、1978年、杉村春子主演、そして、テキストを当たって行くと、今回とはまったく別物の舞台だった様な気がする。それは、ギリシア悲劇の様な人間の業に迫る舞台だったのではないか?
 しかし、時代は流れ。現実は物語を凌駕するようにもなる。この近親相姦のラブストーリーを蜷川幸雄は純粋な愛の形として描き、社会の規範によって引き裂かれながらも愛し合う物語のひとつとして舞台に仕上げた。本来であればドロドロと暗い話も、人間の本性の部分の下りに大胆にコメディタッチを導入することに寄って、人間てこういうものだから、こんなイケナイことも時にはやっちゃうバカで愚かで可笑しい生き物だよね。でも観客のあなたも同じでしょ?と、観客に笑いながら受け入れさせてしまうのだ。それがあまりにも見事で感服した。笑いだけでなくスゴく芝居芝居した演技を演技者にさせるので、観客は安心して見られる。さらに、美術がこの夏の「海辺のカフカ」でも見られた様な可動式の枠ものが主体。歌舞伎の手法やさまざまな演劇的なものを導入して飽きないが、透徹されるのは、美術からもリアル感をある程度消しさり、おとぎ話の様な美術に仕上げたのも効果的。リアル感がありすぎると見ていて辛い内容なのだ。こうして、主役二人の話も全部終わってめでたし!と思ったら、最後のエピローグの段で、物語を現代に放り込む。社会の規範が登場し、観客は笑って引き込まれていた架空の物語が現実の自分のものとして突きつけられる。自分に引き戻される。この幕切れも演劇鑑賞の喜びを感じさせてくれるのだ。
 3時間10分の舞台はスピーディで、大竹、藤原の二人は魅力的で素晴らしいが、ここに狂言回しであり、観客の目線であり、観客と物語をつなぐ狂言廻しに木場を配した。この木場があまりにも見事なのだ。芝居は旨いし、何といっても声がいい。日本を代表する役者だなあ。この人で、チェホフとか、アーサーミラーとか見たい。大竹×藤原の初共演が話題の舞台だが、最終的な勝者はまたもや蜷川幸雄なのである。
2012年11月21日@シアターコクーン
新派百二十五年 初春新派公演
『お嬢さん乾杯』『口上』

出演

バーのマダム…水谷八重子
池田鶴代(泰子の母)…波乃久里子
池田泰子…瀬戸摩純
高松五郎…井上恭太
池田浩三(祖父)…安井昌二
石津圭三…市川月乃助
青柳喜伊子/田口守/石原舞子/鴫原桂/川上彌生/鈴木章生/児玉真二
2013年1月20日@三越劇場


【脚本・演出】 福原充則
【出演】 富岡晃一郎、喜安浩平、野口かおる /
佐藤銀平、髙山のえみ、橋本淳、藤原慎祐、松下太亮、吉川純広、吉田ウーロン太 /小林顕作 / 山本 亨


福原演劇の王道を手堅く往くプロの作品。
 実態はどうか知らないが、作演出の福原と俳優の富岡が旗揚げした劇団。その第二回公演。ピチチ5で福原が魅せるケレン味たっぷりの舞台であった。そして、演劇でしかできないことを考えた舞台でもあった。
 テーマは「想像力のチカラ」ってことだろうか…。究極の閉塞感が漂う現代日本。特にこれから人生をやっていかなくちゃいけない若者へのメッセージになっている。野口かおるが、このメンバーの中でも圧倒的な存在感。あの語り口はすごい。超ハイテンションになっても、台詞をきちんと客席に届けるところがプロ感を感じさせる。ニューハーフの高山のえみさんを終始女性の役として出していたのが面白かった。動きもアクションもあるし、テンションも高く気持ちは伝わって来るんだけれど、2回の長台詞のほとんどが何を言ってるのかほとんど分からない役者さんはどうなんだろう?また、芝居は集中力ということもすごく再確認した。名うての役者さんなんだけれど、福ちゃんの台本でちょっとコント風のところがあったりすると、そこを調子でやってしまう。相手のリアクションを段取りでやってしまう。演技のアイデアがないと怖いということなど、演劇をやるものにとっていろいろと勉強になる舞台でもあった。
 福ちゃんは、外部のガチガチの縛りがあるであろう商業演劇と違うけどスゴく手堅く、自分の得意な芝居を書き集めたキャストさんにも冒険させることなく得意な部分を旨く使った。プロだねえ。
2012年11月11日@すみだパークスタジオ(倉)

作演出/鈴木聡
出演/おかやまはじめ 俵木藤汰 福本伸一 弘中麻紀 ほか

鈴木作品としてはイマイチの出来か?
 ラッパ屋の作品には求めるものが高すぎるのは分かっている。鈴木さんの台本に、ラッパ屋の素晴らしい俳優、そして、ジャズ!。この作品も、現代のちょいと疲れた=だんだん自分の人生のことが見えてきて、将来に対する夢もしぼみ始めた年頃の男女、特に都会暮らしの観客に、そうかも知れないけれどオレたちは頑張るぞっていう真っ当なメッセージを、何回も台詞にも出して観客に球を投げる。
 それが、今回はももクロといういま話題のアイドルグループを真ん中に据えていた。下町のつぎつぎと事業をたたんでいく工場街のおじさんと、やや若者の人間模様。それでもね、ちょいと直球過ぎたり、ちょっと台本上の技巧に凝りすぎたりが、アレレ感を持ってくるんですね。鈴木さんの作品のいい意味での品の良さ。やりすぎない品の良さが時に萎む。それがちょいと残念でした。
 それから「星に願いを」。前にも使ったような。記憶にあるような。「スィートチャリティ」の曲はナイスな選択。でも、おしゃれなジャズがももクロの音楽とはあまりオーバーラップしなかったかも。
2012年11月9日@紀伊国屋ホール

作/佃典彦 演出/松本祐子
出演/金内喜久夫 坂部文昭 藤堂陽子 奥山美代子 新保共子 ほか

金内喜久夫さんの存在感が楽しい
 数々の名優を生んできた天下の文学座といっても誰も彼もが粒よりの芝居をするとは言えない。杉村春子さんや、三津田健さん、太地喜和子さんら時代から見ているものにとってはかつての名優が懐かしくてたまらない。そんな中で現存する劇団員の中で金内さんの存在は本当に嬉しい。今回はかつて一世を風靡したマジシャン役。怪人二十面相のような舞台衣装もぴったりな俳優は日本に何人いるんだろう。もうご高齢なのに、あまり映像系の代表作をお持ちでないのが残念でたまらない。どうか、お元気なうちに多くの人に見てもらいたいな。

2012年11月5日@紀伊国屋サザンシアター

一、国性爺合戦(こくせんやかっせん)
  獅子ヶ城楼門/獅子ヶ城内甘輝館/同 紅流し/同 元の甘輝館
和藤内  松 緑  錦祥女  芝 雀  老一官  歌 六  渚  秀太郎
甘輝  梅 玉

二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶  團十郎 富樫左衛門  幸四郎 源義経  藤十郎

団十郎の声が枯れて痛々しい
 以前、オモダカ屋の公演でみた実は会話劇「国性爺合戦」とおなじみ「勧進帳」を観た。今月は昼夜で幸四郎と団十郎が弁慶と富樫を入れ替えるというのが目玉なんだけど、団十郎の声が掠れて痛々しかった。幸四郎は相変わらず台詞廻しが上手い。技巧で演じていると思うときもあるが、今日は相手が弱っているからかいい意味で力が抜けていた。団十郎は大病もしたし今までのような全力で足して行く芝居でなく、そろそろ引いて行く芝居にして、役柄の骨格だけが残るようなアプローチにして行った方がいいように思う。
 松緑がいい。声がいい。テンションが高い。手を抜いていない。いわゆる元三の介の中ではあるが、決して華があるわけではないし、見栄えも良くないけれど、精進してどんどん良くなって、この人の役回りというのがくっきりしてきた。今回の和藤内なんかもそのひとつ。何か一筋のスゴさを感じる。
2012年10月24日@新橋演舞場


やはり僕は好きになれない。
 東京セレソンデラックス「笑う巨塔」を鑑賞。何と500円で見せてくれるとカンフィティという演劇のチケットサイトに載っていた。6500円のチケ代で観に行こうとは思わないが、最終公演だし出演者は豪華だし、前にみたときの印象が変わるかもしれないと、この10年でもっとも商業的に成功した小劇場出身の劇団のひとつの解散公演を観に行った。で、やはり好きでない。嫌いだ。
 理由は前回と同じ。お客は笑っている。楽しんでいる。役者も松本明子や石井さん、金田さんなど名うての役者が出ている。しかし、笑いの源泉を人の身体の特徴、ブス、デブ、チビ、ハゲということをストレートに徹底的に笑いものにする。また、肉親をガンで亡くしたものにとっては笑えない設定。それをも笑いにする。これは前に観た時にもそう思ったんだけど、これだけお客さんが入っている限り、みんなそういうところには無関心なんだろうか。僕はちょっと…なのである。
 今回も思ったのだけれど、宅間さんという人は才能のある人だと思うのだけれど、きっと育った環境が文学や演劇というよりもテレビなんだと思う。すぐに演劇からコントに脱線し、芝居の流れを止めてしまう。コントというか、アドリブトークというか、客席からの笑いがあるから引っ張る、引っ張る。笑いが取れれば何でもあり?これ喜劇なのか?と思ってしまう。
 もちろん、松本明子、金田明夫、石井宣一(こざとへんなしでゴメンネ)デビット伊東らの芸達者の至芸は見事。
 
2012年10月20日@サンシャイン劇場
作/赤堀雅秋 演出/河原雅彦
出演/伊藤正之 市川しんぺー 吉本菜穂子 平田裕一郎 橋下淳 板橋駿谷 駒木根隆介 田島ゆみか


お子ちゃまのみる芝居ではない、が。
 2012年は後述する理由もあって、日本の演劇をあまり見ていない。そういう状況にありながらも、私は断言できる。この作品は2012年の日本演劇界が産み出した傑作である。
 作者は赤堀雅秋氏。もう何年もザシャンプーハットの作品を見ていなかったのであるが、この作品はスゴかった。原罪、刧や宿命、現代の絶望や人間の深い哀しみが容赦なく提示され突きつけてくる。この作品のすごいところは、ストーリーとして知性で見て行くことも、感性で感じ取って行くことでも観客は作品にアプローチできることである。
 例えば、それは異様に強調される笑いに現れている。さまざまな登場人物は、さまざまなことに笑いを使う。現実と向き合わない、人と向かわない、いろんなことに笑いで閉ざして行く。笑えないことを笑いで塗りたくろうとしているのである。
 これはとても分かりやすい。
 今回の観客は、イケメン君出演者のファンの若い女子たちが観客のほとんどである。どす黒い思いに悩まされたり、絶望しか無い時間を過ごす経験の少ない観客にこの純文学系の深い作品を理解させたのは演出の河原雅彦氏の物事の本質をずばっとつかんで観客に上手くデリバーする。そして、若い俳優たちも含めた俳優陣の見事なこと。この演出力なくして、このクォリティの上演はなかったはずだ。

 演技陣では、加藤啓のテンションが上下する感じがしたのが気になるくらい。名前は分からないが、親を亡くした不良兄妹役をやった俳優、刑事役や巡査役の佇まいもよかったなあ。駒木根という俳優のテンションはスゴかった。
 演出家に必要なものを感じさせてくれる舞台でもある。

 
 最近の芝居は、集客の難しさから守りに入った芝居が続いているのだが、この作品はそれと真逆。挑戦的でやりきった感の高い、非常に水準の高い舞台で芝居をみる喜びに圧倒された。残念なのは客席に大人が少ないこと。この作品こそ大人が見るべき芝居なのである。 2012年9月25日@本多劇場
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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