佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 演劇 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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作演出/おかやまはじめ
出演/おかやまはじめ 省吾 林和義 古川悦史 本間剛 西條義将(モダンスイマーズ) 喰 始(WAHAHA本舗)


推せん!喰始の演技は必見。見事なできに満足度高し」
 俳優おかやまはじめのドヤ顔は、小市民の中年男が何とも情けない顔で下から相手の顔色を伺う顔。何とか笑顔でごまかそうとする顔。もはや日本の俳優陣の中でも最高峰のドヤ顔をする。それがラッパ屋の舞台にかかせないものであることはファンなら誰でも知るところだし、おかやまさんが朝ドラなどにレギュラー出演していて、あんまり台詞がなくても、画面におかやまさんがいて芝居をしているだけでも、見るものに安心感を与える。ものすごい存在感だ。威圧感のない透明な空気感の存在感なのである。
 そのおかやまはじめが名うての俳優とはじめたHOBO。初見である。きっと鈴木聡さんの6掛けくらいで見ればいいのかな?と失礼ながら思ってでかけてみたら、全く違った。選曲のセンスは鈴木さんのジャズの影響を強く受けているし、演劇に対する真面目さも同じだが、作品はコメディでも作風は違って、ペーソスたっぷりの小粒の真珠の様、だった。
 新宿の中年ホームレスの話である。よくありがちな設定だ。その日々のできごと、人間模様、出会いと別れ。何かを諭すわけでもなく、嗚咽してみるような作品でもなく、ほんわかさせてくれる作品。こういう作品を見ると、普段の生活の普段に人間関係のありがたさ、そこに見いだすべき価値観を再認識もさせてくれる。もちろん、ちょっと言いたいことはある。例えば、江戸弁(例の「ひ」と発音ができない)でうまく話せないと言うことをあのタイミングで何回も繰り返したりすることは不要だし、芝居じみていて、せっかくのテンポが落ちてしまう。暗転の多用も如何なものか?選曲にひと工夫あっていいのではないか?とあるけれども、どれもこれもが好みの部類のことなので、それは人によっていろいろと感想が違うだろう。
 
 この作品を推す理由はストーリーや本の魅力だけでない。芝居の魅力に満ちているからだ。それは、この作品では役者の魅力ということでもある。おかやまさん自身はバイプレイヤーに徹しているが、5人のメンバーは出色の出来。とくに省吾(初見)という人は、無骨な線を崩さずに淡々と演じながら人間の善の部分をにじませるという名演をする。林和義さんは名優としてすでに確立した評価があるけれども、このふかい味わいはなんだろう。元文学座の名うての演劇人、古川さんも他の芝居とはレベルの違う演技を見せる。芝居を細かく丁寧に演じきっているのにリアル感を失わない。こうした新劇の俳優が少なくなった。演劇の深さを感じさせてくれる。本間剛も小劇場を中心に活躍した俳優だが、名うての俳優の中でギアがかかって、いつもにもまして芝居魂を感じさせる。
 
 この芝居の注目点で忘れてならないのは、おかやまはじめの演出力である。
それは、前述したおなじみの俳優たちがいつもより格段の演技をみせていることでも明らかだ。さらに、客演のふたりがものすごいことになっている。先ずはモダンスイマーズの西條。見事である。いつもの守備範囲としている役柄と違うキャラの役柄を見事に演じていた。もっと言わせてもらうと別人のようなのである。おったまげた。西條という人は俳優としては、むしろ不器用な高倉健タイプかと思いきや違った。
 しかし、それ以上に出色なのが、ワハハ本舗の喰始である。出色、出血、出欠、いや、驚愕。どういう表現を使えば伝わるだろう。メチャおったまげた。ワハハの演出家はこういう芝居ができるのか!演劇人が目指すべき理想の姿がそこにある。僕は芝居に出してもらうといつも思うのは昭和の名優である。例えば、加藤大介、例えば、伊藤雄之助、例えば、志村喬、例えば、佐分利信。目標は高く、ああいう存在を目指したいといつも思うのだ。もういなくなった。素晴らしい俳優の中の俳優。
 何もしなくても常に何かを放ち続ける俳優。いまのテレビや映画の俳優のつまらないこと(失礼)と思っていたら、ここにいた。タベハジメ!素晴らしい。圧倒的。「アー」といったり、息をしたり、呼吸をしたり、まばたきしたり、視線を変える。台詞のひとつひとつの、発声、呼吸、ポージング、アクセント、アクション。何から何まで完璧なそして魂の入った見事な演技を見せる。そして、観客をおかやまはじめの造り上げる世界に一気に引き込むのである。ああ、見事。初見であるが本当に本当に驚いた。僕はこれから、どういう演技ができるようになりたいか?と問われたら、喰始さんのような、と、子供が夢を語るように言うかもだ。ワハハ恐るべし。あんな演出家に演出されるのか。大変だ。
 
 つまり、本もいいし、俳優は魅力的、さらに演技も見事。これこそ、観に行くべき芝居である。最近つまらない芝居ばかりだったので、本当に嬉しかった。2012年9月6日@下北沢駅前劇場
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「リンダ リンダ」

「むなしく空回りする舞台を見て」
 演劇界の巨人、鴻上尚史の作演出であるが、一般人も含めて大量の招待動員を仕掛けた公演だったのに客席には空席が目立つ。まあ、それはどうでもいいことなのだが、作品が良くない。新国立劇場が出来た時に、野田秀樹と鴻上尚史の作品は演劇部門での動員を引っ張るはずだった。野田作品がソールドアウトとなるのと比較して鴻上尚史の作品はチケットが売れず、空席が目立った。そして、呼ばれなくなった。何でだろうと思うのだが、この作品にもあるように、何かが透けて見えてしまうのである。この作品は再演もので3.11以降に脚本に手を入れたのらしいが、原発とか福島といった事柄を余りにも簡単に単純に作品に取り込んでしまった。それで現代の空気を反映した作品になるとでも思っているのだろうか?
 この人はテレビタレント、エッセイストとしては未だに優秀だと思うけれど、もはや演劇人として面白い作品を全く見せてくれていない。虚構の劇団などでもがいているけれども、空回り感が拭えない。
 なぜか?
 原発、3/11、格差。現代のキーワードを作品に放り込むが、それによって生まれる新しい人間関係についてあまりにも無頓着というか、ないのである。
 作品に登場する人たちの関係性などが90年代のままの価値観、関係なのだ。
 ここでは、仕上げにブルーハーツの名曲も取り込んでいる。
 20世紀の、それもドラマの世界だけに漂っていたフィクションの価値観のままの演劇作品に現代のキーワードを切り貼りして、いかにも現代の作品にしようともがいている感じがして仕方がない。そして、たった10年チョイの時間の流れにも耐えられなかった鴻上作品と言うのは、元から良い作品ではなかったのだと思う。きっとあの当時は何らかの熱狂があったのだろう。良い役者、素晴らしいスタッフが集結しているだけに残念で仕方がない。観に行かなければ良かった作品だ。
2012年7月4日@紀伊国屋サザンシアター


スペーストラベラーズ

「90年代の面白さが現代に蘇った」
 90年代の作品であるが、決して古さを感じさせないのは、台本がしっかりしていることと、現代のテンポ、現代の感覚で読み直しているからだろう。感心した。大いに楽しんだ。「リンダ!リンダ!」のあとだけになおさら面白かった。
2012年7月9日@本多劇場

「ドリームハイ」

「誰もが楽しめるアジア発ミュージカル」
 韓国発の人気ミュージカルだそうだが、楽曲は今風だし、ダンスもストリート系で従来のミュージカルの枠を越えていた。役者の演技も水準も高く一部のファンだけの作品に成るのでは勿体ないと思う。もっと多くの人が見て楽しめる作品だ。
2012年7月12日@新国立劇場中劇場




椿組「20世紀少年少女唱歌集」
「初演を上回る成果」
 初演も見たのだが、今回は特に有名な集客用のキャスティングもなかった。しかし、ものすごくいいアンサンブルでこの鄭作品を10年ぶりくらい?で再演し、それも再演の方がレベルが高くなっていた。客演も多いのだがそれを感じさせないアンサンブルを作るのはさすが椿組である。
2012年7月14日@新宿花園神社特設会場

桂春蝶の上方落語+MUSIC

「再現芸術における個性」
去年競演した春野恵子さんの浪曲を一度生で聞いてみたく出かけた。初浪曲なのでコメントは控えるが、彼女は華がある。その華が前にドかーんと出ている。声は良いのだから、もっと歳を重ねて、彼女がどんどん消えて行く浪曲を聴いてみたいと思った。2012年7月25日@UPLINK

「千に砕け散る空の星」

「ザ・退屈」
 上村聰史がイギリスの現代作品を演出する。出演者も文学座の実力派が揃った。しかし、3時間の長尺の作品である上に、作品はあまりに個性的な価値観の内へ内へと向かって行く。個性は構わないのだが、そこに一般性を克ち得た求心力がなければ演劇としては如何なものか???どうも僕はついていけない。作品が面白いと思わないと作品に入って行けない。すっかり疲れてぐったりしてしまった。中嶋しゅうさんの全裸なんかみたくない。2012年7月27日@シアタートラム

カムヰヤッセン 「そうか、君は先に行くのか」
脚本・演出 北川大輔
[はたたがみ編] 小島明之 島田雅之(DART’S)ヨシケン(動物電気)
 堀雄貴(犬と串)甘粕阿紗子 辻貴大 ほか

「ゴメンナサイ…と」

 脚本も演技も演出も虚構の世界ではなく××なもので、75分と短い上演時間であるのだが、とても見てられなかった。刑事たちの取り調べの現場であんな人間関係を許容できるはずはない。ギャグなのかと思ったらそうでもないらしい。それに疑問をもたないのかな?他に用事もあり、さらに扉のそばの席だったこともあり、金払って途中で抜けた珍しい芝居。犬と串の掘くんという若い役者は決して器用ではないが感受性に富む若者で注目している。その堀君の出演なので選んで出ているはずと思った。ところが堀君もテンションだけでいつものクオリティも保持していない。とても残念だった。2012年8月13日@SPACE雑遊




作・演出/名嘉友美
出演者/泉政宏 横手慎太郎 中田麦平 名嘉友美 満間昴平(犬と串)ほか





「若手?劇団に珍しいバランスのよい秀作」
 良かった。初見の劇団で期待をしないのも良かったのかもしれない。まあ、初見なので次回観る機会があった時にも今日のような面白さを感じられるかだけれど。というのも、若手劇団で面白いと思って観始めると、結局前回の変奏曲でしかなかったことが多くて。
 この作品は人間が生きていくこと、人を恋することといった根源的なテーマに寄り添っている。そして、一部の作家のように妙に自分の価値観を押し付けるということもなく、登場人物のさまざまな生き方を提示、それらを肯定しながら物語は進み、ふっと観客の心に入ってくる。美術はシンプルでこの作品にあっている。衣装もお金をかけているわけではないが心を砕いている。台詞は演劇の台詞だし、演劇的な処理や開放感もあってこの作家は非常に演劇的なバランスがいい作品を書くなあと思った。この感覚は演劇、それも劇場でしか味わえないものだ。
 犬と串の満間君は誠実な芝居をしていて好感。ダンス?をする時にもう少しトメがしっかり行くといいんだけどな。 2012年7月21日@王子小劇場
有吉佐和子 作 戌井市郎 齋藤雅文 演出

出演 水谷八重子 三田村邦彦 波乃久里子
丹羽貞仁/瀬戸摩純/井上恭太/甲斐京子

以下松竹のHPより
見どころ
医学の世界を舞台に、華岡青洲への愛をめぐる嫁・加恵と姑・於継。
女同士の争い、苦悩を描いた紀州華岡家、「家族の物語」。

この初夏、新派は有吉佐和子不朽の名作『華岡青洲の妻』を上演いたします。
世界初の全身麻酔手術を成し遂げた実在の名医「華岡青洲」成功の陰には、嫁姑が競って人体実験を望んだ女同士の”壮絶な戦い”があったというエピソードを有吉佐和子が劇化した名作です。昭和四十二年の初演以来、錚々たる俳優たちが演技の火花を散らし、上演が重ねられて参りました。

出演は姑・於継を初役で挑む水谷八重子、嫁・加恵に昨年紫綬褒章を受賞した波乃久里子、そして華岡青洲には新派初登場のゲスト三田村邦彦を迎えます。三人の熾烈な三角関係は見逃せません。また、藍屋利兵衛には新派四度目の舞台に挑む丹羽貞仁、米次郎・小陸には、新派次代のホープとして期待される井上恭太と瀬戸摩純が挑戦し、於勝役には甲斐京子という最高の配役が実現いたしました。

日本演劇史上屈指の名作と新派の新たな出会いよる極上の舞台にご期待ください。

【あらすじ】江戸時代中期、天明の頃。紀州の名門・妹背家の娘・加恵が隣村の貧乏医者、華岡家に嫁いできた。花婿の青洲は三年前から京都で医学の修業の身。花婿のいない祝言ではあったが、加恵は満ち足りていた。なぜなら、加恵は幼い頃に評判の気品のある於継を垣間見て憧れをもっていたので、理想の女性としていたその於継から直々に嫁にと望まれて、この上ない幸福を感じていたからだ。加恵は華岡家の人となるよう励んだ。於継も嫁の加恵を大事にして、その睦まじさは人も羨むほどであった。ところが、青洲が京都より帰郷すると、その様子は一変し、青洲をめぐり姑と嫁の凄まじい女の争いが始まった。
そうした女の感情には無頓着な青洲は医学の話に夢中で、門弟の米次郎たちとともに麻酔薬の研究や癌の手術などに没頭し、紀州きっての名医といわれるまでになった。研究も進み麻酔薬の完成には、人体実験を残すだけになると、於継と加恵は競って実験に身を捧げようと言い出した―。

「長い歴史で作り上げた21世紀平成の於継」
 「華岡青洲の妻」を新派で観た。僕は80年代に小劇場に行かなかった理由のひとつが、この芝居を文学座の杉村春子の舞台で観たことが影響しているのは間違いない。小劇場の役者は勢い良く動くけれども何を言ってるのかさっぱり分からない。芝居なのに台詞を大切にしないとは!と思って行かなかったのだ。文学座には芝居の大切なもの、それがちゃんとあった。青洲役には、北村和夫や高橋悦史、妻の加恵役は太地喜和子や新橋耐子で2−3回観ている。細かい筋なんか全く覚えていないのに、強烈な印象だけが僕の心に残っていた。
 10年ほど前に新橋演舞場で新派を観た後、全く観て来なかった。それが、この2年余り、ちょこちょこ観ている。どれもこれもが質が高くて面白い。メインを張る俳優の役者力、劇団としてのアンサンブル力、美術などもスゴく気を使っていてチケット代がちょっと高いのがたまにキズだけれども、こういう芝居を見せてくれるところが日本でほとんどなくなってしまった。
 和物に関して言えば、文学座でさえ、ものすごく減ってしまったから。
この芝居は元々は山田五十鈴さんで始まった芝居。それが杉村春子さんが演じたことによって、杉村さんのものになってしまったという不思議な芝居。杉村さんが亡くなったあとに、山田さんが演じたのだが、それを観ていないのをとても後悔している。昔の女優はいいねえ、本当に花があるし、可愛いし、ね。
 文学座で10年ほどまえに再演をやるという時には、全く興味を示さなかったし、池内淳子さんでの再演も、結局いかなかった。それが今回新派でやるときいていいかもと思ったのはこのところの新派は、観るもの観るものが全部当たっているからだ。日本橋、良かったね。東京物語、なるほど、こうしたか!スゴいね。大つごもり、いいねえ、年末にこんな芝居を見られるのは幸せだね。今年一年何とか生きれたことの感謝で終われるね、、、という具合。

 幕が上がったら、客席が紀州の空気になっていった。

 機織りの音をきいて、ああ、そうだった、そうだったと思い出す。

 紀州の言葉を聞いて、ああ、そうだった、そうだったと昔の舞台が蘇る。

 水谷八重子さんの於継は、これ、当たり役になると思う。
杉村春子さんのアプローチとちょこっと違う感じがする。杉村さんは、妻、加恵に対する嫉妬を露に出した、姑のイジメを隠すことなく出していた感じがする。分かりやすいと言えば、分かりやすい。
 それに対して、水谷八重子さんのそれは、もっと現代的。もちろん加恵に対する嫉妬もあるんだろうけど、それ以上に、華岡の家のこと、母親と息子の愛情とその関係がものすごく大切で、それらを少しも崩させまいとするアプローチによる演技だ。嫌な人でも悪役でなく、自然にそういう風になり、それが嫁の関係に影響してしまったという具合。意地悪で生きているのではなく、真面目に誠実に一生懸命生きてるだけ。これ面白い。
 人体実験されて、寝て、足をばたんと、布団をはだけるところとか、可愛いのだ。ユーモアがあるというか。加恵も、無碍に敵意を出しにくい存在なのだ。
 上演史を調べてみたら、水谷八重子さんは、水谷良子時代などに、加恵の役を杉村さんとも、山田五十鈴さんとも、淡島千景さんとも(この於継も観たかったな!)競演している。そういう名舞台を同じ舞台で見続けてきたからこそ作り上げることのできる名演技。長い歴史の末に作り上げた21世紀、平成の於継を作り上げた。
 そして、波乃久里子さん!ウマい!ちょっと若妻には見えないが!
 加えて感心したのが瀬戸真純の小陸。そして米次郎と於勝。文学座の芝居を見たときは若かったから分からなかったのかもしれないが、この芝居の二重構造の一端を見事に担っていた。僕は井上恭太という俳優は姿も演技もうまいが、口跡で時々舌足らず、音がこもるなあと思っていたのだが、今回はそれも見事に克服していた。大したものである。こういう基本的なことをきちんと克服することに挑戦しない俳優ばかりを観ているから。 

 きっといつの日か、瀬戸さんの加恵、井上の青洲で上演する日も来るだろう。それが楽しみだ。波乃さんは?って、僕は秘かに水谷八重子さんとともに、ダブル於継での競演を楽しみにしています。2012年6月22日@三越劇場
出演/山口 良一・たかはし等、大森ヒロシ・まいど豊・村田一晃、長峰みのり(ペテカン)


「24年の積み上げの成果」
 単なる演劇でも、もちろんコントやバラエティーショーとも違う独自の分野である。2年ぶりに拝見した。大いに笑った、楽しんだ。このシリーズは10作以上観ているのだが、今回のはこの7−8年でも最も完成度が高かったように思える。これは1−2年で出来るもものではなく、24年間も続けて来たからこそできるひとつの頂きである。24年間やってきて、毎年洗い直すからできるのだ。ひとつひとつが展開にスピード感満載で、削って磨いたことが伝わってくる。山口良一さんの見事な間合いがスゴい。たかはし等さんの匙加減が絶妙。大森、まいどの自分の立ち位置の取り方。これ案外難しいものだ。僕は今回、一番驚いたのは村田さんが一年観ないうちにどんどんウマくなっていること。何だろう、自然体で舞台にいる感じが強くなった。しかし、この舞台ユルーくやってるように見えて、そんなことは全くない。劇団員だからと、舞台に若手が出られるものではない。出さないのは、ひとえにお客さんにいいものを見せたいという強い意志なのだろう。すごいな。長峰さんはその大役に見事に応えていた。プレッシャーでお腹が痛かったんじゃないか?2012年6月22日@ザ・スズナリ
原作:村上春樹
脚本:フランク・ギャラティ
演出:蜷川幸雄
出演: 柳楽優弥 田中裕子 長谷川博己 柿澤勇人 佐藤江梨子 高橋 努 鳥山昌克 木場勝己 新川將人 妹尾正文 マメ山田 堀 文明 TROY 蜷川みほ 多岐川装子 景山仁美 


「田中裕子と柳楽優弥、脱げよ!」
 事前に上演時間が休憩を入れると4時間近いという話を聞いていて、本当にうんざりしていた。チケット代が1万円ちかくても行くの辞めようかと思っていた。しかし、やはり蜷川。最近、僕は蜷川幸雄ルネサンスなのだ。
 圧倒してるよ、ニナガワすげーよ。演劇としても面白いし、時代にも対峙しているし、挑戦してるし、蜷川幸雄ひとりの力とは思わないが、圧巻だった。
 ジョニーウォーカーの猫の解体シーンは吐き気がした。度センター最後列で観ていたのだが、そこに狂気と哀しみ、現代がものすごく投影されていて役者力のスゴさを感じさせられた。それは登場シーンからそうだった。浮遊感ある役柄なのに妙にリアルなのだ。スゴいな。すごいといえば、木場さんだ。
 木場さんの凄さ!もう20年くらい前になるのかなTPTが始まって、何も知らずに観に行った。佐藤オリエと木場勝己!芝居ってスゴいなあと思ったけれど。今回も!何だろう。台詞は台詞で、きちんと聞き取れるのに、台詞に聞こえない。
 口語で話さないような台詞も口語に聞こえてしまう凄さ。
 あと佐藤江梨子がどんどん巧くなる。どんなスイッチをいれたんだろ。蜷川みほも良かった。難しい役柄だ、絶望を知っている人の台詞を言うわけだから。台詞でその情景を観客のイマジネーションの世界で再現してもらわなくてはならない。
 柳楽優弥は口跡のバリエーションが少なくて一工夫して欲しいなと思うのだけれど、役に対する取り組み方が素晴らしく、この数年の出来事をすべて血肉にしたような大人の芝居だった。あの歳にして。でもね、ベットシーンは2人とももっと脱いで欲しかった。脱いで本当にやってるんじゃねえのと思わしてくれるくらい欲情して欲しかった。とても大切だから、あそこのシーン。こんなこと思うの初めてだけど。田中裕子もヤギラも、ちゃんと脱げよ。特に田中裕子。マグダリアのマリアか!
 長谷川、柿沢と旬の男優は、どう力を入れていいのか分からない役柄でござんしたね。お二人のファンには物足りないのかもしれないね。長谷川は堂々としていて、スターになるってこういうことなんだよなと思った。
 美術がすごかったね。あの閉ざされた空間を組み合わせる事によって舞台を作っていくというアイデア。スゴいね、すごいなあ。金は掛かるんだろうけど、現代の空気をうまくシンボライズしているね。お見事!

 いづれにせよ、演劇をみる喜びと、王道でありエッジな作品を産み出す力はものすごいなと思わせてくれた。(見てすぐに感想を書かないとこんなことしか書けないな。)

2012年5月20日@彩の国さいたま芸術劇場
作・演出/モラル
出演/満間昂平・鈴木アメリ・藤尾姦太郎・堀雄貴・萩原達郎・廣瀬瞬
一色洋平・モラル

「新しいものとは何なのか?」
 この3作続けてみて来た。最初に観た「愛・王子博」が震災後の日本の空気に真正面に向き合って噴出するエネルギーと笑いとナンセンスを圧倒的な迫力で描いてみせた。全裸のシーンもあったが、それが社会対するものすごい矢となっていた。ああ、またスゴいのが出て来たなあと思ったのだが、前作の「ウズキちゃん」が話の展開にルールを作ってそこにこだわった。それを壊し乗り越えていくパワーがなく、小ネタと小道具と下ネタでの輪舞曲となっていた。ただ、照明のない通し稽古で観たので今回を本当に楽しみにしていた。
 今の世界=地球はどんづまりである。そのアンチテーゼとしての宇宙というキーワードと勝手に思っていたので、なるほどなあと思っていたのだが、全く違っていた。宇宙というキーワードにまつわることは冒頭にでてくるが、そこから延々と続く小ネタタイムに逃げてしまう。それが今の社会のどんづまり感の象徴であれば面白いのだが、ただの小ネタであった。下ネタであった。だから、出てくる「原発反対」みたいな言葉が、ああ適当なのかも?と思ってしまう。
 ナンセンスが成立するためにも今の世の中の座標軸を見せて欲しかった。そして、愛すべき俳優たちなのだが、小劇場の俳優としてはテンションも高くいいのだが、そういう条件付きの評価は彼らも喜びはしないだろう。リアクション、口跡、テンションの方向性、アクションの持ち技などなど、出てくるものが3回目の観劇で新しいものがない。毎回同じなので飽きてしまった。これは演出の問題でもあるだろう。ただ、堀の「俺、木村」という台詞での間合いと、満間のテンションの濃淡には過去2回にはなかったアクティングで俳優としての進歩を感じた。
2012年5月13日@早稲田大学演劇研究所アトリエ

歌舞伎十八番の内『毛抜』
粂寺弾正 中村 橋之助
腰元巻絹 中村 扇 雀
秦民部 中村 錦之助
小原万兵衛実は石原瀬平 市川 男女蔵
小野春風 中村 国 生
錦の前 坂東 新 悟
八剣玄蕃 片岡 亀 蔵
秦秀太郎 市村 萬次郎
小野春道 坂東 彦三郎

上演口上
中村 勘三郎

志賀山三番叟

三番叟 中村 勘九郎
千歳 中村 鶴 松

『髪結新三』
髪結新三 中村 勘三郎
家主長兵衛 中村 橋之助
下剃勝奴 中村 勘九郎
車力善八 片岡 亀 蔵
娘お熊 坂東 新 悟
加賀屋藤兵衛 市川 男女蔵
後家お常 市村 萬次郎
弥太五郎源七 坂東 彌十郎
手代忠七 中村 梅 玉

夜の部には、豪快な粂寺弾正が御家乗っ取りの企みを暴く一場面をおおらかに描いた、歌舞伎十八番の内『毛抜』、江戸中村座とゆかりの深い舞踊で、今日「舌出し三番叟」として親しまれる『志賀山三番叟』、髪結いの新三が見せる小悪党ぶりが小気味よい、江戸の初夏を感じさせる河竹黙阿弥の名作『髪結新三』をご覧いただきます。

「圧倒的な劇空間を創りだした中村座」
平成中村座五月大歌舞伎夜の部はユーモアに溢れた橋之助が創りだす「毛抜」と、勘三郎だけでなく例えば、鰹売りに至るまでの見事なアンサンブルで見せる、現代的笑いを強調した悪党芝居「髪結新三」。中村小山三と勘三郎の二人の「口上」では歌舞伎の歴史と人間関係の大切さを感じさせられジーンとさせられた。そして昼夜に渡って大車輪の勘九郎のキリリとした折り目正しい舞踏に襟を正される「三番叟」は照明にもこだわっていた。素人目には分からないところをおざなりにしない、この若き俳優の姿に感銘させられる。勘九郎は観るたびに新しいものを見せてくれる。毎回毎回高みにあがっていく姿に感銘せずにいられない。平成中村座ファイナル5月公演、夜の部は楽しみと感銘に溢れた4時間20分。満腹のフルコース
であった。2012年5月11日@隅田公園内 平成中村座仮設劇場

『本朝廿四孝』十種香
八重垣姫 中村 七之助
腰元濡衣 中村 勘九郎
原小文治 片岡 亀 蔵
白須賀六郎 坂東 橘太郎
長尾謙信 坂東 彌十郎
武田勝頼 中村 扇 雀

『四変化 弥生の花浅草祭』
武内宿禰 / 悪玉/国侍/獅子の精 市川 染五郎
神功皇后/善玉/通人/獅子の精 中村 勘九郎

『め組の喧嘩』
め組辰五郎 中村 勘三郎
辰五郎女房お仲 中村 扇 雀
四ツ車大八 中村 橋之助
露月町亀右衛門 中村 錦之助
柴井町藤松 中村 勘九郎
おもちゃの文次 中村 萬太郎
島崎抱おさき 坂東 新 悟
ととまじりの栄次 中村 虎之介
喜三郎女房おいの 中村 歌女之丞
宇田川町長次郎 市川 男女蔵
九竜山浪右衛門 片岡 亀 蔵
尾花屋女房おくら 市村 萬次郎
江戸座喜太郎 坂東 彦三郎
焚出し喜三郎 中村 梅 玉

昼の部には、戦国の世の武田信玄と上杉謙信の争いを軸にした『本朝廿四孝』より八重垣姫の一途な恋を描く「十種香」、五月浅草の風物詩、三社祭の斎行七百年を記念し、祭の山車人形が踊りだす躍動感あふれる舞踊『四変化 弥生の花浅草祭』、粋でいなせな鳶と豪快な力士との華々しい喧嘩を活写した江戸世話物の傑作『め組の喧嘩』を上演いたします。
「より歌舞伎公演らしい5月公演」
 4月公演が昼夜とも通し狂言だったのに対し、昼の部は「め組の喧嘩」をメインにしてさまさまな歌舞伎の演目を並べた「いつもの」歌舞伎公演であった。特にメインディッシュが、4月の「法界坊」と似ていることもあり比較してしまう。そうなると渦巻いて盛り上がっていくものまでとはならなかった。もちろん「弥生の花 浅草祭」などのように舞踏の面白さを満喫させてくれるものもあった。

2012年5月9日@隅田公園内平成中村座仮設劇場
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プロフィール
HN:
佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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