佐藤治彦のパフォーミングアーツ批評 忍者ブログ
自ら演劇の台本を書き、さまざまな種類のパフォーミングアーツを自腹で行き続ける佐藤治彦が気になった作品について取り上げるコメンタリーノート、エッセイ。テレビ番組や映画も取り上げます。タイトルに批評とありますが、本人は演劇や音楽の評論家ではありません。個人の感想や思ったこと、エッセイと思って読んで頂ければ幸いです。
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山田洋次監督作品 山田洋次共同脚本





松竹映画の伝統を引継いだ21世紀の「東京物語」

山田洋次監督は小津安二郎とは全く違うと思っている。小津さんが、日本のビスコンティのような、中流家庭を扱いながらも、その美術や絵の凝り方、絵の削ぎ方が貴族趣味といっていいほど高いものに対して、山田洋次監督のものは、もっと自然体である。家庭の雑然とした世界の良さをものすごく大切にする。松竹の監督であっても別物だよなあと思っていたけれども、「東京物語」の舞台版を山田洋次さん演出で新派の芝居として見たことがあってそれは別物であるけれども、「東京物語」の核になる部分をきちんと捕えた作品に仕上げているのでとても感動した。1950年代の映画「東京物語」のオマージュでありつつ、それは21世紀の3/11以降の日本社会を背負った芝居の「東京物語」だったからだ。
 映画版も同じであった。冒頭の風景シーンなど小津映画の手法そのままで、いま小津さんならいったいどんな風景を撮るだろうか?と思っていたら、なるほどねと思った次第。カメラの位置もローアングルだったり、台詞の言わせ方なんかも小津映画の手法を意識して作品は始まる。おおよそのプロットは「東京物語」なのだが次第に小津的な要素は山田洋次監督の世界に昇華されていく。  ただ、この手法難しいらしい。名うての俳優でありながらも、特に冒頭の幾人かの俳優の芝居の下手さには驚いた。これでOKなのかと思った。演技陣では、橋爪功、吉行和子はさすがに旨い。つけいる隙のない演技を見せる。だからといって旨さを際立たせるようなことも何もしない。なりきり、さらけだし、削ぎ落としているのに見せるのである。まあ予想通り、彼らよりも感心したのは妻夫木聡と蒼井憂の演技である。橋爪、吉行に匹敵する名演技を披露する。特に妻夫木の役柄はとても難しい。それが名演。何て男だ。感心した。
 そして、落語は旨いかいいのかは分からないが林家正藏。この人の演技も見事である。先に書いた4人の演技が自然体、なりきり、さらけだし…だとすると、正蔵の演技はもう少し芝居がかっているけれども、その加減さが見事なのである。
 今回の主役は妻夫木であった。妻夫木が母と父に家族として、深く受けいられていく話であった。そういう意味で、「東京物語」とはチト違う。
 久しぶりに映画館で松竹映画を見て、この映画などはきっとDVDで十分と思う人が多い映画なのであろうが、やはり映画館で見る映画はいいなあと思った。僕がふと落涙したあとにすすり泣く声が廻りから聞こえ始める。いやそれ以前から場内の空気が共有される。いい空間であった。
 この幸福感はかつて寅さんを上野や浅草で見た時のそれと共通しているものがあった。山田洋次は、名匠小津安二郎の大切なものは残しつつも完全な山田洋次映画、そして、それは21世紀の松竹映画の代表作となる作品を生み出したのだ。それは、日本文化の財産でもある。
 2013年3月2日@渋谷シネパレス

追記: 個人的に嬉しかったのが「男はつらいよ」のレギュラー出演者でありながら、いつの間にか存在感がものすごく薄くなった寅やの店員、三平ちゃん役の北山雅康さんが出演していたこと。
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監督/トム・フーパー 脚本/クロード=ミシェル・シェーンベルク、ウィリアム・ニコルソンほか
撮影 ダニー・コーエン

ジャン・バルジャン…ヒュー・ジャックマン
ジャベール…ラッセル・クロウ
ファンティーヌ…アン・ハサウェイ
コゼット…アマンダ・サイフリッド
マリウス…エディ・レッドメイン
エボニーヌ…サマンサ・バークス
マダム・テナルディエ…ヘレナ・ボナム=カーター
テナルディエ…サシャ・バロン・コーエン

舞台の映画化の欠点をついに克服。
ミュージカル舞台の映画化は失敗作のオンパレードである。数年前に「オペラ座の怪人」が映画化されるときにどれだけの期待があっただろうか?マドンナをキャスティングしたニュースは「エビータ」こそ成功するミュージカル映画だと思われた。華麗なキャスティングで見事に大コケした「ナイン」を見つつ映画ではどれだけ素晴らしいかを言いたかった人は少なくないはずである。舞台でそのミュージカルを知っているものの多くは、ああ、舞台の方が何倍もいいなと思うのである。近年成功したミュージカル映画は「シカゴ」と「ヘアースプレー」くらいである。「シカゴ」は魅力的なキャスティングで成功したのであって、カメラワークで必死にオリジナル性を出そうとしている側面よりも、舞台の演出を大幅に取り入れた演出の方が効いていて映像としての挑戦はかなり控えめだ。「ヘアースプレー」は面白いが舞台をそのまま映像化しただけである。「マンマミーア」はアバの音楽とギリシアの映像に救われた。ブロードウェイで21世紀の最大のヒット昨のひとつである「プロデューサーズ」は舞台と同じ主役を得て映像化したものの舞台でもってる爆発力はついに得ることはできなかった。
 舞台のすごさである。ミュージカル映画の歴史を振り返っても映像のミュージカル映画は、1950年代のアステア、ジーンケリーといった名うての芸人の魅力を記録したものの、映像の魅力を徹底的に見せたのは「パリのアメリカ人」のラストシーンくらいである。あれは革命的な映像美であった。それ以外では、ミュージカル映画の巨匠とはいいがたい、ロバートワイズが監督した「ウエストサイド物語」「サウンドオブミュージック」の空撮など映像でしか見ることができない徹底的な開放感によって舞台を映像化する意味合いを保っているのである。「マイフェアレディ」などは、完全に舞台の演出に敗北宣言した映画であり、オードリーヘップバーンの魅力はあっても、映像リアリズムはそこにはない。他には「シェルブールの雨傘」「ジーザスクライストスーパースター」「スイートチャリティ」といった作品があるくらいだ。
 映画史において「レ・ミゼラブル」が特筆されるのは、舞台の演出を乗り越えた映像ならではの作品になっているだけでなく従来のミュージカル映画の決定的な欠点を見事に見抜いた新しい演出を用いたことにある。それは、役者に録音に服従させて演技をさせるのではなく、演技をメインにおいたことである。この全編が歌で綴られる作品において、役者は生で唄い、それを収めているのだ。オーケストラは後で演奏されたと聞いている。それによって、演技が舞台と同じ様に生になった。気持ちがきちんと入り、それがスクリーンから観客に届く様になった。声を聞かせるのではなく、演技が歌に寄って表現される様にしたのだ。この効果は絶大だ。最近はだれ気味だった観客席の緊張感は特筆もので、何回も舞台でみたこの作品を最初から最後まで飽きずにみることができた。また、映像化されることによって、舞台ではなかなか分からなかった物語の背景や人間関係もすごくくっきりすっきりした。中にはやりすぎだなとか、CG処理か!と感じさせすぎるカメラワークにはシラケるが、この作品はミュージカルの映画化の歴史の中で特筆すべき傑作となった。
2013年2月24日@渋谷東宝シネマ5
振付/ジャンコラリ、ジュールペロー、マリウスプティパ
改訂振付/コンスタンチン・セルゲーエフ
照明/沢田裕二
美術/ヴェチャスラフ・オークネフ
井田勝大・指揮/東京交響楽団

ジゼル:ダリア・クリメントヴァ
アルベルト:ワディム・ムンタギロフ
ミルタ:堀口 純
ハンス:古川和則
クールランド公爵:マイレン・トレウバエフ
バチルド:楠元郁子
村人のパ・ド・ドゥ:寺田亜沙子 江本 拓
ドゥ・ウィリ:丸尾孝子、厚木三杏

日本のバレエカンパニーの力と課題を認識。
10日もしない間に「ジゼル」を再びみるとは不思議である。しかし、ローマと東京で見比べてその違いが明確に浮き上がった。振付けも技術も日本の群舞はローマを超えている。例えば、彼女たちは斜めにきちんとポジションを取り、カウントも音楽もよく聞いてその見事な調和は見ていて感嘆してしまう。ローマだったら、お互いが接触してしまうのではないかと思うくらいの距離感で立ち、踊ることもできる。だから、見ていて美しい。また、20年前のダンサーと違い肉体的な魅力も大いに増した。演技力も見事である。しかし、その魅力は英國やロシアのバレエ団のそれに似ていて、どちらかというと深く内向きで端整でおごそかである。放たれる光のような明るさと生命の悦びに満ちたイタリアのバレエカンパニーとは違うベクトルなのである。私はどちらも評価するのだが、どうだろう。その両方の魅力を兼ねているパリオペラ座の見事さを思い出さずにはいられないなあと思った次第。イングリッシュナショナルバレエの二人のゲストはどうだろうか?主役には、超絶技の技術力で、また、演技や持っている肉体の放つ魅力で、観客を熱狂させねばならない。今宵の二人も悪くはないが、ローマのそれと比べるとあまりに英国的であった。水墨画の魅力よりも、華やかな色を使った油絵の魅力の方が分かりやすいからという具合。
2013年2月22日@新国立劇場オペラパレス

Argo 監督/ベン・アフレック 脚本/クリス・テリオ
製作 ジョージ・クルーニー グラント・ヘスロヴ ベン・アフレック
出演者 ベン・アフレック、ブライアン・クランストン、クレア・デュヴァル、アランアーキン、ジョン・グッドマン
マイケル・パークス、テイラー・シリング、カイル・チャンドラー
撮影/ロドリゴ・プリエト 編集/ウィリアム・ゴールデンバーグ



一級のエンタティメント映画

腐敗に満ちたパーレビ国王を退陣させ、清廉潔白であるが世界秩序には歓迎される人とはいえないホメイニ師を表舞台に登場させた「イラン革命」は、その後の40年にも渡る対アメリカの始まりでもあった。1970年代のカーター大統領は人質に取られたアメリカ人を救出するために余りにも多くの代償を払った。当時の今とは全くの様相の違う時代を、でも多くの人がまだ何が正解か覚えている1970年代の映像をアフレックは見事に映像化することに成功した。ここでは、政治的なメッセージはなく、スリル、サスペンス、アクションを徹底的に楽しませてくれるエンタティメント映画になっていると同時に、現代のアメリカ政治史における傷であり、忘れたい出来事であった歴史のはずが、こんなこともあったんだぜ、やっぱアメリカスゲーと思いたいアメリカ人にとっては拍手喝采の映画であろう。オスカー作品賞はそういうドライブの掛かった受賞だと思う。もちろん、面白い一級のエンタティメント作品に仕上がっていることは事実である。2013年2月20日
監督/ジョシュ・ラドナー
出演/ジョシュ・ラドナー/エリザベス・オルセン/ リチャード・ジェンキンス/ ジョン・マガロ/マイケル・ウェストン/エリザベス・リーサー/ アリソン・ジャニー

ストーリー…仕事に行き詰った 35歳のジェシーは母校の講演に招かれ、そこで 19歳の学生ジビーと出会う。 二人は親交を深め、ジェシーはジビーから 前向きに生きる勇気を得る...



サンダンス映画祭から出て来た佳作。監督自らが出演しているわけで、低予算ながら見ていて楽しい佳作に仕上がっている。中年になって独り者になった男が、再び愛を受け入れるまで、それも自分がタブー視していたことを受け入れるまでのラブコメディ。2013年2月19日
オペラ「ラ・フーガ・イン・マスケラ」(La fuga in maschera) 
LA FUGA IN MASCHERA

作曲 /Gaspare Spontini
台本/libretto di Giuseppe Palomba
演出/ Francesco Lanzillotta
美術/ Benito Lenori

Elena: Ruth Rosique/Laura Giordano
Olimpia: Caterina Di Tonno
Corallina: Alessandra Marianelli
Nardullo: Clemente Daliotti
Marzucco: Filippo Morace
Nastagio: Alessandro Spina
Doralbo: Dionigi D'Ostuni
Orchestra del Teatro di San Carlo

完成度の低い公演を極上の宮廷劇場で
美しい宮廷劇場で展開されたのはそれにふさわしいバロックオペラであったが、美術や演出が中途半端なモダンなために集中力を保つのが大変であった。バロックをそこまでカンタービレしなくてもいいのにと思いつつ、やはりメロディを唄うイタリアで聞いているのだと思ったり、ドイツ的なストイックな演奏がバロックの正統と思ってしまっているのかもしれない。歌手はこぶりの劇場ながらなかなか聞かせてくれる人もいない。演技も中途半端。それでも憧れのサンカルロ歌劇場の公演を現地で聞けたのだから良かったとしなくちゃいけないのかもしれない。が。




2013年2月13日@ナポリサンカルロ歌劇場、王宮・宮廷小劇場


Choreography Carla Fracci
after Jean Coralli, Jules Perrot, Marius Petipa e Anton Dolin
Coreographic Assistant Gillian Whittingham
Conductor Alessandro D’Agostini
Sets Anna Anni
adapted for Caracalla by Dario Gessati
Costumes Anna Anni
Director Beppe Menegatti


Cast
Giselle Oksana Kucheruk (12)
Albrecht Igor Yebra (12)/
Myrtha Dalila Sapori (12)
Hilarion Vito Mazzeo (12)
ORCHESTRA E CORPO DI BALLO DEL TEATRO DELL’OPERA
Production of the Teatro dell’Opera

華の魅力はいろんなものを超越してしまう。
ジゼルの実演はほとんど見ていない。ただ、最初のそれがパリオペラ座の来日公演の見事な公演であった。1970年代半ばのまだ伝説の…といわれるダンサーが現役のころだ。
イタリアのカンパニーのバレエの公演に関して、最初にみた80年代のミラノスカラ座バレエ団の来日公演の印象が強過ぎてポジティブなイメージしかない。美しく華麗な美術と衣装、照明。そして、何よりもダンサーたちが美しく華やいでいる。それは、今回の公演でも同様であった。例えば、群舞では揃わないし、ソリストもミスをどんどんやらかすのであるが、生きる喜び、踊る悦びに満ちたエネルギーがステージから伝わってくるのだ。華がある公演ということであろうか。ロシアやイギリス、そして、日本のカンパニーにはない魅力なのだ。バレエの専門家、評論家がなんというかは知らない。技術的なことを考えるといろんなことが言えるのだろうが、そんなものは生の舞台芸術では言いようもない魅力を放ち観客の熱狂を得て超越してしまうのだ。
2013年2月12日@ローマ歌劇場

監督・脚本/ニコラス・ジャレッキー
撮影/ヨリック・ル・ソー
キャスト リチャード・ギア スーザン・サランドン ティム・ロス


鞘取りを意味する「アービトラージ」というタイトルを捨てていやあ安っぽいタイトルにしたものだ。リスクの高い金融取引をしている金融マンのサスペンス映画で、男は家族にさまざまな隠し事があったりするのだ。ゴージャスな生活を垣間みれる楽しみがあるが、人間関係の描き方は割と平板で、リチャードギアは頑張っているけれどもミスキャストである。ま、一度ぼんやりと見るのには飽きないしいいと思うけれども。2013年2月11日


一、お種と仙太郎
茂林寺文福 作/平戸敬二 脚色/米田亘 演出

息子夫婦の仲の良さを羨む姑と、その姑にいびられてもジッと耐える嫁、そして姑を懲らしめようと乗り出す家族。笑いの中に様々な形の愛情が盛り込まれています。

大坂でも名高い住吉神社の境内で茶店を営むお岩(英太郎)は、亭主に先立たれてから女手一つで息子の仙太郎(曽我廼家八十吉)と娘のお久(山吹恭子)を育てて来ました。その甲斐あって、お久は良家の丹波屋へ嫁ぐ事が出来、仙太郎は気立てのやさしいお種(山村紅葉)をもらいました。仙太郎とお種は人もうらやむ程の仲の良さ。それがお岩には面白くなく、何もかもに当たりどおし。お種に無理難題を押し付けてはイジワルをしていました。
そんなある日、たまたまお岩がお種をいじめているところに出くわした丹波屋の御寮人・おせい(井上惠美子)。これではあまりにもお種が可哀相と、息子の新二郎(丹羽貞仁)と嫁・お久に一計を授けて、お岩の心を正そうと乗り出したのですが…。

二、大当り高津の富くじ -江戸育ち亀屋伊之助-
平戸敬二 作/成瀬芳一 補綴/門前光三 演出

上方落語の名作「高津の富」をヒントに舞台化された作品。伊之助は上方和事の“つっころばし”で演じられていましたが、今回は中村梅雀に当てて江戸育ちに設定を変え、江戸前の気前のいい若旦那・伊之助をご覧頂きます。

伊之助(中村梅雀)は、浪花の紙問屋・亀屋の後取り息子ですが、江戸育ちで「宵越しの銭は持たぬ」と色街で放蕩三昧。見るに見かねた父親は伊之助を勘当します。伊之助が転がり込んだ先は、亀屋へ親の代から出入りしている大工の棟梁・辰五郎(渋谷天外)の家。ひとかたならぬ恩義を感じている辰五郎は女房のおとき(山村紅葉)や小頭の市三(曽我廼家寛太郎)と共に快く伊之助を迎え入れます。
 そんなある日、亀屋の御寮人・おこう(水谷八重子・波乃久里子交互出演)が辰五郎を訪ね、贅沢罷りならぬのお布令により上質の紙の売れ行きが落ち、老舗を誇る亀屋も五百両の金が無くてはのれんを降ろさなくてはならないという窮状を吐露しました。そんなこととは露知らぬ伊之助は、女義太夫・りん蝶(藤田朋子)や芸者・色香(瀬戸摩純)など困っている人に出会う度に、人の難儀が金で救えるものならと次から次へと金と引き換えに人助けをして行きます。
 世の中を甘く見ていた伊之助に、初めて金の有難味が分かる時がやって来ます。それは何気なしに買った一枚の富くじでした…。

三、おやじの女
安藤鶴夫 原作/舘直志 脚色/成瀬芳一 演出

亡くなった兄の妻と愛人との悶着の間で、弟が右往左往する可笑しみを描いた、新派の味に近い新喜劇作品。水谷八重子・波乃久里子・渋谷天外という劇団新派と松竹新喜劇の本格的な共演作品にご期待下さい。

死んだ親父の名は都路太夫。歌舞伎の義太夫語りでした。酒は呑む、女道楽はするで、さんざんしたい放題し尽くしたのにも関わらず、人からは「ええ人やった」と言われて大往生。特に太夫の相方の三味線弾きだった実弟・半助(渋谷天外)にとっては、夫に死なれた後家の心境です。息子の藤一郎(丹羽貞仁)は、父親の性格とは反して、地道な会社員となり、妻・はつ子(石原舞子)妹・やす子(藤田朋子)と共に母親・つる(波乃久里子)への親孝行も怠りませんでした。
 父親の百ヶ日も過ぎた或る日、姫路から生前のおやじの女・花村よね(水谷八重子)が、線香をあげさせてほしいと、知人である大隅社長(高田次郎)を通じて頼んで来ました。幼時、およねのために嫌な思いをした藤一郎は、この申し出を断りますが、おつるのひと声で迎え入れる事になりました。
 浮気をされながらも誰よりも夫に惚れていたおつるの気持ちを一番理解していた半助は、やってきた兄の愛人・およねが、おつると共に仏前で二人並んで合掌している後姿に憎悪より懐旧の思いへの変化を感じとりホッとするのですが。それも束の間…。

キャスト/水谷八重子 波乃久里子 中村梅雀 渋谷天外 ・藤田朋子 山村紅葉 丹羽貞仁 高田次郎 英太郎 井上惠美子 田口守 瀬戸摩純 曽我廼家八十吉 曽我廼家寛太郎 石原舞子 井上恭太 

芝居小屋の楽しさに溢れた演劇玉手箱
歌舞伎座が閉まってしまっていたから新橋演舞場は仮歌舞伎座みたいな劇場になっていたので、こういう芝居が東京でほとんど見られなかった。いやあ行って良かった。今回は3本だて。その上演時間は50分、75分、75分。この短い時間でこれだけの要素が詰まっているとは驚くばかり。笑って泣ける人情喜劇の王道の芝居が3本。それも、125周年の新派と松竹新喜劇の合同公演の様相。名優が多いのだが、誰かひとりの芸を中心に見せる座長芝居にドライブがかかってないのも嬉しい。楽しい。飽きない。いろんな要素の詰まった演劇玉手箱、演劇万華鏡である。演舞場であるが、芝居小屋の雰囲気。ストーリーで見せる。役者の芸で見せる。お見事、お見事なのだ。水谷八重子、波乃久里子、中村梅雀、渋谷天外、高田次郎は旨いことは知っていたが、英太郎がこんなに旨い俳優なのだと今回改めて実感。この人は三越劇場よりも演舞場の箱の大きさが合うんだなああ。50分の中で後半はもうちょこっと動いただけで笑えるのだ。お見事!
 山村紅葉はテレビの芝居では何かウルサいなあと思うこともあったけれども、舞台ではこんなこともあんなこともできると感心することしかり。そして、田口守!この人は本当に昭和の加藤大介や宮口守といった昭和の名優と相通じる旨さ。シリアスもコメディも怪演もできる俳優さん。スゴいなあ。スゴい!三木のり平さん演出の舞台でも見てみたかった。この人、もちろん新派の舞台でも毎回名演技。見た目の派手さはないかもしれないがロバートデニーロ系の芝居をする。つまり、でる芝居によって化けるのだ。今回も見事に化けていた。
 自分もこういう芝居を書いてみたいし、こういう腕のある役者さんと芝居がしたいなあと思った次第。さらに、もうひとこと。今回生まれて初めて演舞場の3階席で見た。これが案外舞台に近くて細かい芝居もきちんと見られて驚いた。チケ代も小劇場くらいの安さ。松竹の偉いところは、1等席も作るけれども、こうした格安でも芝居を見せるところ。もう一度見たい。今度は1階席で。最後に辛口のことを一言。井上恭太は新派のホープ、二枚目である。若いから小さい役でも舞台に乗る。その時の芝居が細か過ぎて残念。二枚目なのだから、無理にアンサンブルにとけ込まずにドーンと立っていて欲しい。特に上半身が動きすぎる。ドーンと立って最低限の芝居だけしていれば、客が見つけてくれるもの。長谷川一夫はあんなに動かなかった。2013年2月10日@新橋演舞場
作/橋田壽賀子 演出/石井ふく子
出演/藤山直美 三田佳子 小林綾子 金子貴俊 橋爪淳 沢田雅美 他


必見!藤山直美×三田佳子の超名演。橋田台本のスゴさ!
舌を巻く公演であった。橋田壽賀子の本は演劇の王道だけれども、現代的なスピーディさ。そして、終わり方も結構アバンギャルドで面白かった。藤山直美はやはりお見事。泣かせるし笑わせる。本を使って、彼女の強烈なキャラで、身体を使って演じる。お見事。驚いたのは三田佳子。立ち方から台詞の良い方までテレビや映画で見たことがない。そして、身体が本当に良く動く。三田佳子が大女優であることが本当に良くわかった。小林綾子も金子貴俊もお見事で本当に楽しかった。老若男女が大喜び、大泣き。2幕になると客が興奮してガンガン話すのが困るけれども。。。。勉強になった。こういう芝居が好きだ。こういう芝居を書いてみたい。こういう芝居ができる俳優と芝居がしたい。
2012年2月9日@明治座
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佐藤治彦 Haruhiko SATO
性別:
男性
職業:
演劇ユニット経済とH 主宰
趣味:
海外旅行
自己紹介:
演劇、音楽、ダンス、バレエ、オペラ、ミュージカル、パフォーマンス、美術。全てのパフォーミングアーツとアートを心から愛する佐藤治彦のぎりぎりコメントをお届けします。Haruhiko SATO 日本ペンクラブ会員
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